4.昇格試験
あれから色々とお互いについて話し合って、ランク上げを行うのは明日から、ということになった。まあ話し合うといっても、ランクを上げるためのテストで出てくる魔物の詳細を聞いたり、パーティをつくるメリット・デメリットを聞いただけだ。あとは魔物のランク付けについても少し聞いたりした。
パーティをつくるメリットは単純に戦力強化だ。また、パーティ内で冒険者同士のランクが違ったとしても、受けられる依頼のランクの上限はパーティリーダーのランクとなる。よって、1人だけランクが違うアイリスも、俺とトリーと共にCランクの依頼を受けることができるのだ。
デメリットは報酬が減ることだ。1人の場合は、依頼の報酬を当然独占できたが、人数が増えるとそれを分割しなければならなくなる。まあ、これは俺らにとってはデメリットではない。なにせ、ランク上げが終わったら、すぐに冒険に出るのだ。そうなれば、ある程度の金は自分で持てるが、ほとんどは共有することになる。一応これは、2人に了承は得ている。もっとも、そんなに早くSSランクになれるとは思っていないようだが。
ちなみに俺の正体は明かしていない。もう少し時間が経って、2人のことを信頼できるようになったら、話そうと思っている。
正体がバレた時に懸念すべきなのは面倒事に巻き込まれてしまうかもしれないということだ。しかし王族と関わってしまった時点ですでに面倒事に巻き込まれている。だからまあ俺の正体については特に隠す意味がなくなってしまったと言えるだろう。
今日のところは、ここで解散し3人で宿に泊まることになった。もちろん部屋は別だ。明日はテストを受けるため、それに備え早く寝ることにした。
この宿ではキッチンを借りて食事を自分で作る事ができるようだ。昨夜はそんなことを知らずに食堂で晩飯を食べたが、今日は朝ごはんを彼女たちに作ってもらうことになった。
彼女たちが作ったものは、野菜炒めと味噌汁だ。食べてみると、どちらもとても美味しかった。トリーもアイリスも料理屋の娘ということで、やはり料理には自信があるのだろう。
こうして、彼女たちの腕を確認したところで、冒険者ギルドへと向かった。別にパーティ内でランクが違っても構わないのだが、せっかくだから同じにしよう、ということでアイリスのランクをCに上げ、さらに依頼を10個こなした。また、依頼のついでにトリーとアイリスに稽古をつけた。はじめは、パーティメンバーが戦える必要はない、と思っていたが、テストを全員で受ける、ということなどや彼女らのやる気を考えると、稽古をつけた方が良いという結論に至った。
「どうした?まだ俺に1回も当てられていないぞ?」
「…………っ。」
トリーは俺とパーティを組む前から剣士として修行をしていたようなので、剣の稽古をつけた。俺も剣の扱いには慣れているため、ちょうどよかった。
その間アイリスには、魔法のイメージトレーニングをしてもらっている。ちなみに、アイリスが使えるのは水属性魔法で、回復魔法なども得意らしい。俺も水属性の上位互換である瀑属性魔法を使えるので本当に運が良かった。
魔法を使う上で最も大切なのは想像することだ。どんなに魔力があったとしても、実際に魔法として使えなければ意味がない。
魔力というのは、人間の中に存在する特殊な力のことで、ステータスにMPと書かれているものだ。そして、それを消費することによって魔法を使うことが出来るようになる。また、魔力は時間、もしくはMP回復薬で回復できる。さらに、魔法の威力は魔力の扱い方の巧さと、魔法に込めた魔力量に比例する。魔力は修行によって増やすことが出来るが、初期の魔力量は個人差が激しいため、どんなに修行をしても強い魔法が撃てない、などということがある。しかしアイリスは魔力量がとても多く、その点では他の魔法使いに比べて有利である。
そんな修行を始めてから1週間が経った。もちろんアイリスにはイメージトレーニングだけしてもらっていたわけではなく、魔力を上手く扱うコツなども教えた。そのおかげか、アイリスは水属性の最強魔法まで使うことが出来るようになり、またレベルも上がった。しかし魔力量は初心者にしては多いだけで特別多いわけでもなく、また魔法の使い方もまだ慣れていないため、最強魔法を撃ってもあまり威力は出ないだろう。これからもまた修行が必要となりそうだ。
トリーも俺と剣の打ち合いをしていたおかげで、剣の技術はかなり上がったと思う。特に敵に対する立ち回りを重点的に教えたため、チームプレーでも活躍してくれそうだ。
短期間でここまで成長したのは、2人にセンスがあったからだろう。まあ戦神である俺が教えたから、というのもあるかもしれないが、努力したのは他でもない彼女らだ。
「よく頑張ったな。2人とも、前に比べて格段に強くなったと思うぞ。じゃあテストを受けに行こうか。」
「…………ん。」
