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この件はくれぐれもご内密に  作者: tema
第三章 カエルの子はトンビ
17/81

櫻井、すっきりする

-2045年10月8日(日)4:55-


すっきりっ!


爽快な気分で櫻井はトラックを降りた。

リモコンでシャッターを閉め、暗い駐車場に灯りをつけようと壁のスイッチに近寄る。

と、闇の中に白い目が浮かんだ。


一瞬の出来事だった。

強力な掌で口を塞がれ、関節を極められる。

櫻井は身動きも、ジュリアに危険を知らせることすら出来ない。


ジュリアがトラックの扉を開け、車内灯がともる。

彼女に黒い影が近づき、その手が複雑な動きをした。


『痛くなかった?』

『優しくしてくれた?』

『途中から連絡が無くなったから、心配したよ』


ジュリアの声が聞こえた。

『え、ええ。大丈夫よ。彼は優しかったわ』

駐車場が明るくなった。


櫻井の口を塞ぎ関節を極めていたのは、第一世代のSボノボたちだった。

彼らは櫻井を解放すると、彼を抱え上げ、皆で胴上げを始める。

エライ勢いで宙を舞う櫻井。


やっと地上に降ろされると、ハグされ、握手を求められ、肩を叩かれる。

ボノボの腕力、握力で。

めちゃくちゃ痛い。


『後はやっておくから、お部屋へどうぞ』

『さぁさぁ、はやく早く』

『まだ夜は明けてないから、あと1、2回は…』


彼らの手話が2人を送り出し、櫻井はジュリアに手を引かれて彼女の部屋に入った。

「いったい彼らは…」

櫻井の言葉に頬を染め、目を泳がせるジュリア。

「まさか、君が彼らに…」


てへっ。

ぺろっと舌を出すジュリア。

「教えたのか?」

『うん。教えちゃった』


うん。教えちゃった。

その文字が、櫻井の脳裏を駆け巡る。

「--って、何でじゃ~~!!」


だって、とモジモジするジュリア。

『不安だったの…その、初めて…だったから』

可愛い、とちょっと萌える櫻井。

だが待てしばし。

「もし君が"優しくなかった"とか言ってたら、俺はどうなったんだ?」


熱心に天井の模様を見つめるジュリア。

『殺されちゃうようなことは…なかったと思うわよ』

櫻井危機一髪である。


頭を抱える櫻井にジュリアは擦り寄り、そっと有機EL眼鏡(グラス)を外す。

その後の櫻井は、あまり優しくなかった。


========

-2045年10月8日(日)7:40-


すっきりっ!


爽快な気分で櫻井は食堂に入った。

今日の朝食はバケットに目玉焼き、サラダにコーヒーとオニオンスープ。

コーヒーの香りと苦味を楽しむ桜井の前に、サイムが座った。


『さくやはおたのしみでしたね』


ブフォッ!

ゲホッ、ゲホゲホ、ゲーホゲホッ!


