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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第七章 おばあちゃんはパルチザン
48/81

戦争しか知らない大人たち

1960-1965コンゴ動乱

1977第一次シャバ紛争

1978第二次シャバ紛争

1996-1997第一次コンゴ戦争

1998-2003第二次コンゴ戦争(アフリカ大戦)

1999-2007イトゥリ紛争

2003ボゴロ大虐殺

2003月の女神(アルテミス)作戦

2004-2013キヴュ紛争

2005北の夜最終(NNF)作戦

2007-2019民主連合軍(ADF)暴動

2008北キヴュ作戦

2008-2012イトゥリ愛国戦線(FRPI)攻勢

2009東コンゴ攻勢

2009ドンゴ紛争

2011クーデター未遂事件

2012-2013M23反乱

2013キンシャサ攻撃


========

-2046年2月2日 18:05-


「なんじゃこりゃ?」

『この国が、ベルギーから独立して以来の歴史。その戦乱の歴史よ』

戦争に紛争、暴動に攻勢、反乱に攻撃。

「平和だったときが無いじゃんか!」


ジュリアの部屋で一緒にモニタを眺める櫻井であった。

「あ、この辺りは平和だったんだな」

1966-1976の10年間を指して、櫻井が言った。


『1965-1997まで、独裁政権だったわ』

モブツ・セセ・セコ・クク・ンベンドゥ・ワ・ザ・バンガによる、とジュリア。

「モブツ・セセ・ココ…」

『モブツ・セセ・セコ・クク・ンベンドゥ・ワ・ザ・バンガ、よ』

寿限無かよ、とげんなりする櫻井。


『この国で権力を持っている者、彼らが生まれた頃、この国は独裁政権だった』

そして、とジュリアは続ける。

『彼らが少年の頃、第一次コンゴ戦争が始まり、その後何十年も戦争が続いた』


「戦争しか知らない子供たち、か」

10年前まで、日常的に戦乱があった。

否、戦乱こそが彼らにとっての日常だった。

その環境が形成した人格、それは戦争を知らない櫻井の想像を超えているだろう。


『10年前、やっとこの国に平和が訪れた』

ジュリアの双眸に涙が溢れる。

『なぜ、彼らは昔に戻ろうとするの?』

櫻井は、その答を持っていなかった。


========

-2046年2月2日 18:10-


人類(ヒト)は、生まれ育った環境を最も好むように育つ」

クリンが呟く。

「ヒトだけじゃない。僕らも、ライオンも、象も、哺乳類は大体そうだ。そう感じるように脳が初期設定(チューニング)される」

アサラトとジャンベの毛づくろいを受けながら、でも、いつものような幸せを感じられないクリン。


「幼児期のそのチューニングは、人格の根本を形作る」

つまり

「後天的な教育では変えられない」


「なぜ、そんなことになるの?」

ジャンベの問いに、クリンは応える。

「幼児期の環境を好むように成長した方が、生存確率が高まる」

身動きし、毛づくろいして欲しい部分をアサラトに向ける。


「多くの哺乳類は、幼児期に良い環境に居た者だけが、成長し子孫を残せる」

幼児期に悪い環境に居る者は、全て淘汰される。

「だから、そのチューニングは有効だ」

進化が、そのチューニングを選択する。


だがヒトは、客観的には劣悪な環境でも、生き延びてしまう。

多くの哺乳類には有効なそのチューニングが、ヒトにとっては悪い方向に働く場合がある。

「戦乱の中で育ち、成長してしまった者は、戦乱を好むようになってしまう」


全ての毛の縺れを解き、アサラトが背中を向ける。

クリンは呟きを止め、アサラトの毛づくろいを始める。

「平和の方が良い、と理解していても本人にはどうしようも無いのね」

ジャンベの手の動きが止まり、クリンの頭をポンポンと叩くと、彼女は立ち上がる。


========

-2046年2月2日 19:20-


