第二次アフリカ大戦、開始
第六章が想定以上に伸びたので、章の名前を変えました
-2046年1月25日 10:10-
「君の功績を讃え、本日付で准将に昇進させる」
ワシントンDC郊外の5角形の建物。
歴史あるその1室で、記章が授与された。
新たな将官に対し、司令部は本題に移る。
「准将、君に新たな任務を与える」
それが、本題だ。
「君に国連コンゴ正常化ミッションを任せる」
この瞬間、世界最強の軍隊の一部--米第1軍団東部管区隊が、新任准将の指揮下に入った。
9旅団、総兵員約52,000人。
その気になれば、1国を占領できる武力だ。
本来、准将が指揮できる規模では無い。
「君に期待している、准将」
にも関わらず、統括させる理由がある。
負けた際に、切り捨てるための駒だ。
フォート・ミードは陸戦部隊のみで、空戦部隊が存在しない。
そもそも、制空権が確保できない。
侵入の可能性が高いため、コンゴ国内での電子機器は使用不可。
故に通信は有線、または伝令。
そして火器・装備は、70年以上前の物だ。
軍統制の根幹を成す情報伝達、そして火力の中心となる装備にここまでの技術格差があれば、戦闘に勝利する方が無理である。
早晩、フォート・ミードの兵員は死の河を超えるだろう。
その際、責任を取らせるための生贄、それが准将だ。
「装備は旧式だが、コンゴ国軍は、作戦立案能力、兵員の士気、作戦遂行能力、共に低い」
司令部の要人は、期待を込めた目で准将を見る。
「君にとっては、容易い仕事だろう」
「イエス・サー」
そう簡単には行かない。そう准将は心の中で言う。
司令部が言ったのは事実だ。コンゴ国軍の能力は低かった。
だが情報源は「人権慣行に関する国別報告書」。その名の通り、2020年の調査だ。
それから四半世紀、調査は行われていない。
現在のコンゴ国軍の能力が如何なるものか、それは判らない。
そのことを、准将は知っている。
そのことを、司令部も知っている。
だが、そのことが口頭に登ることは無い。
戦争は、勝てるから行うのでは無い。
戦争をするか否か、それは別の理由で決められる。
開戦は、想定される勝率とは関わりなく決定される。
「それに、Sチンプは手を離した」
「Sボノボです」
司令部の発言を否定した准将に、厳しい視線が注がれる。
「それが、何か違いでもあるのか?」
ある。
チンパンジーとボノボは、精神構造が違う。
戦いより性行為を選ぶボノボ。彼女らに比べ、チンパンジーは遥かに凶暴で好戦的だ。
その点でチンパンジーは、ボノボより人類に近い。
もし、コンゴ側の軍事行動に関与していたのがSチンプだったなら、被害は甚大なものになっていたはずだ。
そのことを、准将は知っている。
Sボノボが手を引いた、ということを司令部に伝えたのは、准将自身だったからだ。
そのことを、司令部は知っている。
だが、その違いを認識してはいない。
否、認識してはならない。
Sボノボがそのメンタリティから、死傷者が出ないよう気を使っていた。
そんな事実は認められない。認めるわけにはいかない。
Sボノボが全知全能を傾けても、国連軍に死傷者を出すことはできなかった。
猿が人間に敵うわけがない。
それが、求められる真実だ。
そして、司令部の多くがそう求めることで、それが"現実"となる。
「君の目標は、コンゴ民主共和国首都キンシャサの占領だ」
使用兵力の上限は、無制限。
民間人の被害は、全滅までを許容。
どのような手段を使っても、荒廃したキンシャサを全世界に示せ。
ただしその手段に、米国真理省による情報操作は含まれない。
否、真理省に借りを作らぬことが、この戦争の目的だ。
開戦以来、軍--平和省は敗北し続けている。
死傷者こそ殆ど出ていないが、コンゴ国内に一撃たりとも被害を与えられていない。
一方、”現実”には連戦連勝。
そう真理省が報道している。
それ以外の”現実”など、認めることはできない。
結果、平和省は真理省に多大な借りを作った。
だから、なんとしてもその現実を事実にする必要がある。
戦争は、他国に勝つために行うのでは無い。
自国内の政敵に勝つ、それが多くの戦争の目的だ。
「海軍から2艦、船をお借りしたい」
准将は現実を事実に反映すべく、行動を始めた。
========
准将は知っている。
この戦争の焦点を。
それを叩けば、この戦争は終わる。
だが、そのような命令は出せない。
キンシャサは焦点では無い。
コンゴ政府でも無い。
Sボノボですら、焦点では無い。
焦点は、"設計された人類"
世界の現実に残された、42人の瑕疵。
彼女たちが、この戦争の焦点だ。
焦点を叩くための戦い、それを行うためには、先ず自軍の被害が必要だ。
コンゴ国軍による米第1軍団東部管区隊の壊滅。それが必要だ。
それを経て始めて、目標を焦点に定められる。
オブライエン准将の脳裏に、いずれ自ら手にかけるだろう妹弟子の顔が浮かんだ。




