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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第四章 三代目は信条潰す
25/81

サイム、良い見世物になる

-2045年 10月12日 12:25-


ファーンッ!

トレーラーが急停車し、クラクションが盛大に鳴らされる。


「何しやがる! 死にてェのかッ!!」

窓から顔を出し怒鳴る運転手。

睨みつけるその視線の先には、後輪をスライドさせて止まったバイク(スラクストン)

そしてヘルメットを脱ぎ、憤怒の形相を露わにしたサイムだ。


「お前たちが運んでいる積荷に用がある」

イギリス英語クイーンズ・イングリッシュが、国境近くの村に響き渡った。


「ようおっさん、そんなひ弱な体で強盗か?」

助手席から顔を出した強面の男が言う。

「別の相手にやンな! 俺たちァ急いでンだ!!」

運転手が叫ぶ。


運転手に構わずサイムはバイクを降り、トレーラの右より--助手席の前に立ちはだかった。

「素直に積荷を下ろすなら、お前らは見逃してやっても良い」

助手席の男は、サイムと視線を合わせ。

「下ろさなければ、どうするつもりだ?」


「牢獄がお前らを待っている」

サイムは人差し指を中指を揃え、助手席の男に突きつける。

「"絶滅危惧種の国際取引(ワシントン条約)に関する条約"違反でな」


「どうします?」

運転手が助手席の男に囁く。

その手には、自動拳銃(グロック17)が握られている。

「よせ、相手が悪い」


トマス・サイムは有名人だ。

世界中の人々が、小さな子供でもその顔と名前を知っている。

野次馬の中には、早速写真を撮ってる者までいる。


「どうしても退かねェッていうのか!」

「私に退いてほしいのなら、な」

運転手の叫びにサイムは獰猛な笑みを浮かべ。


我が屍を(Over my) 乗り越えよ(dead body)


