アサラト、手段を選ばず捜索する
-2045年 10月12日 14:35-
攫われた第3世代のうち、ハラムが見つからない。
1階の端末室に、大勢のSボノボが集まっている。
所長が地下でなく地上で--自分の目の及ぶ所での捜索を、強く主張したためだ。
『当該地域では銃の発射記録は見当たらず。銃はザンビアから持ち込まれたと推測』
『ハラムの位置情報、捉えられない』
続々と、第2世代から捜索結果が報告される。
ただし、報告先は所長でなくアサラト。
所長は口を出さない。
この研究所のトップは建前上は所長だが、実権はSボノボにある。
第2世代のリーダ、アサラトが実質的なトップだ。
手当が終わったアトケも、調査に参加している。
『上カタンガ州内、全道路の監視情報探査開始』
『国境監視カメラ映像探査終了。該当なし』
『ハラム、どこに行っちゃったの』
通常は地下から出てこない第3世代も、端末室にいる。
ただし調査には参加させて貰えず、第1世代にしがみついている。
『位置情報が捉えられない、ならば隣国の可能性が高い』
人差し指を額に当て、アサラトが呟く。
『ルートD100を通行した全ての車両にアクセス』
所長の顔が青ざめる。
アサラトは、他人の車両に搭載されたAIに侵入し、ハラムを攫った車両を特定しようとしている。
言うまでもなく違法だ。
しかもルートD100はコンゴ国内ではなく、外国の国道。
バレたら国際問題待ったなし。
『該当する138台のドライブレコーダを調査終了』
数分もしない内に報告が挙がる。
『対象は?』
『ジャンベ隊が救出したトレーラ以前に、国境を通過した車両』
アサラトの問いに、パンロゴが答える。
『内、遺跡方面から来た車両は21台。車両内LANを通じてハラムにpingを?』
『やりなさい』
パンロゴがリターンキーを叩く。
『実施--該当なし』
『ハラムは--ハラムの身体に埋め込まれたタグは、ザンビアへ行った車両に無い』
クリンが呟く。
『リスクはあるけど、コンゴ航空管制システムに侵入する?』
アトケが言う。
『やって』
アサラトが了承する。
即時性が求められる航空管制システムは、常に負荷が高い。
下手に侵入すれば、その行為が負荷を増やし、システムダウンに繋がる恐れがある。
最悪の場合、航空事故が発生する。
航空管制システムの一部処理を、研究所の電算機で肩代わりしつつ、侵入するアトケ。
離れ業である。
そして所長の顔に、もう血の気はナイ。
椅子に座ったまま、失神しそうな勢いだ。
さすがに心配になった櫻井が話しかける。
「あのー所長…」
『言うな』
『私は責任者だ』
血の気が引いた黒い顔を、櫻井に向ける。
『全てを認識し、万一の場合は証言する責任がある』
「!?」
「アサラトたちを、逮捕させるつもりですか!」
低い櫻井の声に、所長は首を横に振る。
『これら全てを私1人が実施したことにする。だから、何を行ったのか認識しておかねばならん』
所長の目の前で、コンゴの航空管制システムが飛行計画を吐き出し始める。
その時は--と所長は櫻井に頼む。
『面会に来てくれたまえ。私の好物は、長女が作ってくれるケーキ…』
「ピャアッ!!」
所長のセリフは、クリンの叫び声で遮られた。
『見つけた!!』
『トランスポンダコード1275。回転翼機だ!』
『ルブンバシ国際空港に12:10着』
「そこから先は?」
思わず櫻井が声を出す。
『現在まで離陸した機は153便。全機の並行調査はシステム負荷が上がりすぎて、クラッシュの危険性があります』
アサラトが一瞬目を閉じる。
『ヘリコプタを使ったということは急いでいたはず。12:10以後に離陸した機を時間順に調査』
アトケの座る端末の周りに、Sボノボが群がる。
『これか?』
『いや、重量が違う。ハラムの体重は?』
『26kgよ』
アサラトが答える。
『見つけた!重量40kg。差分は檻の重量と想定』
『SAA295便、行き先はLHR』
英国の首都ロンドン、ヒースロー空港。
そこが、ハラムの連れ去られた先だ。




