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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第六章 第二次アフリカ大戦、勃発
44/81

サイム、同行を懇願する

謎の文が色々出てきますが、伏線回なので…

-2045年12月31日 15:00-


サイムは研究所地下、アサラトとアトケの研究室に入る。

アサラトだけが、そこにいた。

サイムを待っていた。


闇の中、そこだけ明かりが灯るテーブル。

アサラトに向かい合ったソファに腰を降ろし、サイムは問う。

「なぜ、パンロゴに伝えた?」


コンゴに核兵器が存在することを、国際社会にそう思わせていることを。

ただそのためだけに、加速器駆動未臨界炉を開発させたこと。

それは、パンロゴが知る必要の無いことだ。


『やはり貴方たち(人類)は、私たち(ボノボ)と違う』

ため息とともに、アサラトは手を動かす。

『私たちは、判っていることをわざわざ聞いたりしない』


サイムは眉をピクリと震わせ

「それは、褒め言葉かな?」

『そう。私は貴方を、トマス・サイムという男を良く知っている』


不実を謝る機会は--時間は、もうそれほど多くない。

数ヶ月後には国際社会がコンゴを蹂躙し、パンロゴは--Sボノボは地上から消え失せる。


『残り時間は少ない。そのことに貴方は気づいてる。それを私は知っている』

ならば、とサイムは自分の膝に肘を置き、口の前で指を組む。

「"ポセイドンの息子"の発進は、何時(いつ)だ?」


アサラトの目が見開かれる。


========


『私は貴方を、見くびっていたようね』

驚きに激しく打つ鼓動。それを鎮めようとしながら、アサラトが言う。


『急がせているけれど、間に合うかどうか微妙なところ』

滑らかに動いていたアサラトの手が止まる。

『本当に間に合わせたいのか、私にも分からない』


私たちだって、とアサラトは視線を落とす。

『立ち去りたくはないのよ』


「私も連れて行け」

『考えさせて』

だが考えた結果、連れて行かないことを決めた。


だからこそアサラトは、サイムに謝る機会を与えた。

そのことにサイムは気づいている。

それをアサラトは知っている。


『どこで、"息子"のことを知ったの?』

アサラトは話を変える。

君たち(ボノボ)我々(ヒト)とは違う」


「我々のように嘘をつき、他人を欺き、騙し、秘密を持つことに慣れていない」

サイムは微笑む。

「パンロゴの端末に地図が写っていたのを見た。B-52を着陸させるための精密図だ」

肩をすくめ、首を横に振る。

「ブンバの南、マリンガ-ロポリ-ワンバ地域。その位置に堂々と書いてあったよ。"ポセイドンの息子"と」


「以前からその地域に、大型融合炉が何基も造られていることは知っていた」

通常、発電所は海や大河など水辺に接した場所に造る。

冷却のため、蒸気でタービンを回すため、水を使うからだ。

だがその融合炉群は、コンゴ川流域にもかかわらず、川から遠く離れた山中に建造されていた。


「疑問に思い、調べてみることにした」

少し調べただけで、とサイムは続ける。

「そこでレーザ核融合用の重水ペレットが、大量生産されていることが判った」


「"ポセイドンの息子"なんて簡単なクイズだ。暗号にはならない」

ポセイドンは、ギリシャ神話の海の神。

彼の息子は、トリトンやペガサスを始め、何十人もいる。

だが、すぐに

「人類は、真の名に気づく」


「"オライオン"だと、気づいてしまう」

アサラトが苦笑する。


『私も、別の名前が良いと思ったのよ』

でも

『パンロゴが、どうしてもって言うから』

「100年近く前から決まっていた名前だからな」


========


「私は、役に立つぞ」

サイムのアピールにも、アサラトの心は揺るがない。

『貴方は多分、誤解している』

アサラトは、サイムと視線を合わせる。


人類(ヒト)は、誰も連れて行かない。ジュリアですら』

「ああ、判っている。先月、ミズ・ジュリアが風邪をひいたからな」

サイムもまた、揺るがない。


「彼女が風邪をひいた。彼女だけが風邪をひいた」

歌うようにサイムは言う。

「そんなことは、ありえない」


だから、とサイムは続ける。

「君たちが私たちを置いて行こうとしていることに、気がついた」


ミスタ・ルムンバ(所長)は、勿論行かないだろう」

妻子を持ち、だれよりもこの地に愛着を持っている。

「ミスタ・デジレ、ミスタ・サクライは、行く必要が無い」

故郷の国に戻り、そのまま生活を続けられる2人だ。


「ミズ・ジュリアも、君たちが行かずに済むようにした」

だが

「私は違う」


「私の想い、私の幸せ、私の未来は、この群れに--君が率いる群れに在る」

それを

「私から奪わないでくれ。引き離さないでくれ」


サイムは(ひざまづ)き、アサラトの手を包み込み己の額に押し当てる。

「連れて行ってくれ。頼む」

アサラトの手が、サイムの涙で濡れる。

「私を、1人にしないでくれ」


黒い腕が、背後からサイムを抱きしめる。

『大丈夫、1人になんてしない』

闇の中から現れたアトケが、サイムを抱きしめていた。


『死が2人を分かつまで、私は貴方といる』

闇の中で、目が煌めく。

『アサラト、もし彼を置いて行くなら私も一緒に残る』


「待て!」

サイムが叫ぶ。

「こちらに残れば、必ず国際社会が君を消す」

『でも』


『その時まで、貴方と一緒にいることができる』


長い時間の後、ふぅ、とアサラトがため息をついた。

『判ったわ。優秀な電算機(コンピュータ)技師(エンジニア)を失うわけにはいかない』

にっこり微笑むアトケ。

『貴女なら、きっと判ってくれると思ってた』


========

-2045年12月31日 22:30-


食堂では年末のパーティが開かれ、その喧騒がここ--サイムの部屋まで微かに伝わっている。


暗い部屋でアトケは椅子に座り、ベッドで眠るサイムを見つめていた。

携帯ディスプレイ(ノート)に微かな光が灯り、メールの着信を知らせる。


"アサラト:もしさっき私が意地を張ったら、どうなったの?"

アトケはニッと笑い、応えを打ち込む。

"アトケ:その時は、優秀な電算機技師を1人失うことになったわ"


ノートは暫く沈黙し、そして文字を映し出す。


"アサラト:もし私が、サクライを連れて行きたいと言ったら、どうする?"

今度はアトケが沈黙する番だった。


"アサラト:ごめん、忘れて"

"アサラト:この件は、くれぐれもご内密に"

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