国際社会は、決して諦めない
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-2045年12月24日 07:45-
『B-52が離陸するわ』
その声に、寝不足と二日酔いを抱えた第1世代が顔を上げた。
昨夜、離陸直前にエンジントラブルを起こし、発進予定が1時間毎に遅れていたB-52は、敵国民が見守る中、ようやく空に身を浮かべた。
ちなみに、この飛行は軍事機密である。
コンゴ以外では。
『ようやく飛んだか』
『長かった。俺は疲れたよ』
『ちょっと一眠りするわ』
まるで自軍の爆撃機みたいな物言いだが、明らかに敵軍機である。
なお、爆撃については誰も心配していない。
誘導管制を乗っ取られ、コンゴ軍の空港に着陸されられた各国の最新鋭戦闘機。それらは今、コンゴ製のAIを搭載してお待ちかね。
ちなみに、AIを開発したのはパンロゴ。
普段の研究より熱心に取り組んでいた。
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-2045年12月24日 15:45-
『これ、どこへ行くのかな?』
食堂にいた誰かが呟いた。
『セントヘレナかな?』
『アセンション島かもしれんぞ』
どちらも大西洋上の小島である。
コンゴからは遠く離れている。
セネガル辺りまでは海岸沿いを順調に飛行していたB-52だが、その後、妙な方向に彷徨いだした。
『燃料は保つのかな?』
のんきに言う敵国民である。
一方、B-52の機内は、それどころじゃなかった。
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「ここはどこだ!」
「GPSによれば、ナイジェリアです!」
「そんなわけあるか!いつナイジェリアは海の底に沈んだんだ!!」
それはナイジェリアではない。アトランティスである。
GPSが示す現在位置は、確かにナイジェリア。
だが、眼下に広がるのは海。一面の大海原。
そして方位磁針によれば、どう見ても機は南に進んでいる。
このまま行けば、南極である。
なお、その前に燃料が尽きる。
「GPSはあてにならん!方位磁針に従い、東へ進路を取れ」
現在位置は判らないものの、大西洋である以上、東にはアフリカ大陸がある。
残燃料は心もとない。
もしこのまま燃料が尽きたら、命はない。
全乗組員の視線が、ベテラン航法士を向く。
視線を集めた航法士だが、彼は今、それどころでは無かった。
時計と方位磁針、そして太陽の位置から現在位置を割り出そうと必死である。
天測航法と呼ばれるこの位置判定方法は、衛星測位システムが整備された現在はまず使われない。
「南緯8度、西経16度」
計算と検算を済ませた航法士が、重々しく告げる。
「確かか?」
思わず聞く機長に深くうなづく航法士。
六分儀も無いこの状態で、確かなワケねーだろ!
とは、航法士の心の声である。
だが百戦錬磨のベテランであるこの男は、それを外に出さない。
そんなことを言っても、仕方がないからだ。
乗組員の無用な動揺は避ける。
航法士と長い付き合いの機長だけが、彼の思いを瞳の奥に読み取る。
機長は、微かに目礼し再び前を見据える。
機内は、再び秩序に満たされた。
「燃料がアフリカまで保ちません!」
次の瞬間、若い航空機関士がブチコワシにした。
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-2045年12月24日 16:25-
『B-52は55,000ftまで上昇。搭載した爆弾はすべて海に投棄した模様』
パンロゴの報告にうなづくアサラト。
残り少ない燃料で飛ぶためには、空気抵抗の少ない上空に昇る必要がある。
そして上昇するためには、少しでも重量を軽くしなくてはならない。
機長、苦渋の決断である。
『じゃGPSを戻すわ』
と端末に向かうアトケ。
GPSは、人工衛星からの電波から現在位置を特定している。
だから人工衛星に侵入し電波発信時刻を操作すれば、現在位置を誤認させることができる。
まんまと誤認したB-52と乗組員は、大西洋ひとりぼっちである。
ちなみに、狂わせたのは軍用のP信号だけ。
通常機器で使っているC/A信号は操作しなかったので、自動運転車などに問題は無い。
『GPSはちょっと待って』
とアサラト。
"?"マークを浮かべるアトケとパンロゴ。
『B-52の航続距離は?』
すかさず応えるパンロゴ。
『7,730ノーティカルマイル。約1.4万km』
『その機を、ブンバ空港に降ろして』
コンゴ北部、モンガラ州にある空港である。
『任せろ!』
パンロゴが喜色満面で応える。
大西洋湾岸各国のシステムに侵入。B-52を認識できないよう、細工する。
これで、B-52は他国の誘導も通信も受けることができず、コンゴの誘導に従う他はない。
後はブンバ空港の管制AIに、B-52の受入準備を行うようメールするだけである。
パンロゴは端末を操作しながら、嬉々として話を続ける。
『君にも、あの機の魅力が分かったんだね!』
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『ブンバに?』
アトケがパンロゴに見えぬよう、手を動かす。
微かにうなづくアサラト。
『"ポセイドンの息子"の処に?』
なぜ、と目で訴えるアトケへアサラトは応える。
『多分、必要になる。サクライたちのために』
『人類は、侮れない』
たとえ知能はSボノボに及ばなくとも。
たとえ技術格差があったとしても。
アサラトは知っていた。
人類が受けてきた淘汰圧を。
その文明と社会が、ひたすら一つの方向に進化して来たことを。
戦争に勝利すること。
人類の文明と社会は、数万年に渡りその方向に進化して来た。
別の方向に進化した社会は、全て滅ぼされた。
人類より強い生物は多い。
人類より賢い動物も現れた。
だが、人類と戦争し勝利できる生物は、地球上にいない。
--保って、後数ヶ月でしょうね
アサラトは冷静に分析する。
数ヶ月後、コンゴは滅ぼされる。
そして人類が、地球上で最も知能の高い生物になる。




