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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第六章 第二次アフリカ大戦、勃発
37/81

国際社会、対策を実行する


-2045年10月22日 08:00-


今日の朝食は英国風。

英国の食事と言えど、朝食だけはバカにできない。

"英国で美味しい食事がしたければ、日に3回朝食を取れば良い"と、サマセット・モームも言っている。


オーツ麦のお粥(ポリッジ)、ベイクドビーンズ、マッシュルームにマーマレード添えのパン。

各種ソーセージに目玉焼き。

そして、たっぷりと紅茶。


ここ数日、精神的に責められ続けたサイムを元気にしようと、コック長のイナンガが腕をふるった品々である。

今朝、クレオパトラはカサブランカに向け、旅立った。

サイムはアトケに近寄ろうとするも、冷たい目に阻まれ、肩を落としている。


一方櫻井は、ハラム他の第3世代の人気者である。

あまり地下から出てこなかった子どもたちも、ハラムの武勇伝を聞くために食堂に集まり、武勇伝の中で活躍した櫻井は皆のヒーローとして認知された。


ちなみにアルの知能は秘密。

ハラムを救出したアイディアは、櫻井が思いついたことになっている。

知られたら、胃に穴が空いてしまうからだ。所長の。


その所長から呼び出しがあった。

『ジャンベ、アサラト、カリンバ、所長室へ』

第1~3世代のリーダ、3人だ。


何があったんだろうと首を捻ってた櫻井は、アサラトに手を引かれて一緒に所長室に連れて行かれた。

胸ポケットには、アルが滑り込む。

なお櫻井の朝食は、周りのSボノボが美味しくいただいた。


========


『拙い事態になった』

呼んでないのになぜ櫻井が居るのか、数秒逡巡していた所長だが、ジャンベ、アサラト、カリンバに促されて話し始める。

『戦争が起きる』

コンゴが戦場になる。


英国が国際司法裁判所(ハーグ)に提訴し、それが認められた。

罪状は、生物多様性条約(カルタヘナ議定書)違反。

目をパチクリさせる櫻井の有機EL眼鏡(グラス)に、説明が表示された。


"遺伝子組み換え作物などの輸出入時に輸出国側が輸出先の国に情報を提供、事前同意を得ることなどを義務づけた国際協定"

"2003年、コロンビア カルタヘナで最初の会議が開催"


「コンゴが、遺伝子組み換え作物を輸出したんですか?」

『作物ではない』

櫻井の問いに、苦い顔で答える所長。

『ハラムだ』


カルタヘナ議定書、第25条2項。そこに、こう書かれている。

"不法な国境を越える移動があった場合には、その影響を受けた締約国は、当該移動が開始された締約国に対し、当該改変された生物を当該移動が開始された締約国の負担で適宜送り返し又は死滅させることによって処分することを要請することができる"


『ハラムの誘拐が、"不法な国境を越える移動"と解釈された』

確かに誘拐は不法である。

『"その影響を受けた締約国"すなわち英国が、"当該移動が開始された締約国"すなわちコンゴに要請して来た』


『"当該改変された生物(Sボノボ)"を死滅させろ、と』


「そんなバカな!」

『座って、サクライ』

思わず立ち上がり、大声を上げた櫻井を、アサラトが抑える。


『死滅を要請された遺伝子改変生物(LMO)は、私たち(Sボノボ)だけ?』

アサラトの問いに、所長の首が横に振られる。

『そう、でしょうね』

アサラトの目が閉じられる。


『回答期限は3日後、コンゴ政府AI(B・B)は拒否する』

その時より戦争が始まる。

敵は国連加盟国、約200ヶ国。

味方は居ない。


人類を数十回滅ぼしうる兵器が、コンゴに牙を剥く。


『すまない。君たちの』

所長が目を閉じ、言葉を絞り出す。

『力を借りたい』


櫻井の隣で、ジャンベが牙をむき出し、手を閃かせる。

『任せといて!』


========

-2045年10月22日 18:15-


ルブンバシの街で、車から男が降りた。

彼は今、ケントと呼ばれていた。


プロジェクト毎に呼び名は替わる。南アフリカから急遽、中央アフリカへ派遣された彼のチームは、新たな名前、戸籍、関係を与えられた。

ブリーフィングの後、ザンビアからキブシ経由でルブンバシへ。

彼らの任務は、コンゴ政府AI(B・B)が格納されているデータセンタの位置を、突き止めることだ。

それが、世界を護るために必要なのだ。


「ダーリン、今日のホテルはどの辺かしら?」

彼に話しかけたのはダイアナ。

チームを組んで2年。未だ彼女の本名は知らない。

それで良い。


チームの間に感情の交流はある。

肉体関係を持ったことも幾度かある。

だが、それはそれだ。


彼らは目的を達成するためのチームであり、任務を処理する自動装置だ。

ケントは自分をそう律してきたし、他のメンバも同じだ。

米陸軍、統合特殊作戦コマンド、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊。

それが、ケントのチームが属する組織名だ。


陸軍に入隊して5年。

評価選抜課程を経て、戦闘員訓練課程へ。

恐怖の館での訓練、そして実戦。


その間に、何人もの戦友を亡くし、それ以上の敵を屠ってきた。

この2年、同じメンバでチームを組んでこれたのは、彼らの実力と運の為せる技だ。


「あそこのビルじゃないかな?」

ブルースが言う。

「早く行こうよぅ。もうクッタクタ。シャワー浴びたーい」

能天気に言うケントの従兄弟--という設定になってるカーラが言う。


ホテルに向け歩みだそうとしたケントは、不意に違和感を感じた。

視線を感じる。

それも、1人2人ではない。


彼が目を降ろすと、3輪車に乗った女の子と目が合った。

その子は目と口を大きく開け、ケントを、彼の頭の上を凝視していた。

道の反対側から、母親と思われる女が飛び出して来て、女の子と3輪車を引っ掴み、走り去っていった。


========

-2045年10月22日 18:20-


「なんじゃありゃ?」

普段は細い目を丸くして、櫻井が呟く。

ちなみに口も大きく開いている。


『スパイなんじゃない?』

大荷物を抱えたジュリアが言う。

戦争を控え、大量の買い出しに来た2人である。


「いやでも、あんなスパイがいるか?」


見たところ、20~30代の若い男女4人組。

2人は白色人種(コーカソイド)、残る2人が黒色人種(ネグロイド)

ルブンバシではコーカソイドの数は少ないが、黄色人種(モンゴロイド)ほどレアじゃない。

彼ら4人を際立たせているのは、人種では無い。


『観光客を装って、って感じね』

妙に注目を浴びて狼狽える様も、普通の観光客っぽい。

ただ、注目の集め方が並じゃない。

通行人が全員見ている。ガン見である。


その4人の頭の上には、でかい赤の矢印が浮かび、更にその上に特大フォントが踊っていた。

"要注意人物"

有機EL眼鏡(グラス)がそう表示しているのだが、目立つことこの上ない。


『タグを付けてないか、偽造タグを付けて来たのね』

コンゴ内で、タグを持たない者は居ない。

タグ無しでは、飴の1つも買えないからだ。

一方、タグをつければ、コンゴ政府AI(B・B)が位置と音声、心拍数、その他もろもろを常に監視する。


ケントたち4人はB・Bのデータセンタを探るどころか、周りの人々に一挙手一投足を注視され、ほうほうの体で米国に戻った。

なおB・Bが手配し、アメックスを使えるカードリーダがホテルに届いたため、宿泊料の徴収も問題なかった。

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