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戦神アルの世界荒らし  作者: こまい
第1章 地上荒らし編
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7.亡者の森

 

  晴れてSSランクの冒険者となった俺たち3人は、この国を出て冒険を始めることにした。


  ちなみに俺が神であるとバラした後も俺たちの会話は普段通りで、まるであいつらがその事を忘れてしまっているかのようだった。まあもちろん本当に忘れているわけではないだろうと思う。多分。

 しかし実際それは非常にありがたい。もしも俺が神であるという理由であいつらの俺への態度が急変してしまったら、冒険がやりづらいことこの上ないからな。


  そんなこんなで冒険に出ることになった俺らだが、先ほどまでいた王都は国の中でも中心に位置するので、国の外に出るまでに時間がかかった。しかしその時間のおかげで得るものもあった。

  それは『神技』についてのことだ。これは俺のスキルの1つで、どんな効果を持つのか全く分からないものであった。俺が神界にいた時は使えなかったので、読み方すらわからない。おそらく、『かみわざ』か『しんぎ』のどちらかではあると思う。しかし、もし『かみわざ』だったとしたら、それほどざっくりとしたスキルはない。


  『神技』についての情報を得るために、読み方を変えて唱えてみたり、心の中で念じたりしてみた結果、様々な事がわかった。

  まず、読み方は『しんぎ』だった。『かみわざ』という読みで唱えても何も起こらなかったが、『しんぎ』と読むと、魔法が発動したのだ。


  その魔法とは、自分の持つ魔力を体外に引き出し、それを球状にする、というものだ。おそらくその魔力塊を敵に向かって撃てば相当な威力となることだろう。また、体外に引き出す魔力の量は操作することができる。そのため、自分では絶対に勝てないような敵に遭遇した場合などに、自分の持つ魔力全てを球状にして撃ち放つ事などを想定してる。試したことはないし試すつもりもないが、おそらくその威力はこの星が吹っ飛ぶほどだろう。もっとも、俺でも勝てないような奴が現れたらどのみちこの星は終わるだろうが。

  しかし、さすがにそれだけでは強すぎるので、当然デメリットも存在する。まず、『神技』を使うことによって、一定時間活発的な活動が出来なくなるということだ。


  魔力は使えば使うほど、体に疲労感が溜まっていく。そして、『神技』という大技を使ったことにより、引き出した魔力の量にもよるが、一定時間魔法が使えなくなる。ちなみに一回だけ、少量の魔力を使って『神技』を使ってみたのだが、その後は2日ほどろくに戦闘もできなかった。その時は全魔力量の100分の1程度の魔力しか使っていなかったが、その量でこれだ。魔力のほとんどを使ってしまったら、もう2度と戦闘が出来なくなってしまうのではないか、と思ってしまう。


  そして、もう1つ重要な事がある。魔力を大量に消費することにより、俺という存在が地上から消えてしまうかもしれない、ということだ。


  実は、神である俺が地上に存在するためには2つの条件が必要となる。


  1つ目は誰かの手によって地上へ転送されること。ちなみにこれは自分で転送しても構わない。

  2つ目は、自分を地上へ引き留めておけるほどの魔力量を常に有することだ。神というのは本来地上に存在してはいけない存在であるため、その存在を保持するために膨大な魔力が必要となる。そのため、俺は地上にいる限り全力で戦うことは出来ない。そして、自分を地上に保持しておくのに必要な魔力が無くなると、神界へ強制転送されてしまう。


  俺が地上にいるための2つ目の条件から考えると、『神技』によって大量の魔力を使ってしまった場合、俺は神界へ強制転送させられる可能性がある。しかし地上にいるために必要な魔力量の精密な値は分からない上に、俺の持つ全魔力量も分からないため『神技』を使うときには注意が必要だ。


 ここまで聞くと、デメリットのある『神技』を使わずに、魔力塊を使う攻撃は出来ないのか、と思う人もいることだろう。だが残念ながら、それは出来ないのだ。

 魔力というのは体外において非常に霧散しやすい、という性質を持っている。火属性魔法のように体外でも霧散せずに炎としての形が残るのはあくまで魔力を、霧散のしにくい炎の形に変えているからだ。そのため魔力そのものを体外で霧散させずに維持するのは非常に難しい。ただ、それさえ出来れば、わざわざ炎などの霧散しにくい状態に変えるための魔力が不要になるため、より威力の高い攻撃を行う事が出来る。

 そしてそれを可能にするのがこの『神技』というスキルなのだ。これでこのスキルの有用性が分かったことだろう。もちろんこれまでに上がっていないデメリットとして、魔力塊を相手に当てなければ意味がない、というものがあるが、上手く魔力塊の形を変えてそれを体に纏う事により自爆攻撃ができるようになる、という解決策もあるのだ。絶対にやりたくないが。


  まあとりあえず、『神技』は恐ろしいほど強いが、その代わりデメリットが大きいということがわかった。よって、これからの冒険でこれを使うつもりは全くない。こんなリスキーなスキルなんて使うだけ無駄だ。


  そんな結論を自分の中で出した後、国の外へ出た俺たちはある森の中へ入っていった。そこは、「亡者の森」と呼ばれる場所である。なんでも、入った人は例外なく全てが死んで亡者となってしまうため、こういう名前がつけられたのだそうだ。名前の由来がひどく恐ろしいな。

 こんな所にトリーとアイリスを連れてきても良いか少し迷ったのだが、初めて会った時に比べれば確実に強くなっているのは事実のため、結局行くことにした。もっとも、相手のレベルが分からない以上、慢心は良くないのだが。

