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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第六章 第二次アフリカ大戦、勃発
45/81

コンゴ国軍、再結成される

-2046年1月21日 17:20-


所長室に、これほど多くの人間が集まったことがあっただろうか?


ジャンベ、アサラト、カリンバという各世代のリーダ。

そしてバラフォン、コラ、アトケ、クリン、マセンコ、ハラム。

サイム、デジレ、ジュリアに櫻井。

櫻井の胸ポケットにはアル。


立錐の余地ナシである。

そこで、所長が爆弾発言をした。

『事態が我々の手を離れる』

不発に終わった。


皆の頭の上に「?」マークが浮かぶのを見た所長が、別の言葉で言い直す。

『コンゴに、ヒトの軍隊が結成される』

爆発した。


喧々諤々。


========


開戦後、コンゴの国防はコンゴ政府AI(B・B)を始めとしたAI群が行ってきた。

防衛と言っても先の先。国連軍の作戦を参照(クラッキング)し、コンゴ領空・領海内に入った瞬間に電子戦で防いできた。

それが可能だったのは、国連軍が使ったのが空軍・海軍だったからだ。


空軍には航空機が、海軍には艦艇が必要不可欠だ。

そして現代の航空機と艦艇の制御には、電算機(コンピュータ)が必要不可欠だ。

コンゴは圧倒的な技術格差を使ってその電算機に侵入し、防衛に成功して来た。


だが、次に来るのは陸軍。

人間がその脚で国境を乗り越える場合、電子戦は効果が無い。


無論、国連軍は車両も使う。だが搭載された内燃機関(エンジン)は、電子制御式(フューエル)燃料噴射装置(インジェクション)すら無くキャブレタ仕様だ。

使用火器も、数十年前に作られた骨董品だ。

その骨董品に電子戦は効果が無い。

コンゴ防衛には何らか他の手段が、組織が必要になった。


ただし

『復活する組織のリストだ』


コンゴ国軍(FARDC)

・国家治安評議会

国家情報局(ANR)


そのリストを見た瞬間、ジュリアに怒気が膨れ上がる。


眼の前の怒り狂ったジュリアを無視し、所長は淡々と告げた。

『国連軍は、2月上旬の侵略開始を予定している。以上だ』

一触即発の雰囲気に、Sボノボたちは無言で所長室を出ていった。

アルも、櫻井の胸ポケットから逃げ出し、アサラトと共に去っていった。


扉が閉まり5秒後、ジュリアが爆発した。

『あのならず者(・・・・)共を解き放つ?』

視線で人を殺せるなら、所長の命は無かっただろう。

そして掌でブッ叩いた机の天板は、見事にヒビが入った。


『次はどこ?憲兵隊(DMIAP)首都介入部隊(FIC)?』

その昔、それらの組織では、非合法な殺人、拷問、レイプ、恣意的な逮捕、拘留が日常茶飯事に行われていた。

『この国を50年前に戻すつもり!?』


『B・Bは、戦争を統帥するようには教育していない』

炎を宿すジュリアの瞳を真っ向から受け止め、所長は言う。

『教育するためのデータも無い。戦争とは、統計と無縁の混乱(カオス)に支配される状態だ』

恐るべき力が込められた握り拳。それを目の前に、所長は揺るがなかった。


扉をブチ破らんばかりの勢いで、ジュリアが退出した。


『本当に、他の方法は無かったんでっか?』

いつもオチャラケた瞳に、苦悩を映したデジレが言った。

『国連は制空権を捨て、物量で押し切る気だ』

所長は目を閉じ、小さな声で応えた。


現代の戦争で、制空権を取らずに陸戦部隊を動かすのは自殺行為だ。

高空からの爆撃により、一方的に被害を被る。

『国連は最早、被害など気にしていない。兵士は銃すら持たされないかも知れん』


国連軍は、ゼロ100の被害となるだろう。

だがそれでも、コンゴの弾薬を消費させることはできる。

そのために、コンゴの軍事物資を消費させるためだけに、兵士は派遣されるのだ。


コンゴには、それほど軍事物資の備蓄が無い。

弾薬の生産ラインも無い。


いずれ、コンゴの軍事物資が尽きるまで。

コンゴを占領するまで。

彼らは死体の山を踏み越え、前進させられる。


『物資管理はAIの得意分野やろ。せめて、統帥権をB・Bに与えられんかったんでっか?』

所長は首を横に振る。

『銃を持ったコンゴ国軍(FARDC)は、AIなどには従わない』

彼らが従う者は、銃を持った者だけだ。


そして

『命令されて他人を殺せる人間は、それほど多くない』

力ない足取りで、デジレは退出した。


以前のコンゴ情勢など知らぬ櫻井は、ポカン状態だった。

彼が未だ退出しないのは、サイムに視線で引き止められていたからだ。

サイムが言う。

『ミスタ・ルムンバ、(サクライ)にも聞かせた方が良いだろう』


所長は力なく微笑むと、櫻井を見る。

『さっき"事態が我々の手を離れる"と言ったな。あれは嘘だ』

!?

