表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第五章 人類は三番目
35/81

アル、対策を講じる

-2045年10月16日 15:20-


18世紀に建てられた、古い館--を模した21世紀の建物。

その奥の一室。

磨かれ、塵一つない大理石の床と、ガラス張りで日光が降り注ぐ天井。

そのテーブルに5人の男女が着く。


彼ら彼女らは、2才から--年齢はともかく様々。

だが、いずれも退屈の頂点近くに上り詰めた者たちだ。

彼らの名前は、クレオパトラ、ジュリア、櫻井、ハラム、そしてアル。


ハラムを救出したは良いが、空港は封鎖され、道路は検問でいっぱい。

結局、最寄りの大豪邸に身を寄せて、一週間。

大豪邸の主が言う。

『先日来の騒ぎが、全ッ然終結してないわ』


よりによって真理省のシステムに侵入され、犯人と思しき者を取り逃がした愛情省は、まるで警戒を緩めない。

ミックスサンドを取りながらクレオパトラが言う。

『まだ?』

クレオパトラから借りた服を纏ったジュリアが言う。


『犯人として、ウィンストン・スミスって人が拘束されたみたい』

端末から愛情省のシステムに侵入し、そう言うのはハラム。

真犯人である。


ちなみにハラムが高い知能を持っていることは、クレオパトラにすぐバレた。

たちどころにバレた。

地球上で2番目に知能が高い種なのに。


館に入る際、

『普通のボノボらしくしてて』

ジュリアにそう言われ、

『うん。まかせといて』

と答えているとこを、監視カメラが捉えていたのだ。


幸いにして、サイムの彼女がSボノボ(アトケ)であることは、バレてない。

バレたら、タダでは済まない。櫻井が。多分。

そしてアルの知能もバレてない。

こちらは、バレても大して問題ナイ。


「俺たちがここに隠れていることは、漏れてないか?」

櫻井が言う。

『それは大丈夫みたい』

ハラムが救出された後、彼が組み立てた特殊な端末を使って、サカニア総合研究所に連絡を取った。

その後が大変だった。主に真理省が。


『真理省の機密ファイルを3大クラウドにアップしたから、今はボクらを探すどころじゃないはずだよ』

以来、真理省は不夜城である。

デスマ真っ盛りである。


だが、サラリーマンとして幾度かデスマを経験した櫻井は、ハラムほど楽観的になれない。

機密ファイルの漏洩は重要だ。すぐに対処しなくてはならない。

だが、真犯人の捜索も重要だ。

この場合、エライ人はどう言うか?


優先順位や工数配分など、考えない。

両方優先、超緊急。

全力(100%)を機密ファイル対応に注ぎ、残りの100%を犯人捜索に注ぐ。

そして更に、100%で通常業務をこなすよう求めるのだ。


この場合、担当者は全部で300%働くことになる。

この矛盾した状況を、矛盾したまま受け入れる必要がある。

これが、デスマというテクニックだ。

エライ人たちは、このテクニックを自在に操る。


ハラムは言う。

『そのうち諦めて、やめるんじゃない?』

やめない。

雨乞いの踊りと同じで、目的が達成されるまで永久に続ける。

それがデスマだ。


「もし真理省に救急車が来なくなったら、教えてくれ」

今、真理省では日に数回、過労で倒れた人々が救急車で運ばれていく。

『そうなったら、諦めたってこと?』


櫻井は首を横に振る。

「そうなったら、俺たちの居場所がバレたってことだ」


========


アフタヌーンティの後、櫻井は皿洗いと片付けと掃除。

すっかり主夫業が板についた櫻井である。

一方、ハラムは昼寝。

ジュリアは、地下のジムでクレオパトラと組手。


暫く泊まらせて貰う代わりに、クレオパトラが出した条件が組手(これ)だった。

ジュリア曰く、素人にしては結構強いとのこと。

この1週間で、更に腕を上げたという。

秘密がバレた際のサイムの命が心配である。


絨毯敷きの廊下に掃除機をかけていた櫻井は、クレオパトラを見かけた。

組手の後、シャワールームに行ったのだろう。バスローブ姿で髪を拭きながら歩く彼女は、かなり目に保養である。


『困ったわ』

眉を顰めてクレオパトラが言う。

『急に、海外での仕事が入ったの』

CMの撮影らしい。


「でも空港が閉鎖されてるのに、どうやって行くんですか?」

掃除機を転がしながら、櫻井は聞く。

『自家用ジェット機で、迎えに来るらしいわ』

「???」


「あのー」

頭の上に"?"マークを浮かべながら、櫻井が聞く。

「空港が閉鎖されてるのに、なぜ自家用ジェットが着陸できるのでしょうか?」

当然の疑問である。


『閉鎖されてるのはヒースロー空港。自家用ジェットが降りるのはロンドン・シティ空港よ』

「はい?」

政府高官(インナーパーティ)だけが使える、別路線の空港。私も使ったことは1度しかないわ』

そこは、税関も手荷物検査も無いらしい。

なんだよそのザルな抜け穴。


政府高官しか使えないのだが、そこは魚心あれば水心。

多額の政治献金を払っている企業も利用できるらしい。裏で。

ただし、招かれざる客は謎の仕掛けでハジかれ、闇から闇へ葬り去られるというウワサだ。


『館は、私が英国を離れると閉鎖されて、電気も使えなくなるわ』

それは困る。

『こうなるって判ってたら、高度なセキュリティシステムなんて導入しなかったのに』

危険だが、別の宿を見つけるしかなさそうだ。

アトケたちの協力があれば、なんとかなるだろう。

そう、櫻井は諦める。


『とはいえ、スポンサーが今をときめく"アルジャーノンER"だから、断る理由が無いのよ』

「ん?」

なにその聞き覚えはすごくあるが、聞き覚えない企業名。


『一般には知られていないけど、10年程前、彗星のように突然現れた企業よ』

有機EL眼鏡(グラス)自動翻訳機(トランス先生)を発表し、それまで同様なサービスを提供していた起業に取って代わった。

情報サービスだけでなく、遺伝子組換え作物の開発やミューオン触媒(サイム型)融合炉の設計、制御も行っている。


『その技術は"人類の数十年先を行っている"と言われているわ』

怪しい。

『経営者、起業者は公表されておらず、姿を見た人も限られてる』

とても怪しい。

そもそも社名が怪しさ全開である。


「あークレオパトラ?」

『なに?』

「先程の困りごとは、どうやら解決しそうだ」

そこの現経営者、さっきリビングで回し車を一生懸命回してた。


ただし、この件はくれぐれもご内密に。


========

-2045年10月17日 10:00-


英国が誇る女優、クレオパトラ・ディートリッヒを乗せた自家用ジェットは、ロンドン・シティ空港を離陸。

同乗者は、アルジャーノンEA幹部と妻、生まれたばかりの毛布に包まれた息子。

なお、幹部の黄色人種(モンゴロイド)男性は、ペットのネズミを連れていた、と伝えられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