「はい!」
ランクをCからBに上げるためには、キングゴーレムと戦う必要がある。こいつはとても硬く、基本的に物理攻撃を通さない。いくらトリーが強くなったとはいえ、持っている剣は冒険者初心者用の物なので、今回は活躍出来ないだろう。しかし、さすがにそれは可哀想なのでこのテストが終わったら剣を買うことにする。ついでにロッドも買っておこうと思う。ロッドは魔法使い用の武器で、これがあると魔法の威力が上がる。
「アナさん。テストを受けたいのですが。」
「分かりました。ランクCからBになるためのテストですね。では、役員を2人程つけるので、その人たちについていってください。」
どうやら、テストは冒険者ギルドの奥で行われるそうだ。そして、役員に連れてこられた場所は少し狭い草原だった。面積は15×15平方メートルほど。
「俺とアイリスは積極的に魔法で攻撃を行う。狙いは頭だ。トリーはゴーレムの気を引いて、こちらに攻撃をしてこないようにしてくれ。」
簡単に作戦を説明すると、俺たちは一斉にゴーレムの方へ向かって行った。
「…………こっち。」
トリーがゴーレムの足に剣を当て、ヘイトを溜めた。すると、ゴーレムはトリーを潰そうと、拳をトリーに向かって叩きつけてくる。
「『イマージョン』!」
その隙に、アイリスが水属性魔法をゴーレムへ当てる。どうやらかなりダメージが入ったようだ。ゴーレムは攻撃を中断し、転倒した。
「よくやった。『ブレイズ』」
そして、追い打ちをかけるように俺が焔属性魔法を撃つ。ゴーレムは炎に呑まれ、粉々に砕け散った。まあ所詮はBランクといったところか。
「これで終わりだな。テストは合格だよな?」
「あ、ああ、そうだ。合格だ。おめでとう。」
これで俺ら3人はBランクに昇格した。
「はぁーまた、テストを監督しなきゃいけないのか。面倒くさいなぁ…」
「そんなことを言うな。これは仕事だぞ。」
冒険者ギルドの役員2人は、とある冒険者によるランクCからBへの昇格テストを見ることになり、そんな会話をしていた。聞くところによると、テストを受けるのはたったの3人で、しかも全員が冒険者になったばかりだという。
「ったく、そんなんでテスト受けるとか、舐めてんのかね?」
「それは実際に見てみなければ分からないだろう。」
テストで使われるキングゴーレムはかなり強い。Bランク冒険者4人でも負けることこそないが、苦労するほどだ。それをCランク冒険者が3人で、など実際に見なくても結果は見えている。
「危なくなったら、保護しないとな。なにしろ、3人ともガキだ。ゴーレムとの実力差が分からずに、バカをする可能性がある。」
2人とも、テストが始まる前はそう考えていたのだが、その考えはあっさりと捨てることになった。
たった3人の冒険者がゴーレムに余裕で勝ったのだ。しかも、その内1人は剣士で、攻撃はしたもののダメージを与えられていない。ということは実質、残り2人の魔法使いがそれぞれたったの1発でゴーレムを倒したということになる。
「まったくとんでもない奴らだな。」
剣士の女は、ゴーレムに対してダメージは与えられなかったものの、その立ち回りは完璧であった。そして、魔法使いの女もだ。魔法を撃ったタイミングは完璧だったし、しかも撃ったのは水の最強魔法だ。この2人に関してはSランクだと言われても納得出来るほどの技量を持っていた。しかし、1番凄いのは魔法使いの男だ。火属性の上級魔法を撃っただけなのにも関わらず、その威力は魔法使いの女が撃った水属性の最強魔法を優に超えた。
「これは、ギルドマスターに報告する必要があるな。」
そう判断した彼らは、早速ギルドマスターへ報告をする事にした。力のある冒険者という者はギルドの方で囲っておきたいものだ。それがルーキーならば尚更。今回テストを受けた冒険者3人はまさにそれに当たる。
「失礼します。」
「ん?何か用かな?」
「はい。実は興味深いルーキーが3人ほど現れまして、そのご報告をと。」
そしてギルドマスターへテストで見た事を詳しく話した。
ギルドマスターは強い者に目がなく、また自身も冒険者の中でトップレベルに強い。そんな彼がどんな判断を下すのか。まあ彼らにとっては面倒な事になりそうだが、ギルドのためだ。仕方がない。
「ふーん、そんな面白い子達がいたんだ。これは、面白くなりそうだね。よし、決めた!もし彼らがSSランクへの昇格テストを受けることがあれば、その時は僕が直々に試験官をしよう。」
ギルドマスターであるセツナはそう、楽しそうに笑みを浮かべながら言った。
「あいつらも大変だな。よりにもよってギルドマスターに目をつけられるとは。」
「まったくだ。それに関しては心から同情する。まあそうさせたのは俺らだがな。」
この国で最も関わりたくない人ナンバーワンであるセツナに目をつけられたことを、当然、アルもトリーもアイリスも知らないのであった。