5.神という存在
Bランクに昇格した俺たち3人は、王都にある武器屋にやって来ていた。
「すいません、ここに剣士用の防具と剣、それに魔法使い用の防具とロッドはありますか?」
「おう、あるぜ。予算はどれくらいだ?」
「予算は全部で金貨10枚です。」
金貨というのはこの国の通貨だ。銅貨100枚で、銀貨に。銀貨500枚で金貨となる。金貨10枚だと、大体一般人の1年半分の生活費くらいだ。
この大金は全て依頼をこなした事によって得たもので、これまで依頼で稼いできた金をほとんど使わずに溜めておいたら、こうなっていた。流石にこれだけあれば、いい装備が買えるだろう。
「ほう。そんなにか。なら、この店とっておきの装備を出してやるよ。」
そう言って出したのは、デュランダルという剣と精霊の蒼杖というロッドだ。
「これはなかなか良いな。」
目にした瞬間に分かった。これらは相当強い武器だ。デュランダルはあのキングゴーレムさえも切れそうな程鋭い刃を持っているし、、精霊の蒼杖は莫大な魔力を秘めいている。
「これを買おう。あとは防具を頼む。」
そうして、結局金貨を8枚ほど使う事になったが、それに見合うだけの物を手に入れることができたと思う。
「デュランダルはトリーが、精霊の蒼杖はアイリスが持っててくれ。」
「良いのですか?」
「ああ、俺が持ってるよりもお前らが持ってる方が良いだろうからな。」
「………ありがとう。」
それから2人には防具を渡した。おそらく少し動きが鈍くなるだろうが、防御力は格段に上がっただろう。
武器を買ったあとはBランクの依頼をこなしに行った。
「やっぱりアルさん、流石ですね!さっきの魔法も凄かったですし!」
「ありがとう。だけど2人の援護が無かったらかなり手こずっていたかもしれないからね。」
「…………それでもすごかった。」
キングゴーレムを倒してからというもの、2人は俺のことを褒めっぱなしだ。俺としては火属性の上級魔法を撃っただけなので、褒められるようなことはしてないと思うのだが。
そんなこんなで依頼をこなしていたのだが、流石に Bランクの依頼ともなってくると、先程のキングゴーレム並みの強さの魔物相手に戦うことが多くなってくる。ちなみに今はタラスクという名のドラゴンの子供と戦っている。
「子供でこの強さは凄いな。大人になったらどうなるんだか。」
「………ん。戦ってみたい。」
どうやらトリーは、この1週間で戦闘狂になってしまったらしい。まあ、別に悪いことではないし、俺も戦闘狂だ。だから、何も問題はない。
そんな会話をしながらもタラスクからは意識をそらさない。こんな会話をしている間にも絶え間なく鋭い牙と6本の足を器用に使い、こちらへ攻撃してくるからだ。
「よし、じゃあ俺は攻撃しないから、お前らだけで倒してくれ。新しい武器の性能を確かめるためにも良いだろう。」
「はい!」
元気よく返事したアイリスは精霊の蒼杖を振り、唱える。
「『イマージョン』!」
アイリスの放った魔法はキングゴーレム戦の時の倍程の威力となっていた。
「この武器はやっぱり凄いですね。まさかこんなにも威力が上がるなんて。」
アイリスは武器に対し感心しているが、タラスクはまだ死んでいない。しかしタラスクが魔法を受けて怯んだ隙に、トリーがデュランダルを斬りつける。
すると、タラスクが半分に切れてしまった。これは予想以上の切れ味だ。タラスクはキングゴーレム程ではないが、魔物の中でも体は硬い方だと言われている。しかし、そんなタラスクをまるで豆腐を切るように、切ってしまった。
「…………これ、ほんとにすごい。」
トリーも感心している。
「アルさん、この武器を買ってくれて本当にありがとうございました!」
「…ほんとにありがとう。」
「いいよ、気にするな。」
これだけ喜ばれると、俺も買った甲斐があるってもんだ。
その後は、デュランダルと精霊の蒼杖のお陰で、依頼はサクサク終わり、その日のうちに昇格テストが受けられる事になった。
「アナさん、またテスト受けたいんだけどいい?」
「え、テストってBからAへの昇格テストですか?」
「そうそう。いいかな?」
「あ、はい!もちろんです!それでは、ギルドの奥へどうぞ。」
受付のアナさんは俺たちが昇格テストを受けることを知ると、とても驚いた様子だった。まあ、それもそうだろう。1日のうちにCからAまでランクが上がる冒険者なんてそうそういないはずだからな。まあ、まだテストに合格するって決まったわけじゃないけどね。
今回、テストを監督する人は、青い髪の30代くらいの男性だった。
「まさか、1日のうちに2回もテストを受ける人がいるとはね。びっくりだよ。」
いやー、俺もびっくりだぜ。まさか試験官が強者だとはね。見た感じだと、相当実力があるなを身から出る威圧感を抑えることなく、外に出している。そのおかげか、さっきからトリーとアイリスは冷や汗までかいている。
ちなみに俺はちゃんと威圧感を抑えているので、どんな奴が相手だろうと、俺の実力が見破られることはない。まあ、今から目の前で魔物と戦うわけだから、すぐにバレてしまう気がするが。
「やはり君すごいね?僕を目の前にして、そんなに余裕そうな顔を保っていられるとは。」
「そう見えるだけで、実際は冷や汗かいてますよ。」
「じゃあ、そういうことにしておこうかな。」
やっぱりこいつは、俺が只者ではない事が分かっているな。非常にやりづらい。しかしいつバレたのだろうな。この前のテストの時だろうか。
「トリー、今回の相手は誰だっけ?」
「え、えっと……」
「それについては僕が説明するよ。君たちの相手は大人のタラスクだよ。」
「なんだと?それはおかしい。大人になったタラスクはSSランクのはずだ。」
「まー、そうなんだけどね、今回は特別さ。その代わり、タラスクを倒せたら、一気にSSランクまで昇格させてあげるよ。」
一体こいつは俺らをどうしたいのか。ますます意図が分からなくなってきた。こいつの目的は一体なんだ?普通に考えたら、Bランク冒険者がSSランクの魔物に勝てるわけがない。それほど、俺らの実力を確かめたいということなのか?