食堂は空いており、サイムをはじめ近くに座る人々(Sボノボ)は、誰も食事をしていなかった。

幸運である。

いや、運ではない。

慎重である。


「なぜ、なにゆえ、Why?」

『私だって、子供の時はNINTENDOに夢中だったのだよ』

--違う、そうじゃない。

櫻井は、断固として叫ぶ。心の中で。


『恋は良い』

夢見るような眼差しで、サイムは言う。

『そう、とても良い』

ちなみにサイム、独身である。


外見はさほどでは無いが、世界最高の頭脳の持ち主と言われる彼だ。

結婚する気があれば、相手はよりどりみどりである。

なのに、浮いた(うわさ)ひとつもない。

ただしゲイではない。そのケは断じてない、とどこかのインタビューで言っていた。


--なにか、良い思い出があるらしい。

そう思う櫻井だが、声には出さない。

それより優先すべき事項がある。


「その、あの」

『なぜ私が知ってるかって?』

--そう、それ。


『皆から聞いた。今朝からその噂でもちきりだったよ』

「みんな!?」

『そう、皆』


不意に櫻井は気付く。

彼を見つめる周りの目が暖かい。

ちなみにサイム以外は、全員Sボノボである。


いたたまれなくなった櫻井は、味も分からぬ朝食を詰め込み、食堂を出た。


ピン・ポン・パン・ポーン

館内放送があった。

『櫻井さん、所長室へ。繰り返します。櫻井さん、所長室へ』


========

-2045年10月8日(日)8:00-


『良い天気だね』

所長が窓の外を見ながら言う。

ちなみに空は、厚い雲に覆われている。


所長室には、所長と櫻井の2人きり。

とても気まずい。


『もう12年も前になるか。コンゴ政府AIを構築していた時のことだ』

計算機科学が専門の所長、そのプロジェクトのリーダだったらしい。

『ある日、素晴らしい設計書を読んだ。それを書いたのが、まだ14歳のバイトだと知った時には驚いたよ』

--いったい何の話をしているのか


『それが、ジュリアとの出会いだった』

--やっぱそれかーっ!

盛大に冷や汗を流す櫻井。


『彼女を飛び級でルブンバシ大学に通わせたのは、私だ』

遠い眼差しで、所長は言う。

『計算機科学ではなく動物行動学を選んだのは残念だったが、彼女が選んだ道なら支えてやろうと思った』


『この研究所は、彼女の家のようなものだ』

所長は真剣な眼差しで櫻井を見る。

『彼女は、私のもう一人の娘と言っていい』

ちなみに所長には他に、実の娘が三人いる。


『彼女がバージンロードを歩くときは、ぜひ私が連れて行きたいと思っている』


櫻井(クズ)、ピンチである。

全員で人生の墓穴を掘っている。それも相当深い。

そして、櫻井を突き落とす気マンマンである。


========

-2045年10月8日(日)14:00-


ぐだぐだぐだ。


暗澹たる気分で櫻井は端末室に入った。

元気に手を振るクリンと、横でニヤニヤしているデジレ。

デジレの肩には、アルが乗っている。


『いやー、よー思い切ったなぁ』

ポンポン。

櫻井の肩を叩くデジレ。

『ここまで外堀埋められたら、もー逃げられんで。年貢の納め時や』

力なく席に座る櫻井。


『でも気ィつけーや。彼女の戦闘力は飛び切り高いでェ。もし、浮気なんぞしようものなら…』

きゅっ!

と、くびり殺されるふりをするデジレ。

青ざめる櫻井。

身持ちの緩さには定評のあるクズである。


イチかバチか、日本まで逃げ帰ろうか?

藤田に頼めば、旅費を貸してくれるかも知れない。

いや、もうそれしかナイ。

思いつめる櫻井である。


『大丈夫や、そないに心配せんでええ』

軽い調子で言うデジレ。

ちなみに彼も系統的には櫻井に近い。

各国での学会発表のたびに彼女を作り、一夜の恋(アバンチュール)を楽しんでいる。


『彼女は14才からここにおる。ボノボと一緒に育ったんや』

「?」

『ボノボは性的に奔放や。ヒトから見たら、相当な乱れようやで』

「!」


櫻井の顔に生気が宿る。

『ま、色々問題あるさかい、避妊だけはしっかりな』

「御意」

クズ、完全復活である。


『みんな心配してたんだよ。ジュリアが群れを作れないじゃないかって』

「群れ?」

『結婚のこっちゃ。ボノボは集団結婚やけどな』

その群れの中では、自由恋愛らしい。

ちなみに群れの外でも、別に問題はない。多分。


--素晴らしい女性だ!

幸せを感じる櫻井(クズ)である。

だが、ふと疑問が浮かぶ。


「デジレお前、彼女とそういう関係には?」

目をそらすデジレ。

そういう関係になったことがないのは、櫻井には判っている。

ジュリアの"初めての男"だったからである。


『ほら、ワイ有機ELコンタクトやさかい』

それは関係ないだろう、と櫻井は確信する。

クズのカンである。

デジレが巨乳専門(フェチ)でないことも確認済みだ。

各国の彼女には、巨乳も美乳もいるが、微乳もいる。


櫻井はデジレを見据える。

クリンもデジレを見る。

櫻井の肩に乗ったアルも、デジレを見る。


『あー』

ちょっと小声でデジレは言う。

『いくら慣れとるっちゅーても、ライオンと一緒には眠れんやろ?』


パンッ!

デジレは手を合わせると、櫻井とクリンを伏し拝んだ。

『この件は、くれぐれもご内密に』

次回は10/21頃

→業務多忙により、10/28頃 m(__)m

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