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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第六章 第二次アフリカ大戦、勃発
47/81

コンゴ国軍、強力な参謀を持つ



-2046年2月1日 10:20-


「構え!(つつ)!!」


数十の銃口が一斉に向けられる。

その先には、数人の兵士が廃ビルの鉄骨に縛り付けられている。

否、()兵士だ。


「待ってくれ!」

「俺、俺は!そんなつもりじゃ!」

「たかが、あんな事くらいで!」

元兵士たちの絶叫が風に流される。


「貴様、こんな事をして無事に済むと思うなよ」

中心に縛られた大男が、きしるような声で射殺隊の中央に座る女へ叫ぶ。彼の胸と肩から外された記章は、大佐のそれだった。

パイプ椅子に座るその女は、その声も聞き流し、一言だけ告げる。


「撃て」


========


「首は斬り、鉄条網近くに(さら)せ」

不燃物の廃棄指示を出すように、ぼそっと女は言う。

「罪状を記した看板も、横に立てておけ」


無言で敬礼し、命令を実行に移すべく走り去る兵士たち。

彼らの顔に血の気は無い。


"冷血"チェベア。


その女の二ツ名だ。

肉親の殆どを銃殺した女だ。

その内の何名かには自ら引き金を引き、涙はおろか汗の1つも流さなかった女だ。


コンゴ国軍(FARDC)を再結成させる際、コンゴ政府AI(B・B)が選んだのが、この女だ。女性の肉体を持って生まれ、女性として育てられはしたが、心は男--否、漢。

10年前、コンゴの東端、南キヴ州で自衛民兵組織(マイ・マイ)の指揮をしていた女だ。その組織は鉄の規律を持ち、民間人への非人道的行為を決して許さなかった。


先程銃殺された大佐以下7名の罪状は、集団婦女暴行未遂。

7人の晒し首は、"コンゴ国軍は10年前に戻らない"という彼女のメッセージだ。


========


空調の効いた作戦室に戻ると、彼女の頭からは先程の射殺の件は消え去った。

国連軍(UN)の作戦は?」

作戦室には計画幕僚の姿もあるが、応えるのは彼ではない。


「首都キンシャサを陸戦部隊により制圧します」

親しみやすい声が、滑らかな口調で応えた。

「キンシャサのコンゴ川を挟んだ対岸。ブラザヴィルに、機甲旅団戦闘団(ABCT)が1旅団、展開しています」


========


コンゴ民主共和国の首都キンシャサは、コンゴ共和国(・・・)との国境沿いにある。

国境であるコンゴ川を挟んで対岸は、コンゴ共和国の首都、ブラザヴィル。

この2国は、元はコンゴ王国という1つの国だった。

16世紀、西洋に征服され分割統治された。その後、独立した際も分割は続いた。


ベルギー領だった部分がコンゴ民主共和国

フランス領だった部分がコンゴ共和国


2国の首都は、コンゴ川を挟み1~2kmの近さ--双子都市となっている。

交流も盛んで、共和国の住人が民主共和国に職場を持つことも多い。そして逆も。

開戦までは。


開戦後、共和国は国連に屈し、民主共和国の敵国となった。

但し、共和国軍はこの戦争には参加しない。

国連軍の情報すら、与えられなかった。

“現実”には。


事実は異なる。

共和国国民の多くは、民主共和国製の端末を持ち、ニュースソースは民主共和国発信。


国連軍のていたらくはダダ漏れ。

国連軍の作戦もダダ漏れ。

秘密作戦については、軍兵士より民間人が良く知っている状態になっていた。


========


「ブラザヴィルの機甲旅団戦闘団は囮だな」

"冷血"チェベアが言う。

「機甲部隊で、スタンリープール大橋を渡るバカは居ないだろう」


スタンリープール大橋は、キンシャサとブラザヴィルを結ぶ橋で、開戦前は朝夕の通勤ラッシュが名物だった。

だが今は封鎖され、双方が設置した爆薬が点火の時を待っているだけだ。


親しみやすい声が、滑らかな口調で続ける。

「一方、アンゴラのノーキ近郊に、大規模な歩兵旅団戦闘団(IBCT)が集結しています」

アンゴラは、共和国とは逆側、民主共和国の南側にある国だ。


「どう見ても、こちらが本命です」

言わずもがなの説明を、計画参謀が口にする。

ノーキからキンシャサまでは、国道1号線(N1)で約350km。

「先ず、ノーキ近くの都市マタディを侵略するはずです。作戦開始時期は約1週間後」

チェベアが右眉を上げる。


上官の疑問を察した計画参謀が、机上に衛星写真を映し出す。

「ハァっ!こいつを持ち出して来たか」

「ズムウォルト級駆逐艦1番艦(ズムウォルト)が1週間後に到着します。なおそれに先立ち、2番艦(マイケル・モンスーア)が、5日後にブラザヴィルに到着予定です」


国連軍の作戦はこうだ。

マイケル・モンスーアをブラザヴィルに到着させ、コンゴ国軍の主力をそちらに向かわせる。

そのスキにマタディを侵略し、拠点とする。

その後、キンシャサに進軍する。


「主砲の有効射程距離は200km超。力技で制空権を奪われましたね」

参謀の言葉に、情けない顔でズムウォルトの写真を眺めるチェベア。


ズムウォルト級駆逐艦の主機(エンジン)は2038年に換装され、ミューオン触媒(サイム型)核融合炉になっている。

そして、主機から供給される大電力を使用したレールガンが、主砲として搭載されている。

この主砲なら、コンゴ国外からの砲撃により、近傍を飛ぶ航空機を全て撃墜可能だ。


「やっぱこれ、沈めなきゃダメかな?」

作戦室内の幕僚全員が首を縦に振る。


「だって俺、この艦(ズムウォルト級)好きなんだよ…」

「リーダの好みなんて聞いてません」

ケンもホロロな幕僚である。

ちなみにチュベアの一人称は「俺」。肉体は女でも心は漢。


はぁ~~~~~

深い溜息をつくチェベア。

「ま、仕方ねぇか」

切り替えが早いのは、さすがの"冷血"である。


「次に、我々の"弱点"だが、何か対策はあるか?」

彼らが認識している軍事上の"弱点"、それは軍事物資の不足だ。


いかにコンゴが高い技術力を持っていても、長年磨き上げられた経験には劣る。

銃弾などの軍事物資だけは、輸入に頼らざるを得ない。

長年付き合いのあった武器密輸業者(死の商人)も、さすがに全世界を敵には回せない。輸出入を禁じられたコンゴは、生活用物資こそ豊富だが軍事物資は乏しい。製造ラインすら無い。


「良い方法があります」

コンゴ政府AI(B・B)が、親しみやすい声、滑らかな口調で応えた。

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