 まあそれでも「亡者の森」への興味には負けてしまった。別にこの森を通る必要性は全くないのだが、どうしても行ってみたいのだ。森に入った者が全て死ぬなんて、よほど強い奴がいるに違いないからな。戦神としては行かざるを得ない。


「この森では森の番人と呼ばれる強力な魔物たちが存在すると言われています。また、SSランクの魔物が同時に襲ってくることもあるそうです。うへぇ、ここ本当に危なそうですねー。」

「…………強い敵は大歓迎。」

「まあ、そうだな。取り敢えず行ってみるしかないだろ。」


 そんな会話をしながら森へ入ると突然、何かからの視線を感じた。しかも、複数だ。


「おい、お前ら。感じるか?」

「…………ん。魔物?」

「なんで私たちの事を見てるんでしょう?」


 彼女たちも感じるらしい。好意的な視線ではないため、出来ればその敵を排除しておきたいものだが、おそらく敵はかなり遠くから俺たちの事を見ている。攻撃を仕掛けるのは難しいだろう。


「とりあえず気にせず行くぞ。」


 視線に気づいた所で何もできることがないため、視線は無視していく。



  森の中はまだ昼だというのに、真っ暗だった。周りに高い木が多すぎて、日光をほとんど遮ってしまっている。


「ちなみに、今日のお昼ごはんはどうするんですか?」

「あ………………」


 やばい。その事を完全に忘れていた。全く、何のためにパーティメンバーを確保したのかって話だよな。


「………もしかして、忘れてた?」

「す、すいません。」


 もうそこに神の威厳なんてものは存在しない。こんな状況を他の神が見たらどう思うんだろうか、などと余計な事を考えつつ、現実逃避をしていく。


「………悪い子にはお仕置き。」


 そう言うとトリーは俺の尻を思いっきり叩いた。


「いってぇ!!!おい、何すんだよお前。痛いだろうが!」

「仕方ないです!それに、こんな恐ろしいところでどうやってご飯を確保するつもりなんですか!」

「うっ………」


 正論だ。しかし、ただ昼飯どうするか考えていなかっただけなのに、思いっきり尻を叩かれた俺の気持ちも少しは考えて欲しい。


「…………?何かきた。」


 そんなやり取りをしていると、俺が大声を出したのがまずかったのか、何匹もの魔物が寄ってきた。


「あれは、オークですね。たしかランクはCだったはずです。」

「じゃあ、今日の昼飯は豚肉ということで。」


 良いところに、昼飯が現れてくれた。


「そうそう、これも俺の計画の内……」

「さっそくオーク狩りに行きましょう!」

「……ん。」

「ちょっと、無視するのやめてもらえません!?」


 少し負け惜しみを言おうとしたら、あっさり無視されてしまった。なんだかこいつら、俺が神だと知る前よりも態度が悪くなっている気がする。一体どういうことだ。

  俺が困惑していると、2人はオークを狩り終えていた。


「お、ナイス!」

「……………?アルの分はない。働かざる者食うべからずって知らない?」

「いやいや、オークたちをここに寄せ付けたのは多分尻叩かれた俺が悲鳴をあげたからじゃん?」

「……違う。私がアルの事を叩いたから。だから、アルは何もしていない。」


 まったくひどいパーティメンバーである。


「よし、分かったよ!俺は俺で獲物を見つけるからな。」


 そう決意して、30分が経った。俺が手に入れた獲物はゴブリンだけだった………。



 俺が獲物を狩り終えたので、みんなで昼飯を食べ始める。トリーとアイリスはオーク肉の生姜焼きだ。そして、俺はゴブリンの串焼き。2人に、ゴブリンを調理してくれ、と頼んだらこれを作ってくれた。死んでも食いたくないような食べ物だが、食わないと死ぬので我慢して食べた。


「とりあえず今の所、旅は順調ですね。」

「俺以外はな。」

「………ん。ご飯も美味しかったし。」

「俺以外はな?」

「あとは、このまま順調に進むのを祈るだけですね。」


 まあでも実際、旅は順調そのものである。これまで、Cランク以上の魔物は出てきていない。最も恐るべき事態は強力な魔物たちに囲まれることだ。足場が悪いこの森で囲まれてしまったら一貫の終わりとなる。しかし大丈夫だと思う。なにせ俺は、この森を出たら美味しいご飯をたらふく食べる、と決めているからな。


 そうして森を進むこと、1時間。森へ入った時に感じた視線を段々と強く感じるようになってきた。


「こりゃあ、なんかいるかもしれないな。」

「そうですね。」


 まあ、何かがいる、というだけで終わればまだ良い。しかし、視線は四方から感じる。もしかしたら、囲まれてしまったかもしれない。


「お前ら、いつでも戦闘できるようにしておけよ。」

「………ん。」


 そうして警戒しながら歩いていると、ようやく敵が動き始めた。


「っ!!!来るぞ!!」


 突然、木々が大きく揺れ出すかと思えば、その木々が全て倒れていく。


「なんだ、何が起こってる?」


 木々が倒れ、晴れた視界は4匹の魔物を捉えていた。



「あ、あれは…………」


 アイリスが泣きそうになりながら、こちらを見つめてくる。


「…………グリフォンにサラマンダー、ユニコーンにフェニックス………」


 トリーが蒼い顔をしているのは初めて見た。だが、その気持ちも理解できなくはないを



 なにせ、4匹ともSSランクだからな。

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