ジュリア、櫻井を置いて走り去る
-2045年10月7日(土)16:40-
--気まずい
ジュリアと並んでトラックへ歩く櫻井は、困惑していた。
1.あの眩暈は何だったのか
2.急にジュリアがよそよそしくなったのはなぜか
3.ジュリアが落ち込んでるのはなぜか
疑問が3つもある。
クズの経験上、腰を抱いたのは別にマズく無かった。断じて拒否、って雰囲気じゃ無かった。
視界が歪み床に崩れ落ちたのは、ジュリアが何かしたためではない。櫻井が勝手に眩暈を起こしただけだ。
だがその後からだ、急にジュリアの態度が変わったのは。
崩れ落ちた櫻井を心配しようともせず、ジュリアは急によそよそしくなった。
以来、彼女は櫻井に触れようとしない。
表情も固い。何かを心に秘め、表情に表さないようにしている。
『ヘイ、ジュリア!』
突然、大声で呼び止められた。
見れば、軍服を着た大柄なコーカソイドの男。
ジュリアは破顔し、彼に駆け寄る。
『オブ!久しぶり!』
ハグ、そして頬へのキス。
『オブ、紹介するわ。同僚のサクライ。サクライ、道場の兄弟子だったオブライエン中佐よ』
櫻井が差し出された手を握ると、潰されるんじゃないかと思うほどの力で握り返される。
『兄弟子って言っても、手合わせでは負けっぱなしだがな』
『こいつは部下のカビラ』
横に居た、まだ10代と思われる兵士を紹介するオブライエン。
『カビラです。ちなみに、オブライエン"大佐"ですよ』
『まぁ、昇進したのね。おめでとう』
カビラは櫻井と握手し、ジュリアと握手し--
崩れ落ちた。
頭を振り、立ち上がろうとするカビラを、ジュリアは蒼白な顔で見つめていた。
『D?』
次の瞬間、カビラは殴り飛ばされる。
『私の妹弟子を、その名で呼ぶなッ!!』
オブライエンが鋼鉄の声で言った。
--ディー?
何のことやら分からぬ櫻井を置いて、ジュリアは駆け出す。
あっという間に角を曲がり、姿を消すジュリア。
呆然と立ちすくむ櫻井。
『サクライ』
オブライエンが声をかける。
『すまない。こいつに悪気は無かったんだ』
鼻血を出しているカビラの襟首を掴みながら、言う。
「"D"とは、何ですか? それに、先ほど俺も彼と同じように眩暈が起きた。あれは--」
『そうか、君は日本人か。ならば知るまい』
と、オブライエンはカビラから手を離す。
『その件は、私の口から言うことはできない』
櫻井の視線を捕らえ
『ジュリアを、彼女を頼む。彼女は--』
オブライエンは途中で言葉を止め、カビラを伴い立ち去った。
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--頼むって言われても、なぁ
オブライエンたちが立ち去った後、ジュリアが駆けて行った道へ向かうが、ジュリアの姿はどこにも無い。
きょろきょろと周りを見ながら歩く櫻井の有機ELメガネに、文字が映った。
"pSyon:ミギ コミチ"
櫻井の右手に細い道があった。だが
--サイオンって、誰だ?
"pSyon:イソゲ"
櫻井は駆け出した。
サイオンが指示する方向へ走るうち、喧騒が聞こえてきた。
10数人もの、ナイフを持った若者たち。
その中心にジュリアが居た。
櫻井は一瞬、間に合わなかったのでは、と恐怖する。
ジュリアがレイプされ、心に、身体に消えない傷を刻まれたのでは、と。
だが、現実は逆だった。
彼女は、若者たちを圧倒していた。
その一撃で、長身の男が沈む。
腕を取ろうとした大男に、関節を極める。
ビルの壁を蹴り、三角跳びで2人の若者を纏めて蹴り倒す。
足下には、倒され痙攣している若者が何人も転がっている。
倒れた若者の顔に、固めた拳が振りかざされ--
「やめろッ!ジュリアッ!!」
時が凍りついた。
身体ごとジュリアの腕を止めた櫻井の背筋に、冷や汗が流れる。
その鉄拳が櫻井に向けられたら、一撃で物理的に昇天しそうだったからだ。
熱を帯びたジュリアの身体から、ふっと力が抜けた。
"pSion:ケイカン クル。ヒダリ ニゲロ"
櫻井はジュリアの手を取り、左の小道に駆け込んだ。
行き止まりに見えたその道は、更に左に道が繋がっていた。
迷路のような街路を抜け、大通りに出た時には、すっかりどこに居るのか判らなくなっていた。
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櫻井はグラスに地図を表示させ、現在位置を確認。
ジュリアを立たせ、トラックを停めた駐車場に向かった。
タクシーは捕まらず、小一時間かけてトラックにたどり着いた。
自動操縦装置を起動し、行き先を研究所に設定する。
エンジンがかかり、トラックは滑らかに動き出した。
『どうやって--』
日が沈みかけた暗がりの中、ジュリアの目の白い部分だけが浮かんで見えた。
『私の場所を知ったの?』
櫻井は口を開き、どう説明しようか迷い
「誰か、俺達を見守っている者がいるようだ」
と言った。




