国際社会、諦めずにもっと頑張る
『まさか英国が"錦蛇分隊"放映を知らなかったとはなー』
監督の第2世代、サバールが呟く。
『どーりでPV数が少ないはずだよなー』
コンゴと開戦した際、国際社会が最も恐れたのは、改竄した"現実"を公表されることだ。
このため、豊富省など外交を司る省から厳重な要請があった。
「コンゴからの情報は、決して国内に流出させるな」
このような要請があった場合、選択肢は3つある。
1.ハイ
2.YES
3.喜んで!
の3つだ。
選択肢は3つだが、この実現はなかなか難しい。
国際通信ケーブルだけなら、基地局でブロックすることができる。だが、2045年現在は、人工衛星からの一斉配信が存在する。
個人端末で直接受信する情報をどう防ぐか、技術者は頭を悩ませた。
結果、コンゴのIPアドレスを持つ通信を、全てブロックした。
基地局だけではなく、個人端末も強制的にバージョンアップさせ、コンゴからの情報流出を封鎖した。
その結果、各国にコンゴからの情報流出は防がれた。
ついでに、真理省などの各国諜報機関も、コンゴからの情報が受け取れなくなった。
だから、コンゴでは大人気のドラマ"錦蛇分隊"のPV数は、さっぱりである。
そして、コンゴでは有名人になってる錦蛇分隊を、英国が秘密諜報員として派遣しちゃったのだ。
コンゴIPアドレスをブロックした影響は、他にもあった。
自動翻訳サービスが、コンゴIPで提供されていた。
結果、各国の意思疎通ができなくなり、国連軍が機能不全。
現在コンゴへの侵略は、各国の軍が個別に行っている。
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-2045年12月1日 15:10-
午後のお茶の時間。
食堂の壁には、コンゴに向かって飛ぶ爆撃機が映し出されている。
元ネタは、静止衛星からのリアルタイム映像である。
『この機体はノースロップ・グラマン社製、B-22Aドリトル。2039年就役の最新鋭爆撃機だ』
飛行機ファンのパンロゴが、なぜか自慢げに説明する。
『一機の価格は約10億ドル。"同重量の金より高い"と言われたB-2スピリットを上回る』
なぜ、そんなに高くなったのか。
『B-21レイダーが開発中止…というか挫折した後、基本設計からやり直したのが、この機だ』
2機分の開発費が積まれてるワケである。
『雲形定規みたいな形だな』
と所長が言う。
雲形定規ってなんだ?
そんな疑問が櫻井の頭に浮かぶが、検索する気にもなれない。
『ロココ調ね』
とジュリア。
ロココ調ってどんなのだっけ?
そんな疑問が櫻井の頭に浮かぶ。装飾過剰であることはマチガイない。
目の前に映っている機体は、イボだらけのクラゲのような形をしている。
しかも、そのイボが機体の表面を動き回る。ありていに言って気持ち悪い。
「よくこんなモノが空を飛べるな」
『そこだ!』
おおいばりでパンロゴが言う。
『ステルス性を高め、かつ空気抵抗を抑えるるための形状だが、空力的には非常に制御が難しい』
『この機が飛べるのは、航空力学の奇跡と言って良い!』
鼻息を荒くするパンロゴだが、別に開発に携わってるワケではない。
パンロゴによれば、機体表面のイボが方向舵や昇降舵、補助翼の役割を果たしているらしい。
そのイボは機体を安定させるため、止まること無く動き続けている。
『その奇跡的な機体が、なぜ簡単に見つかっちゃってるの?』
ジュリアが当然の疑問を口にする。
パンロゴが、パタリと止まる。
『はてな?』
『米空軍のシステムに侵入して、飛行計画を見てるのよ』
アトケが助け舟を出す。
『人工衛星に乗せたAIが可視光で監視してるし』
アサラトが補足する。
せっかくのステルス性が、役立たずである。
航空力学の無駄な奇跡である。
その奇跡も、コンゴ国境を超えると役に立たなくなる。
制御システムを開発したのが、アルジャーノンEAだからだ。
滑らかに動いていたイボが止まり、機体が急にバランスを崩す。
そのままフラフラと高度を下げていき、南スーダン国境近くの高原に不時着。
喜んだのはパンロゴである。
『これで、コクピット内部が見れる!』
そこは、厳重なセキュリティに守られ、見ることができなかったらしい。
だが、その喜びも長くは続かなかった。
機体から乗組員が脱出して数分後、機体が爆発した。
顎が外れそうに口を開いたパンロゴに、デジレがトドメを刺す。
『そら敵国内に最新兵器を置きっぱなにするほど、アホやないやろ』
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-2045年12月3日 10:40-
コンゴ西部、大西洋に面したボーマという都市に、ボーマ空港がある。
その空港に巡航ミサイルが3機、着陸した。
本来は、空港を破壊するためのミサイルだが、制御を乗っ取られ燃料を使い果たした後に無事着陸した。
胴体着陸にもかかわらず、かなり滑らかな着陸であった。
科学技術を推進しているコンゴには、人類の中にもパンロゴのような好き者が居る。
そいつが弾頭を外された巡航ミサイルを入手し、分解を試みた。
動画サイトで実況中継しながら。
しかもIPを差替え、全世界にそのまま公開である。
「やめさせろ!」
巡航ミサイルを撃った国で、軍のエライ人が叫ぶ。
コメカミの血管をブチ切りそうな勢いである。
もちろん返事は、ハイかYESか喜んで!の3択。
でも、どうやって?
問題はそこだ。
急遽、個人端末を強制的にバージョンアップさせ、そのIPも封鎖した。
すぐに別のIPで公開が再開される。
モグラ叩きである。
しかも、1回叩くのに相当な時間がかかり、通信帯域もその間は専有状態になる。
世界の通信網がマヒした。
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-2045年12月4日 8:20-
『コンゴ政府AIが、他国の軍事機密を公開しないよう法律を制定した』
3世代のSボノボのリーダを前に、所長が言う。
世界の商取引は、ほぼ100%電子化されている。
通信網がマヒしたということは、商取引が停止されるということだ。
飴の1つ、買うこともできない。
『このまま映像公開を続ければ、餓死者が出るだろう』
重々しく首を振る所長。
『人道的見地から、君たちにも控えてほしい』
イマイチ納得してないながら、頷くジャンベとアサラト。
1人、頷かずに目を泳がせているのは、第3世代のカヤンバ。
所長と櫻井を含めた4人の視線が、カヤンバに集まる。
櫻井の胸ポケットからはアルが顔を覗かせ、視線をカヤンバに向けている。
『その…ジュンジュンに頼まれちゃって』
TVドラマ"錦蛇分隊"のADをやってる娘だ。
『最終話、すごい盛り上がりなんだよ。その中に、まぁ色々と』
軍事機密がてんこ盛りらしい。
「でもアレは、コンゴ内でしか放映されてないだろ?」
軽く言う櫻井に、カヤンバの目は更に泳ぐ。
『その、アレのPVは本来こんなもんじゃないって…』
『他国に公開したのか!?』
頷くカヤンバ、頭を抱える所長。
『方式は?』
アサラトが聞く。
『P2PCDNで』
てへペロ、とカヤンバ。
説明しよう。
P2PCDNとは、ダウンロードした端末がキャッシュサーバになるという技術である。
この場合、"錦蛇分隊"の動画がウイルスのように増えて行く。
しかもTVドラマ。まさか軍事機密が映ってるとは思わないだろう。
気づいた時には、手遅れマチガイない。
『この件はくれぐれも内密に…』
胃に穴が空きそうな声で、所長が言った。