「イナンガ、食堂の番組選択は注意してね」

ジャンベの言葉に頷くイナンガ。

「ムベト、第2世代の会話に注意して。バーに来なくなる者にもね」

「呑まないヤツはどうフォローする?」

「毛づくろいの時に、特に注意しておく」

特に心配なのはクリンだ。


「第3世代はどうだ?」

バラフォンが言う。

「今のところ安定してるように見える。でも、実際は分からない」

唯一の第3世代、ジュンジュンが応える。

「お前自身は?」

「大丈夫。今のところは」


「私は貴女も心配なんだけど」

ジャンベが話しかけた相手はコラ。

「私は大丈夫」

疑念の目を向けるジャンベに、オルトゥが助言する。

彼女(コラ)なら心配ない」


「そう、俺たちは手を汚す覚悟はできている」

「できれば汚したくないけどね」

バラフォンとコラも同意する。

ジャンベはそんな彼女らを抱きしめる。

「その時は、私も一緒よ」

「もちろん」


ジャンベは周りを見渡し、第1世代全員の同意を確認する。

そしてジュンジュンにーー彼女の持つカメラに視線を向ける。


「アサラト、貴女がこの映像を観ないことを願う」

でも、と微笑み。

私たち(第1世代)は、貴女たち(第2世代以降)とは違う」


「お前たちのように、人類(ヒト)を群の仲間とは思えない」

バラフォンが言う。


「もちろん、ジュリアやサイム、所長たち研究所の人たちは仲間よ」

でも、とコラ。

「今、私たちを攻撃している見知らぬ人々は、同じ種族とすら思えない」


「思うに俺たちは、お前らより獣に近いんだろうな」

オルトゥが軽い調子で言う。だがその目は真剣だ。

「俺たちは”人間”以前にボノボで、人類は別種だ。そう思っちまう」


「まぁ進化速度で言えば、数10万年か数100万年くらい獣に近いらしいな」

ドゥンドゥンが加わる。

「一方で、人類にもサクライみたいにボノボに近いヤツもいる」

確かに櫻井は、争いよりも性行為。女好き(クズ)なので。


「アサラト、もし貴女がこれを観ているなら、私たちは既に手を汚しーーいえ、言葉を飾るのはやめましょう」

ジャンベが真剣な目でカメラを見る。

その目に、カメラを構えるジュンジュンは恐れを覚える。


「貴女がこれを観ているなら、私たちは既に人を殺している」


「その時、第1世代は全員”息子”には乗らない」

と、コラ。

「俺たちは、ここで果てる」

バラフォンがジャンベとコラの肩を抱く。

「なに、心配することは無い。密林で俺たちに敵う者はいない」

とオルトゥ。


「アサラト。私たちの娘や息子、孫、そしてボノボの未来、任せたわよ」


========


カメラの停止ボタンを押したジュンジュンは、溢れる涙を拭おうともせず、第1世代を見ていた。


たとえ彼女らが言う通り、第1世代が獣に近かったとしても、人を殺すことに忌避感を持たないわけは無い。

彼女らはボノボだから。人類とは根本的に違うのだから。

でも、もし他に方法が無ければ、彼女らは戦う。戦う決意をした。

そして、第2世代が”息子”で旅立った後、第1世代は1人とて生き延びようとしないだろう。


「ジュンジュン、君には辛い役目を負わせてしまった」

ムベトが彼女の肩を抱く。

「私はジャーナリストよ。事実を、皆に伝える存在」

この役目は私以外にできない。私以外には譲れない。

「でもッ!私にとっての真実は、こんなんじゃ無い!」


「皆にとって辛い真実があるなら、その真実を、伝えるべきじゃないと思うなら、飲み込むのもジャーナリストの仕事だ」

カウンタでグラスを磨きながら、ムベトは告げる。

辛い真実、辛い秘密をカウンタの中で飲み込んで来た男だ。


「皆で無事に”息子”に乗れたら、私に一杯奢ってくれる?」

ムベトは右眉を上げ微笑むと、人差し指を唇の前に立てる。

「皆に内緒で、一杯だけ」

とウィンクした。

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