コンゴ国軍、強力な参謀を持つ
-2046年2月1日 10:20-
「構え!銃!!」
数十の銃口が一斉に向けられる。
その先には、数人の兵士が廃ビルの鉄骨に縛り付けられている。
否、元兵士だ。
「待ってくれ!」
「俺、俺は!そんなつもりじゃ!」
「たかが、あんな事くらいで!」
元兵士たちの絶叫が風に流される。
「貴様、こんな事をして無事に済むと思うなよ」
中心に縛られた大男が、きしるような声で射殺隊の中央に座る女へ叫ぶ。彼の胸と肩から外された記章は、大佐のそれだった。
パイプ椅子に座るその女は、その声も聞き流し、一言だけ告げる。
「撃て」
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「首は斬り、鉄条網近くに晒せ」
不燃物の廃棄指示を出すように、ぼそっと女は言う。
「罪状を記した看板も、横に立てておけ」
無言で敬礼し、命令を実行に移すべく走り去る兵士たち。
彼らの顔に血の気は無い。
"冷血"チェベア。
その女の二ツ名だ。
肉親の殆どを銃殺した女だ。
その内の何名かには自ら引き金を引き、涙はおろか汗の1つも流さなかった女だ。
コンゴ国軍を再結成させる際、コンゴ政府AIが選んだのが、この女だ。女性の肉体を持って生まれ、女性として育てられはしたが、心は男--否、漢。
10年前、コンゴの東端、南キヴ州で自衛民兵組織の指揮をしていた女だ。その組織は鉄の規律を持ち、民間人への非人道的行為を決して許さなかった。
先程銃殺された大佐以下7名の罪状は、集団婦女暴行未遂。
7人の晒し首は、"コンゴ国軍は10年前に戻らない"という彼女のメッセージだ。
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空調の効いた作戦室に戻ると、彼女の頭からは先程の射殺の件は消え去った。
「国連軍の作戦は?」
作戦室には計画幕僚の姿もあるが、応えるのは彼ではない。
「首都キンシャサを陸戦部隊により制圧します」
親しみやすい声が、滑らかな口調で応えた。
「キンシャサのコンゴ川を挟んだ対岸。ブラザヴィルに、機甲旅団戦闘団が1旅団、展開しています」
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コンゴ民主共和国の首都キンシャサは、コンゴ共和国との国境沿いにある。
国境であるコンゴ川を挟んで対岸は、コンゴ共和国の首都、ブラザヴィル。
この2国は、元はコンゴ王国という1つの国だった。
16世紀、西洋に征服され分割統治された。その後、独立した際も分割は続いた。
ベルギー領だった部分がコンゴ民主共和国
フランス領だった部分がコンゴ共和国
2国の首都は、コンゴ川を挟み1~2kmの近さ--双子都市となっている。
交流も盛んで、共和国の住人が民主共和国に職場を持つことも多い。そして逆も。
開戦までは。
開戦後、共和国は国連に屈し、民主共和国の敵国となった。
但し、共和国軍はこの戦争には参加しない。
国連軍の情報すら、与えられなかった。
“現実”には。
事実は異なる。
共和国国民の多くは、民主共和国製の端末を持ち、ニュースソースは民主共和国発信。
国連軍のていたらくはダダ漏れ。
国連軍の作戦もダダ漏れ。
秘密作戦については、軍兵士より民間人が良く知っている状態になっていた。
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「ブラザヴィルの機甲旅団戦闘団は囮だな」
"冷血"チェベアが言う。
「機甲部隊で、スタンリープール大橋を渡るバカは居ないだろう」
スタンリープール大橋は、キンシャサとブラザヴィルを結ぶ橋で、開戦前は朝夕の通勤ラッシュが名物だった。
だが今は封鎖され、双方が設置した爆薬が点火の時を待っているだけだ。
親しみやすい声が、滑らかな口調で続ける。
「一方、アンゴラのノーキ近郊に、大規模な歩兵旅団戦闘団が集結しています」
アンゴラは、共和国とは逆側、民主共和国の南側にある国だ。
「どう見ても、こちらが本命です」
言わずもがなの説明を、計画参謀が口にする。
ノーキからキンシャサまでは、国道1号線で約350km。
「先ず、ノーキ近くの都市マタディを侵略するはずです。作戦開始時期は約1週間後」
チェベアが右眉を上げる。
上官の疑問を察した計画参謀が、机上に衛星写真を映し出す。
「ハァっ!こいつを持ち出して来たか」
「ズムウォルト級駆逐艦1番艦が1週間後に到着します。なおそれに先立ち、2番艦が、5日後にブラザヴィルに到着予定です」
国連軍の作戦はこうだ。
マイケル・モンスーアをブラザヴィルに到着させ、コンゴ国軍の主力をそちらに向かわせる。
そのスキにマタディを侵略し、拠点とする。
その後、キンシャサに進軍する。
「主砲の有効射程距離は200km超。力技で制空権を奪われましたね」
参謀の言葉に、情けない顔でズムウォルトの写真を眺めるチェベア。
ズムウォルト級駆逐艦の主機は2038年に換装され、ミューオン触媒核融合炉になっている。
そして、主機から供給される大電力を使用したレールガンが、主砲として搭載されている。
この主砲なら、コンゴ国外からの砲撃により、近傍を飛ぶ航空機を全て撃墜可能だ。
「やっぱこれ、沈めなきゃダメかな?」
作戦室内の幕僚全員が首を縦に振る。
「だって俺、この艦好きなんだよ…」
「リーダの好みなんて聞いてません」
ケンもホロロな幕僚である。
ちなみにチュベアの一人称は「俺」。肉体は女でも心は漢。
はぁ~~~~~
深い溜息をつくチェベア。
「ま、仕方ねぇか」
切り替えが早いのは、さすがの"冷血"である。
「次に、我々の"弱点"だが、何か対策はあるか?」
彼らが認識している軍事上の"弱点"、それは軍事物資の不足だ。
いかにコンゴが高い技術力を持っていても、長年磨き上げられた経験には劣る。
銃弾などの軍事物資だけは、輸入に頼らざるを得ない。
長年付き合いのあった武器密輸業者も、さすがに全世界を敵には回せない。輸出入を禁じられたコンゴは、生活用物資こそ豊富だが軍事物資は乏しい。製造ラインすら無い。
「良い方法があります」
コンゴ政府AIが、親しみやすい声、滑らかな口調で応えた。




