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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第五章 人類は三番目
32/81

ハラム、厳重に包囲される

-2045年10月13日 16:50-


ここで、時はもとに戻る。場所はクレオパトラの車の中


『待って!』

飛び出ようとする櫻井をジュリアが止める。

『むやみに走り回って探しても無理よ』


じゃぁどうする、と横を見るとクレオパトラが電話をかけていた。

ジュリアは端末を操作している。


『メイフェア一帯が通行止めになっているわ』

と、有力者との会話を終えたクレオパトラ。

『マウント・ストリート・ガーデンズの一帯を、スコットランドヤードが封鎖している』

と、ツィッターを検索したジュリア。

『封鎖の原因が、あなたたちの目的?』

櫻井は慌てて口を押さえるが、頭の上のフキダシに大きく"YES"と出てしまっている。

嘘のつけぬ男である。


クレオパトラはため息を一つつき

『裏道を使って、できるだけ近くまで行くわ』

とアクセルを踏み込んだ。


========

-2045年10月13日 17:00-


『これ以上は、近づけそうにないわ』

数千万£(ポンド)する車は、ドアに擦り傷が付き、バックミラーが1ケ取れてるというムザンなアリサマ。

『ありがとう。後は自分たちで行くわ』

ジュリアがガルウィングを跳ね上げる。


『これを』

クレオパトラがジュリアに携帯を投げる。

『私への直通電話』

『重ね重ねありがとう』


そう言って、ジュリアはダッシュ。

「待った!」

櫻井が引き止める。


「全力で走るな。俺が追いつけん」


========


「これはまた…」

『えらく厳重ね…』

問題の場所は"KEEP OUT"と書かれた黄色いテープで封鎖され、2mおきに警官が立っている。

「いったい…何をやらかしたんだ?」

"ハラムは"という言葉を慎重に飲み込む櫻井。


『これ以上近づくことは無理ね』

ジュリアが手話で言う。

「?」

表情で疑問を表した櫻井に説明する。

『あのブロックを封鎖しているのは、スコットランドヤードじゃない』

ジュリアが歯を食いしばる。

愛情省(ミニルブ)よ』


========


真理省(ミニトゥルー)が"現実"を創るならば、それを守る組織が必要となる。


各国が現実を改変しだした当初、様々な人がその事実を暴こうとした。

だが新聞には検閲が入り、TVは審査を受け、ネットはAIが監視し不適切な記述を削除した。

そして、事実を暴こうとした者、社会に対する不安定因子を修正する組織が作られた。


なぜ"現実"を認めず、社会を不安定にさせるのか。

それは、社会に対する愛が足りないからだ。

その者に、社会を愛させなければならない。


事実を暴こうとした者は、ある夜、足音を耳にする。

その者は、その夜を境に消える。

暫くの後、その者は再び現れる。

だが、以前の者ではない。

その者は、愛を知る者だ。


その者は、社会を愛する者となる。

その者は、以前の行動--事実を暴こうとしたことを恥じる者となる。

暫くの後、その者は再び消える。

永遠に。


そうして社会を、"現実"を守る省が愛情省(ミニルブ)だ。


この時代、愛情省は強大な力を持っている。

真理省は、脳の外側にある情報に対し、全ての権限を持っている。

愛情省は、脳の内側(・・)にある情報に対し、全ての権限を持っている。

愛情省が指示すれば、人間は自分の考えを変えねばならない--否、自ら進んで、喜んで、歓喜に震えながら変えるのだ。

数千年の歴史の中で、人間はその方法--他の者を従わさせ、隷属させ、思想を思考を変え、制御し、管理する方法を学んだ。


各国で呼び方は違う。

だが、主要国には必ず、この組織が存在する。

脳の外側と内側、それぞれの情報を管理する組織だ。


ジュリアは存在しない。

その"現実"を創ったのは、真実省。

その"現実"を守るのは、残された僅かな瑕疵を修正する機会を窺っているのは、愛情省だ。


========


『まいったわね』

そのブロックを遠巻きに1周りした後、ジュリアが手話で言う。

『これはネズミ一匹、入り込む隙もない』

1ブロック全体を2m間隔で警官が、愛情省が取り囲んでいた。


「いや」

と、櫻井がつぶやく。


「ネズミ一匹なら、入り込めるかもしれない」

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