ここから北、ザンビアとの国境にはルアプラ川が流れている。渡れる場所は限られる。

そもそも引き返しても、バイクで追いかけてくるだろう。

そして問題の"荷物"は、速やかに引き渡す必要がある。


「やれやれだ」

助手席の男はトレーラーを降りるとサイムに近づき、その体をひょいと肩に担いだ。

「おい、バイクも退かしてやりな」

嬉々として言葉に従う運転手。

肩の上でサイムは暴れるが、鍛えられた男の腕はビクともしない。


========

-2045年 10月12日 12:35-


「間に合った」

サイムが騒ぎを起こしている場所から100mほど後ろ。

四輪駆動車を停めたジュリアは、後部を振り返る。

「みんな、サイムが彼らの気を引いている内に」


荷台のSボノボたちが森の中に散った。

「ジャンベ!」

ジュリアは荷台に1人残っている彼女に声をかける。


「殺しては駄目よ」

第1世代のリーダー、ジャンベはその声に振り返ることなく、森へ跳ぶ。

その姿を木陰に消す前に、手話が一言告げた。


『了解』


心配そうな目で見送ったジュリアは、頭を一振りするとアクセルを踏み込み、四輪駆動車を東へ--遺跡へ向けて進ませた。


========

-2045年 10月12日 12:40-


「降ろせッ! 降ろさんかッ!!」

助手席の男の肩の上で暴れまわるサイムだが、まるで役に立っていない。

野次馬のシャッターチャンスになっているだけだ。

そして、野次馬もトレーラーの男たちの注意もサイムに集中し、トレーラーの上10mの、木の枝の不自然なしなり具合には気づかない。


バイクを退かし終えた運転手が、トレーラーへ振り向こうとした時。

「ちょいと、そのセンセ返してぇな」

朗々とした声が響いた。


長身の男が近寄り、助手席の男の肩からサイムを奪う。

「誰だてめェ!」

運転手が凄むと、その男は両手を上げて攻撃の意思が無いことを示す。

「コラ降ろせッ! 降ろせと言うにッ!! 落ちるーッ!」

一方、頭から落っこちそうになってるサイムは、大騒ぎである。


その隙にトレーラーの扉が開いたことに気づく者はいない。


「なんかウチのセンセがご迷惑かけたようで、えろうすんまへん」

人好きのする笑顔で話しかける長身の男に、トレーラーの2人も警戒心を緩める。

「いやーこのセンセ、思い込みが激しゅうて、ちょくちょく騒ぎ起こすんですわ」

よっこらしょ。

肩から落ちそうになっているサイムを、担ぎ直す長身の男。


「この前なんかも、自分の論文が別人の名で発表されたって、そらもう大騒ぎで…」

「悪いが、俺たちは急ぐんだ。もう行っていいか?」

助手席の男が話を切る。


「おい、行くぞ」

「あ、ちょいと待ってぇな」

引き止める長身の男は、左手を腰に回す。

トレーラーの2人に緊張が走る。

と、長身の男の手から札束(マネークリップ)が落ちた。


「ありゃりゃ」

20£札の束が留められたマネークリップを拾い上げ、1枚助手席の男に進呈。

「センセがご迷惑なことしたと思うんやけど、これでひとつ」

運転手にも1枚進呈する。

「この件は、くれぐれもご内密に」


20£の臨時収入を得た男たちの背後で、トレーラーの扉が静かに閉まった。


長身の男は手早くサイムを簀巻にし、乗ってきたトラックの助手席に放り込む。

続いてバイクもトラックの荷台へ仕舞う。

その手際の良さに注目していた人々は、トレーラーの影から森へ走る何体もの影に気づかなかった。


「ほな!」

にこやかに手を振り、来た道を戻るトラック。

面白い見世物に満足した野次馬は、当分話題に事欠かないだろう。


========

-2045年 10月12日 12:50-


荒れた道を、ゆっくりと1kmも走っただろうか。

長身の男--デジレはトラックを停め、サイムの拘束を解く。

サイムは助手席から降り、荷台のシートを捲りあげる。

何体もの黒い影が、素早く荷台に乗り込むと、サイムはシートを下ろす。

サイムが助手席に戻ると、トラックは静かに発進した。


「すんまへんなぁ。なんや変なウワサが流れてまう」

なぁに、とサイムはウインクする。

「変人扱いされるのは、私の得意分野だ」


========

-2045年 10月12日 13:45-


「5人、確かなのね」


遺跡近くにジュリアが停めた四里駆動車。その荷台は今、臨時の手術室になっていた。

10番ゲージ弾7発を、バラフォンから摘出中だ。

その周りには、調査隊の面々が身を寄せ合っている。

中心には、鎮静剤が効いて眠るオルトゥが横たわっている。


少し離れた場所で抱き合っている2人に、ジュリアは近づく。

『私はなぜ--』

コラの胸にはマセンコが顔を埋めている。

『撃たなかったの?』


コラの右手人差し指が、存在しない銃の引き金を引く。


「撃たなくてよかったのよ」

ジュリアがコラの肩に手を置く。

コラの首が横に振られる。

『撃つべきだった』


『撃ち殺すべきだった』

ジュリアの腕が、マセンコごとコラを抱きしめる。

『私ならできた』


「たとえ可能であっても、貴女たちはやめて」

ジュリアの腕に力がこもる。

貴女たち(ボノボ)は、私たち(ヒト)のようにはならないで」


「取り戻すわ。絶対に」

四輪駆動車の荷台から手が伸び、手術の成功を伝えるが、コラの悲しみが薄らぐことはない。


調査隊に参加した子供たち(第3世代)は7人。

5人は、ジャンベたちがトレーラーから救出した。

密猟者(ハンター)から逃れたのは、マセンコ1人。

後1人、ハラムが見つからない。


ジュリアの瞳に炎が宿る。

「必ず見つけ出す」

どんな手を使っても。

次回投稿は1/27頃

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