8.森の番人
これまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
今はまさに絶体絶命の状況だ。こっちはたった3人の冒険者。そして相手はSSランクの魔物4匹だ。どう見てもこちらが圧倒的に不利である。これは最悪の場合、『神技』を使う事も考えなければならないかもしれない。
「なあ、もしかしてあれが森の番人か?」
「もしかしなくてもそうですよ!どうします?逃げますか?」
「おいおい、あいつらが黙って逃がしてくれるでも言うのか?」
「そ、それだったら、3人でどれか1匹の所に突っ込めば……」
「無理だね。そんな事をしてる間に他の3匹にやられちゃうよ。」
俺らが相手している4匹はそこまで大きいわけじゃないが、決して小さいわけでもない。よって、奴らの動きが遅いおかげで逃げ伸びることが出来る、なんて都合の良い展開は起こり得ないだろう。
まず1匹目のグリフォン。これはざっくり言うとトカゲに羽が生えて、それを少し偉くしたような感じだ。
そして2匹目のサラマンダー。これは体に炎を纏っている龍だ。
3匹目はユニコーン。これは魔物の中でも有名な方だが、一応説明すると、馬に角を生やした感じだ。
最後に4匹目のフェニックス。これは炎を纏った鳥だ。不死鳥とも言われる。
さて、こんな状況をどうやって突破しようか。
「…………どうする?」
「うーん、とりあえず俺が魔法撃って、奴らの目を眩ませるから、その間にお前らが別々の方向へ逃げるってのはどう?」
「………アルはその後どうする?」
「俺はまあ、その時考える。」
「それじゃあ、ダメです!」
「でも他に良い案無いんだから仕方ないさ。ほれ、行くよ、『インフェルノ』!」
俺は奴らに向かって焔属性の上級魔法を放つ。そのせいで周りが見えなくなったのか、4匹の動きが止まる。
「よし!今のうちに逃げろ!俺は気を引いておく。」
ここまでは作戦通りだ。あとは俺がなんとかすれば……
「きゃっ!!」
「どうした!?」
声のした方を見ると、アイリスが転んで動けなくなっていた。恐らく木の根か何かに足をつまづかせてしまったのだろう。しかし俺の魔法は既に消えている。4匹の魔物の視界はもう晴れてしまっているのだ。こうなれば、奴らが狙うのは、転んでいるアイリスに決まっている。
ふとトリーの方を確認する。トリーは無事に逃げられたようだ。目視で確認するのが難しい所まで逃げている。まったく、逃げ足の速いやつだ。
おっと、そんなに余裕を持っていられる場合じゃないな。アイリスが危ない。
「くそっ!『アブレーション』!」
さすがにアイリスの命が危ないので、焔属性の最強魔法を撃った。そして、4匹を纏めて炎の中に閉じ込めることが出来た。
「ふぅ、これで少しは時間稼ぎができるか。」
そう思った次の瞬間、炎の中からフェニックスとサラマンダーが出てきた。
「っ!そうか。あいつらもともと炎を纏ってたっけ。」
それもそうだ。常に炎を纏っているやつを炎で閉じ込めようとしても、そんなことは無理に決まっている。
そして、炎から出てきた2匹は迷わずアイリスの元へ向かい、攻撃を始めた。サラマンダーは牙、フェニックスは翼でアイリスを狙う。
「くそっ!!!」
転んでいるアイリスは無防備な状態だ。そこを襲われたらアイリスは確実に死ぬ。それだけは避けなければならない。こうなったのも元はと言えば俺のせいだ。俺が出し惜しみをせずに初めから『神技』を使っていれば。もっと言えば、俺がこいつをパーティメンバーに入れていなければ。
しかし、どんなに後悔しても、もう遅い。悪かったのはあくまで昔の事で、俺らが生きているのは今だ。どんなに後悔したところで意味なんてない。
「だから、絶対にこいつは殺させねえ。」
そして俺はアイリスの目の前に立つ。
「こいつを殺したいんなら、俺を殺してからにしな。」
「アルさん!!!」
地面が真っ赤な血の色で染まった。そして、気が遠くなるような痛みに耐え、俺は反撃を開始する。
「『神技』」
俺の全魔力の3分の1程を使い、魔力塊を形成した。高密度な魔力に対して怯んだのか、フェニックスとサラマンダーは動かない。
「これで、終わりだ。」
高密度な魔力塊は周囲を巻き込み大爆発した。
爆発が終わってから周りを見てみると、俺とアイリスが立っている部分を除いて森の大部分が消えて無くなっていた。
トリーは運良く爆発から逃れたのか無傷のようだ。アイリスも転んだ時の怪我以外は問題ない。
問題があるとすれば俺だけだろうな。さっきフェニックスとサラマンダーの攻撃を受けた時に、両腕が消し飛んだ。さらには、体の至る所から血が流れており、体がとても重い。
