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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第六章 第二次アフリカ大戦、勃発
41/81

第1世代は、もっとがんばりましょう

-2045年12月17日 08:00-


ジュリアが寝込んだ。


体温を測ると38.2℃。

設計された人類(デザイナ・チャイルド)の彼女は免疫力も強化されているため、風邪をひくことは殆どない。

よもや生物兵器か、と医者も兼ねてるクリンが診察したが、ただの風邪らしい。


--鬼の霍乱(かくらん)

そんな言葉が櫻井の脳裏をよぎるが、口から先に出ることはない。

危ないからだ。


『あんさんは丈夫やね』

デジレから言われる通り、櫻井には伝染らなかったらしい。

--バカは風邪をひかない。

そんな言葉が櫻井の脳裏をよぎるが、口から先に出ることはない。


ジュリアはジャンベの看病を受けてる。彼女に甘えまくってるらしい。

『姉妹というより母娘みたいな関係やな』

ジュリアが研究所に来た頃、ジャンベは子育て真っ最中。

豊富な母性本能をジュリアにも注いだらしい。


彼女(ジュリア)も、母の愛に恵まれん子供やったからな』

コーカソイドの両親から生まれたネグロイド。

遺伝子操作の結果と教えられたとしても、やはり両親との間は上手く行かなかったようだ。


『下手に知能が高すぎて、親にとって理想の子供を演じきれたさかい…な』

なぜか寂しそうにデジレは言った。


========

-2045年12月17日 20:10-


『それじゃ、おつかれー』

『おつかれー』

『いや、お前は疲れてないだろ!』


ムベトのバーで、第1世代を中心に盛り上がるボノボたち。

片隅で、櫻井他のヒトもちゃっかり盛り上がっている。

週に1度開かれる、オルトゥ奢りの呑み会である。


何処の国が一番槍か。そのトトカルチョで、正解だったのは櫻井1人。

賭け金総額の半分は、かなりの大金だった。

だが、クズに暇なし。たまに買い出しに連れ出された際、ジュリアへ服や靴を買ったりするだけである。

あとは大きな声では言えない宿泊施設とか。


一方、残りの半分を得た胴元のオルトゥ。こちらはもっと、使いみちがナイ。

市場に流通している物の多くは、人類専用。

食事は基本無料で、住居も完備。


オヤツとかは研究所の売店でも売ってるが、オルトゥたち第1世代は外に生ってる果物や木の実を好む。

服も、装身具も身に着けず、街に出ることもないボノボが大金を得ても猫に小判。


結果、ムベトのバーで奢ることになった。

オルトゥの株は急騰し、彼は満足。賭けに負けた皆も、奢られて満足。

日々これ平穏。世はなべて事もナシ。


ちなみにこの地、現在戦争中である。


========


『なぁんかF-4(ファントム)以来、まるで多国籍軍は来ねぇなぁ』

第1世代ドゥンドゥンの言葉に、皆が頷く。

『日々これ平穏、とは言ってもなぁ』

肉体派のオルトゥが筋骨隆々な体でポージングしながら言う。

『これじゃ、俺たちの見せ場がなぁ』


『出番がないなら、それに越したことはない』

いつの間にか現れたバラフォンが言う。

あっ、という顔になったオルトゥに、すばやく用意されたジョッキを掲げ、ウインクするバラフォン。


密猟者に子どもたちが攫われた際、バラフォンは散弾銃に倒れた。

傷が癒えた後、彼は無手で銃に対処できるよう、ひたすら研鑽している。

第3世代が開発し彼に贈ったボディアーマは、常に手入れされ、すぐ身につけられるようドアに掛けられている。


その時が来たら、バラフォンは国連軍の悪夢になるだろう。

だが、


見せ場、ではない。

第1世代が戦う時。それはコンゴが戦場になった時だ。

たとえ無手で銃に対処できても、それはほんの一時のことだ。

いくらバラフォンが強くなろうと、それはほんの1人だけのことだ。

いずれ、子どもたちが犠牲になる。


今度こそ。

確かにその思いは、第1世代に共通している。

子供や孫を守る。

ボノボのその思いは、ヒト以上に強い。


だからこそ、戦いにならなければ、それに越したことは無い。


第1世代に流れるそんな空気を読まず、手を挙げる第3世代。

『出番は、じきに来るかもよ』

オレンジジューズを飲みながら、ジュンジュンが言う。

TVドラマ錦蛇分隊(パイソン)が終了し、他国の軍事機密を公開しないよう釘を刺された彼女はヒマ人である。


彼女は携帯端末(ノート)から壁に動画を映し出す。

『スペイン、モロン空軍基地で発進準備中の機体よ』

皆の視線がその画像へ、次に飛行機ファンのパンロゴへと向けられる。

パンロゴは目も口も丸くして、感動に震えている。


『米空軍のB-52超空の要塞(ストラトフォートレス)、1955年就役』

代わりに説明するジュンジュン。

『よくまぁ、こんな骨董品を引っ張り出して来たものだわ』


『これは、さすがに防げんな』

パンロゴの隣に座っているサイムが言う。

『エンジンも電子装備(アビオニクス)も、まさに前世紀の遺物だ』


今度こそ、とサイムはダイキリを舐め

『コンゴ侵略の一番槍が決まるな』

第1世代を中心に、激震が走った。


コノ人ハ、一体ナニヲ言ッテイルノカ?


コンゴ侵略の一番槍は、F-4(ファントムⅡ)を不時着させた日本である。

だからこそ、今オルトゥの奢りで呑んでるワケだ。

ただし、不時着を"一番槍"と読んでよいのか?

そこは、意見が分かれるとこである。


『一番槍は英国だと思ったが、外れたようだ』

激震が走り廻る空気を全く読まず、サイムが続ける。

もしB-52が爆撃したなら、それこそが一番槍と呼ぶにふさわしい。

かも。


さてここに、米国に賭けた者の半数以上が下戸という統計情報がある。

その場合、オルトゥの奢りで呑んでしまった酒代はどうなるか。

少なくとも、半額は出さねばならん。


誰もいない森で木が倒れたら、音はするか?

音はしない。

誰も聞いていないなら、音はしない。木が倒れたなどという事実は、"現実"とは関係が無い。


現実は改版しうる。

確かに走ったはずの激震は、"現実"には走らなかった。

--この件は、くれぐれもご内密に


誰もそれを見ないフリしたからである。

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