『正確には、事態を彼女ら(Sボノボ)の手から離した(・・・)んだ』


コンゴには、弾薬の備蓄も製造ラインも無い。

津波のように押し寄せる国連軍を、AIだけで防ぐことはできない。

普通なら。


だがSボノボなら、人類を超えた知能を持つ彼女らなら、何らかの手段を考えつくかも知れない。

何千人、何万人の人間を、効率よく殺戮できる方法を編み出すかも知れない。

所長は首を横に振る。


『彼女らの手を、血で染めることはできないよ』

私にそれはできない、と所長は目を閉じる。


ボノボは、群れの中で殺し合いはしない。

殺し合う代わりに性行為。それがボノボの精神構造(メンタリティ)だ。

そしてSボノボは、人類全体を自分の群れと思っている。


『だから、全てを捨てるのか?』

サイムが、冷淡な口調で問う。

『この国も、科学も、未来も』


所長の前に立ちはだかり

『君は、プライドを捨てると言うのか?』

所長は目を開き

『そうだ』

と言った。


『この国が平和になって10年。もう10年、たった10年だ』

サイムから目を逸し、所長は言う。

『10年でヒトは変わらない』


今、この国(コンゴ)で力を持つ人類(ヒト)は、戦争しか知らずに育った。

NINTENDOより先に、アサルトライフル(カラシニコフ)を手にした者たちだ。

微積分ではなく、1本の紐で人を殺す方法を学んできた者たちだ。

『彼らにとってプライドとは、武力に他ならない』


プライドを持つということは、拳銃を持つという意味だ。

プライドを高めるということは、もっと大きな銃を持つという意味だ。

彼らにとって、プライドと武力は等価だ。


B・Bは、コンゴ国民から銃を取り上げた。

彼らから、プライドを取り上げたのだ。


彼らはそういうふうに思ってしまう。

そう、感じてしまう。

そのように育ってしまったのだ。


『今や、嬉々として国連軍の殲滅作戦を立てている』

私は人類に絶望したよ。

そう、所長--否、ミスタ・ビヌワ・ルムンバは言った。


サイムが櫻井の肩を叩き、退出を促した。

『ミスタ・サクライ。せめて彼に、ミズ・ジュリアからの信頼は残してやってくれ』


櫻井が退出し、扉が閉じられる。


サイムと2人だけになった部屋で、ルムンバの唇が上に釣り上がり、歯を--牙を剥き出す。

「私は人類に絶望した。だが、"人間"に絶望したわけではない」


「我々の、この国(コンゴ)の未来とプライドは、彼女ら(Sボノボ)が受け継いでくれる」

日没と共に暗くなった部屋に、ルムンバの目だけが光る。

「サイム、"息子"の為に、どのくらい時間を稼げば良いんだ?」


========


「あと2ヶ月だ…参ったな、なぜ判った?」

「10年以上、政治に関わってきた。私に秘密を持てるなどとは思わんことだ」

10年が経過し、髪は白く薄くなったが、相変わらず威圧感を持つ体躯がサイムに向き合う。

サイムの脳裏に、10年前の--彼をコンゴに引き込んだルムンバが()ぎる。


「そうか」

10年前の、いたずら好きで、理想主義者のミスタ・ルムンバがそこに居た。

「そうだ」

君が秘密にしていることなど、全て知っている。

そうルムンバはウインクした。


「大した役者だよ。君ってヤツは」

サイムは肩をすくめる。

「ミスタ・アルジャーノンの事を秘密にするのは、かなり苦労したんだがね」


もし話せば、所長の胃に穴が空くだろう。そう思い、ずっと秘密にして来たのだ。

「ハラムを連れ帰る際、アルジャーノンEAの所有機を使った時。これはもうバレる、と覚悟した」

だが問い詰められなかったのは、そういうことだったのか。そう、サイムは納得する。


微笑むサイムの眼の前で、所長が目を丸くしていた。


どうやら脳内で、巨大企業アルジャーノンEAと研究所のネズミが結びついたらしい。

たった今。

堂々と立っていた筋肉質の脚が震えだす。


あー

「この件はくれぐれもご内密に」

そう言い残し、サイムは退出した。


締めかけた扉の後ろで、椅子が派手に倒れる音がした。

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