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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第四章 三代目は信条潰す
23/81

櫻井、絡まれる

-2045年 10月9日 17:50-


『さて、そろそろ夕食の時間だ』

とサイム。

『貴女たちも出てきなさい。食事の時間よ』

と、みっしり詰め込まれた子どもたちに声をかけるアサラト。


ふと気づく櫻井。

そういえば、子どもたちを食堂で見かけたことが無い。


「彼らの食事は特別なのか?」

アトケの頭が、ゆっくり左右に振られる。

『この子たち、外が怖くて出られないのよ』

確かに食堂は開放的な空間で、大きな窓から中庭が見える。


『怖くなんかないよ!』

ダンボールから手だけが飛び出て、反論する。

『嫌いなだけー』

『だって、外は土とか森とか汚いし』

『暑かったり寒かったりするし』


引きこもりな子どもたちである。外見は野生のお猿さんなのに。


========


『このままじゃマズいと思うな。私は』

第1世代のバーテンダー、ムベトは主張する。

『子供は外で遊ぶものだ』


そうだそうだと周りで声が挙がる。

ただし片手での手話なので、夕食を口に運ぶスプーンは止まらない。

今日の夕食はカレーライス。初めは櫻井がイナンガに頼んで作ってもらった特別メニューだったが、今では人気メニューだ。

特に第1世代には大好評である。


『前から第3世代の引きこもりは、問題視されてたんや』

デジレは食べる手を止めて言う。フランス語なので。

『最近の若い者は手を汚そうとしない、ってな』


ちなみに第1世代は全員27才。

年齢的には充分、最近の若い者である。

ただしボノボとしては、ひ孫がいても不思議ではない歳ではある。


『我々は昔から外で暮らしていた』

『俺たちの親は、家の中には入らなかった』

『むしろ、我々も外で暮らすべきじゃないか?』

今の若い者たちへの苦言が食堂に広がる。


パンパン。

手が鳴る音が聞こえた。

皆の視線が、手の鳴る方へ--アサラトに向く。

『"~である"から"~すべき"を導いてはならない。ヒュームのギロチンよ』


『倫理--善とは理想であるべき。事実と善悪は独立であるべき』

アサラトはゆっくりと食堂の人々を見渡す。


『例えば、私たちは高々3世代前は獣だった。ある意味、今でもそう』

とアサラトは、ふさふさな毛で覆われた自分の腕を上げる。。

『その事実をもって、私たちの人権を奪うことは善かしら?』


第1世代の一部が後ろめたそうに視線を落とし、アサラトは静かに座った。


『とはいえ』

静まり返った食堂で、クリンが言う。

『子どもたちにも外の世界を見せておきたいよなぁ、今のうちに』

『それは、そのとおりね』

アサラトも同意する。


『その件なら任せろ!』

ドアが開き、大柄なSボノボが言った。


========


そのSボノボは、バラフォンという。

第1世代で、最も武術に優れている男だ。

素手で水牛をも倒せる、と言われてる。

ただし、実際に水牛を倒す時は銃を使うので、本当かどうか誰も知らない。


バラフォンの後ろから、ジュリアが顔を覗かせる。

フィールドワークに行っていた者たちが、帰ってきたのだ。


さっそく毛づくろい他のスキンシップを始めるボノボたち。

彼ら彼女らをかきわけ、櫻井はジュリアに近づく。

「成果は上がったかい?」

『ああ、トビキリのヤツがな!』

横からバラフォンが口を挟む。実際には手話だが。


『遺跡を見つけたの』

煌めく瞳でジュリアが言う。

『大量の羊皮紙が保存されてたわ。図書館だったのかも知れない』


『いつ頃のもんや?』

デジレが会話に加わる。

『古いわ。かなり』


『人類史上の大発見になるかも知れない』

興奮を隠しきれない表情でジュリアが続ける。

『古代エジプト文明より、古い可能性があるわ』


古代エジプト文明の発祥は紀元前4,000年、今から6,000年前に遡る。4大文明の1つだ。

人類史上、それ以前の文明は発見されていない。

「そんなものが、どこに」

残ってたのか、と櫻井が問う前に有機EL眼鏡(グラス)へ会議通知が届いた。


『聞きに行った方が早そうやな』

デジレと2人で夕食をかき込み、席を--立てなかった。

イナンガが櫻井の前に立っていたからだ。

『さぁサクライ、皿洗いの時間よ』


========

-2045年 10月9日 20:10-


「で、どこにあったんだ?」

ムベトのバーカウンターに、皿洗いと後片付けを終えた櫻井が座る。

『ここから北、ザンビアとの国境沿いにルアプラっちゅう川が流れとる』

デジレが答える。

『その川岸に洞窟があったの』

ジュリアが補足する。


櫻井のグラスに写真が映し出される。

「こりゃまた…」

川岸というより断崖絶壁。その途中に、洞窟の入り口が小さく見えていた。

わいら(ヒト)じゃ、とてもたどり着けんわ』


身軽なSボノボでなければ、行こうとも思わないような場所に、入り口があった。

『だからこそ、今まで保存されていたんでしょうね』

ジュリアが悲しげに言う。

『私は、連れて行って貰えなかった』


--重すぎたんやな

--だな

目と目で会話するデジレと櫻井。

口に出せば大惨事待ったなしである。


『ああ、どうして私はヒトなのかしら』

嘆くジュリア。

ぽんぽん。

櫻井とデジレが、両側からその肩を叩く。


『石造りの扉を開けると、けっこうな空間が広がっててな。そこに羊皮紙で書かれた書物が、ぎょうさんあった』

デジレが説明を続ける。

『第1世代は手先が不器用やから、写真だけ撮らせて中身は見とらん』

ただし、表紙と背表紙に書かれた古代文字(ヒエラティック)は、少なくとも紀元前2,000年以前のものらしい。

『文字が縦書きや。これは、古代エジプト第11王朝以前の特徴らしいわ』


『文字自体も、既知のヒエラティックとは違うみたい。何が書いてあるかは今のところ謎』

なんとか復活したジュリアが補足する。

『明後日、第2次調査隊が向かうわ。それに第3世代を連れて行く』

私は連れて行って貰えない、と再び沈没するジュリア。


調査隊の隊長はバラフォン。

ただし、遺跡の中に入れば主導権は第3世代に移る。

『引きこもりの子供たちも、さすがにこの発見には興味津々や。外に出る決心をしたようやで』


小柄で身軽。しかも知能は抜群。

そんな子供たちなら、数日の内に謎を解いてくれるだろう。

『その現場に、足を踏み入れることもできないなんてッ!』

知能はともかく、小柄でも軽くもないジュリアは嘆き、酒を呷る。


--ヤバい?

--こらヤバいわ。絡み酒や

再び目と目で会話する男2人。


ほな、わいはそろそろ。とデジレが席を立つ。

じゃ、俺もそろろそろ。と櫻井も席を--立てなかった。

ジュリアが櫻井の腕を掴んでいたからだ。


『サクライ、今日はとことん付き合って貰うわよ』


翌日、ジュリアは復活した。

櫻井は、体調不良(二日酔い)により休暇を取った。

次回投稿は、1/6頃

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