真実はどれか1つ
「わーっ! 待って待ってーっ!」
必死に追いかけたが、無情にもバスは砂ぼこりを巻き上げながら走り去った。
だいぶ西に傾いたとはいえ、夏の厳しい暑さの中で猛ダッシュはこたえた。
間に合ったならまだしも、逃してしまったもんだから、余計疲労が大きく感じる。
陽射しをよけるのと、時刻表を見るために、木造の待合室に足を踏み入れる。
「あ、どうも。」
待合室には先客がいた。
ベンチの端っこに座ったセーラー服の女の子。
オレの声に、読んでいた本から顔を上げ、軽く会釈を返してきた。
長いまっすぐな髪がサラリとこぼれ落ちる。
眼鏡に黒髪、膝に置いた単行本、文学少女を絵にしたらこんな感じだろうな、っていう、清楚な雰囲気の女の子に、一瞬、暑さも忘れる。
ひぐらしの声で我にかえる。
「えっとー、次のバスは……」
「明日です。」
「えっ?」
彼女の言葉より、彼女がしゃべったことに驚く。
「1日1本だけですよ、バス。」
「え……ええーっ?」
改めて彼女の言葉に驚く。
「田舎ですからね。」
「マジかぁー。ん?」
もうバスは来ないのに、この子は何でここに?
「キミは、乗らなくてよかったの? さっきのバス。」
「バスを待っているわけではないので。」
「ああ、誰かと待ち合わせ、とか?」
「わたし、ここに住んでいるんです。」
「ああ、なるほどねー。ここに住んで……るうぅ!?」
「ウソです。」
「だ、だよねぇ。待合室に住んでるなんて……」
「次のバスは、1時間後に来ますよ。」
「そっち? ウソって、バスは1日1本ってほう?」
「汗だくですね。水分補給したほうがいいですよ? 冷たい麦茶でも飲みます?」
「あ、うん。いただこうかな。」
「ここから10分ほど行ったところにコンビニがありますので、ご自由にどうぞ。」
コンビニ目指して歩き出したオレ。
あれ? 頬を伝っているのは汗? 涙?
缶コーヒーを手にバス停に戻ると、女の子はいなくなっていた。
そうだよな。
待合室に住んでいるワケないよな。
ベンチに座り、コーヒーを開ける。
なんだったのかな、あの子。
ちょっとくやしいような、まんまとだまされて恥ずかしいような複雑な気分でバスを待つ。
すっかり日が落ち、辺りは薄暗くなってきた。
待てど暮らせどバスは来ない。
…………
『1日1本だけですよ、バス。』
『わたし、ここに住んでいるんです。』
『ウソです。』
『次のバスは、1時間後に来ますよ。』
ここから導き出したオレの答え
『1日1本のバス』×
『待合室に住む女の子』○
『次のバスは1時間後』○
しかし、コンビニから帰ると彼女はいなかった。
となると、彼女の、
『ウソです。』
は、どの言葉に対してだったのか?
この期に及んで、オレは初めて時刻表を見た。
「……マジか。」
正しい答え
『1日1本のバス』○
『待合室に住む女の子』×
『次のバスは1時間後』×
10分後目にしたコンビニの灯りを、オレは一生忘れない。