「もし、俺らが死んだらどう責任取ってくれるんだ?それと、お前みたいな下っ端がそんなこと決めてもいいのか?」
「そうだね、もし君たちが死にそうになったら、僕が全力で助けることにするよ。これでも僕はSSランクの冒険者だからね。それと、僕は下っ端じゃないよ。ここのギルドマスターのセツナさ。」
ほう、なるほどな。これで色々と疑問が解決した。たしかに、SSランクなら、この強さも頷ける。さらに、ギルドマスターか。
「じゃあ、もう1つ質問だ。なんでギルドマスターがわざわざ俺たちの相手をする?」
「ん?君たちもしかして気付いていないのかい?君たちの強さは異常なんだよ。さっきのテストのことだけど、普通はCランク冒険者3人がキングゴーレム相手に余裕で勝つなんてことはあり得ないんだよ。」
これは失敗したな。たしかに常識的に考えてみればそんな事はあり得ない。それならわざわざギルドマスターが俺らに構うのも納得できる。いきなり出て来たルーキーを警戒しているということか。
「わかったよ。やってやろうじゃねえか。トリーとアイリスよ。相手はタラスクだ。一瞬の油断が命取りになる。死ぬなよ?」
「は、はい!もちろんです!」
「……………死ぬわけない。」
「よし、俺らは準備オーケーだ。タラスクのとこに案内してくれ。」
「わかったよ。ほら、この先だ。」
セツナが指し示した場所には大きくて頑丈な扉があった。おそらくこれを開けて行けということなのだろう。
「よし、行くぞ。」
扉を開けると、目の前に5メートル程の大きな竜がいた。タラスクだ。その容姿はつい先ほど戦った子供のタラスクによく似ている。
また、思わず足がすくんでしまうほどの威圧感を出しているのだろう。トリーとアイリスは実際足をすくませてしまっている。ただ俺は威圧感を特に感じないため、どの程度なのかよく分からないんだがな。戦神たる俺に足をすくませることができるのは、この世でゼウスただ1人だろう。
「トリー、アイリス!最初から全力で行け!」
そう言うと俺は、目眩しのためにタラスクの頭に向かって魔法を放つ。
「『ブレイズ』」
魔法は頭に見事命中。少しはダメージを与えられたようだ。そして、タラスクが怯んでいる隙に、トリーがタラスクの足を斬っていく。おそらく、タラスクを転倒させることが目的だろう。頭などの急所に剣をあてられたら良いのだが、相手がでかすぎるからな。
「『タイダルウェイブ』!」
そして、アイリスは新しく開発した水属性魔法を撃つ。これは、一般的に最強魔法と呼ばれる『イマージョン』の威力を遥かに超える。彼女の攻撃は見事命中した。
「やりましたか!?」
「いや、まだだ。」
俺の魔法にトリーの剣舞、そしてアイリスの水属性最強魔法を食らっても、まだタラスクは死にそうにない。
「まだ体力は半分くらい残ってそうだな。っ!!」
すると突然、タラスクが反撃を開始した。口を大きく開け、ブレスを放ってくる様子を見せた。おそらくこのままブレスが当たれば、彼女たちは良くて重傷、悪くて死亡だ。防具は新調したものの、流石にタラスクのブレスに耐えられるほどの耐久力は持っていないだろうからな。ブレスを彼女たちに当たるわけにはいかない。
「『アブレーション』」
俺は迷わずに焔属性の最強魔法を撃った。俺の魔法とタラスクのブレスが衝突して大きな衝撃波を生み、トリーとアイリスは勿論のこと、セツナさえも吹っ飛ばしてしまう。
「こんなに魔法を使ったのは久し振りだな。ちょっと疲れた。やはり体がなまっているのかな。」
そんな中笑っていられるのは俺だけだろう。俺の魔法はタラスクのブレスを押し返し、そのままタラスクに直撃する。そして、タラスクは全身が焔に包まれ、全身が灰と化した。
「いやー、久し振りに楽しかったなー。セツナには礼を言わないと。ありがとよ。」
そう、振り返ってみるが、3人ともが信じられない物を見たような目でこちらを見ている。
「ん?どしたの?」
「き、君は一体何者なんだい?」
「俺か?」
あーそういえば自重とかしてなかったな。確かにあの威力の魔法を見れば俺が一体何者なのか気になるのは当然か。
まあ聞かれたのなら答えてもいいか。そんな軽い気持ちで、俺は口を開いた。
「俺は、神だ。」