意識が朦朧としてくる。側でアイリスが何かを言って泣いているが、言葉の内容までは分からない。
そうして、俺は意識を手放した。
目を開けると、空には綺麗な星たちが見え、大きな月が雲から顔を覗かせていた。
静かに起き上がると、腕がない事を確認し、状況を整理した。おそらく、俺は魔物たちを殲滅した後、意識を失って倒れたのだろう。
「………!起きた!」
「ああ、おはよう。悪いな、迷惑かけたみたいで。」
「そんなの全然大丈夫です!こっちこそごめんなさい!私のせいで……」
「気にすんなって。こうなったのは俺の判断ミスだ。もっと良い作戦があったかもしれない。」
目を覚ました俺に気づいた彼女らは、目を潤ませながら、俺の心配をしてくれている。
「…………そんなことより、体は大丈夫?」
「体は少し重いかな。多分魔法が使えなくなってる。それ以外は特に問題ないさ。」
おそらく『神技』を使ったからだろう。魔法が使えなくなり、体がとても重く感じる。今回は全魔力の3分の1程を使っちゃったからな。1ヶ月くらいは運動すらまともに出来ないかもしれない。いや、それはさすがに不便か。もう少し便利なスキルであってほしいものだが。
「そういえば、体の傷がだいぶ治ってるようだけど、アイリスがやってくれたの?」
「は、はい……。腕は治りませんでしたけど…」
「いやいや、それでも全然良いよ。ありがとな。」
アイリスはさっきからとても暗い表情をしている。おそらく俺に大怪我を負わせた事を気にしているのだろう。やはり、気にするな、と言われても気にしてしまうものなんだろうか。まあ俺がアイリスの立場なら絶対気にしてしまうだろうからな。仕方ないことなのかもしれない。
「とりあえず今日は寝ようか。2人とも看病ありがとうな。」
「……どういたしまして。おやすみ。」
「おやすみ、なさい。」
一度は目を覚ましたもののやはり疲労感が抜け切れていないことに気づいた俺は、再び眠ることにした。
目を覚まして起き上がってみると、どうにも体が軽いように感じる。『神技』を使ったことによる倦怠感は無く、何故だか腕も治っている。
「どういうことだ?」
「ふふふ、それやってあげたのは私よ?感謝しなさい。」
随分と明るい声がしたので、声のした方を振り返ってみると、見知らぬ女がそこにいた。
「どちら様でしょう?」
「うそ!私のこと忘れたの!?ひどいねー、私はイシスよ。これでも魔法の神様よ?」
そう自己紹介した彼女は、青い髪に黄色の目をした若い女性だった。
「自分のことを神様って……。1回現実を見ようか?」
「私は本物の神よ!まったく、分かってるくせに、意地悪するなんて、最低ね!」
「そこまで言われるようなことか?そんなことより、お前なんでこんな所にいるんだ?」
確かに俺はこの女性を知っている。神界にいた時に、何度か話した事があった気がする。こいつは本物の神だ。
「実は久しぶりに魔法が使いたくなっちゃってー。ゼウス様に送ってもらっちゃったんだよね。それで……」
どうやら話を聞くところによると、興味本位で地上に降りてきたのだが、ゼウスに条件を付けられ、それが俺と一緒に旅をすることだった、ということらしい。そして、いざ俺の所にくると、両腕が無い状態で寝ていたので、慌てて治療したんだとか。
「だから、私にはちゃんと感謝しなさいよね?」
「ああ、そうだな。ありがとう。」
何はともあれ、治療してくれたのは素直に嬉しい。両腕が復活したこともあるが、魔力が回復し、疲労がとれている、というのも素晴らしい。
「しかし、トリーはブレないな。この場に神が2人もいるのに、まったく動じないなんてな。」
「………ん。もっと褒めて良い。」
「おう。流石だ!トリー!」
そう褒められたトリーはニヤニヤと笑いながら、二度寝を始めようとした。いや、これマジですげえな。メンタル強すぎだろ。
「そういえば、アイリスはどこに行った?」
「………たしかに、朝から見てない。」
「うーん、私が来た時にはそのアイリスなる子はいなかったよ?」
なんだと?なんだか嫌な予感がして、周囲を見回してみる。すると、近くで1枚の紙切れが落ちているのを見つけた。それを手に取ってみると、綺麗な文字で何かが書かれているのが分かる。
アルさん、本当にごめんなさい。全て私のせいです。アルさんに迷惑をかけてしまいました。これ以上足手纏いである私がアルさんについて行くことは、許されません。そして、勝手に出て行ったことを許してください。
これまで本当にありがとうございました。
アイリス