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戦神アルの世界荒らし  作者: こまい
第1章 地上荒らし編
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3.下心丸見えの面接

 

「パーティーメンバーだと?」

「はい。そうです。」

「何故そんなものを求む?」


 その理由は簡単だ。この世界において俺は全く有名じゃない上に冒険者ランクも低い。そんな俺がパーティーメンバーを募集したところで、応募しようとしてくるやつはたかが知れている。しかし、これが王ならどうだ。王が俺のパーティーメンバーを募集する、それだけで参加してくる人数はだいぶ変わる。もちろん、王族との関わり目的で参加しようとしてくる輩もいるかもしれない。それでも、やはり多くの人の中から候補を選べるというのはメリットが多い。

 それに俺自身、前から人間とは関わりたいと思っていた。決してその関係がうまくいくとは限らないのだが、試せる事は試したいと思っていたのだ。


「なるほど、そういうことか。ならば力をかそう。」


 そういったことを話すと王は納得してくれた。



  翌日国中に、王が俺のパーティーメンバーを募集する、という情報が拡散された。どれ程の人数が集まるかは分からないが、1人や2人でないのは確実だ。そして、そのパーティーメンバーは面接によって決める。面接は1週間後だ。それまで俺は王城で世話になることが決まった。

  一応城では客人という扱いになっているそうで、メイドや執事などが身の回りの世話をやってくれる。こういうのんびりした時間も良いものではあるが、なにしろ俺は戦神だ。こんなことをしている時間が勿体無い、と王都にある冒険者ギルドへと向かった。


  王都の冒険者ギルドは、昨日までいた街のギルドよりもはるかに立派だった。建物だけでなく、賑わいようも凄い。おそらく一番多くの冒険者がいるのはこの地だろう。さすが、王様のお膝元といったところか。

 そんな感想を抱きつつギルドへ入ると、受付にいた女の人に話しかけて冒険者カードを提示した。


「すいません、依頼を受けたいのですが。」

「分かりました。あ、あなたがアルさんですね。噂はお聞きしていますよ。」


 そう言ってきた受付の人はアナというそうだ。そしてアナが俺の名前を口に出した途端、周りの冒険者達が騒ぎ出す。


「おいおい、あいつがアルなのか?まだガキじゃねえか。」

「しかもEランクだろ?お話になんねえ。」

「とてもじゃないけど戦えるようには見えないね。」

「………」


  周りの声は基本的に俺をバカにしたようなものばかりだ。まあ、ランクも年齢も言わずに募集をかけたわけだし、期待を裏切るような形になってしまったことは確かだ。だからと言って見た目だけで判断されるのは嫌だがな。


「…………なるほど。」


  そんな中妙に俺を見つめてくる女性がいた。おそらく俺の実力を見極めようとかそんなところだと思う。


 まあ、そんな騒ぎになりながらも俺は依頼を累計10個こなし、Dランクへ昇格した。依頼を10個こなすだけでランクアップ出来るのだから、結構楽だな、と思ってみたりもしたが、この世界でSSランクは数人しかいないし、AやSランクの冒険者もかなり少ない。そこから考えるに、テストというのが余程難しいのだろう。そう言えばセリーから、テストに失敗して冒険者を辞めた人がいるという話を聞いたことがある。まあ自分より強い魔物を倒さなければいけないわけだから、難しい事は当然とも言える。


  ちなみにこの世界だと、ソロで依頼をこなすというのはやはり珍しいことのようだ。SSランクの依頼をこなすには、パーティ上限の4人を揃えなければ確実に全滅すると言われている。よって、上位ランクの依頼やテストをソロで受けるというのはそのまま、死を意味するようなものなのだ。


  そんなことを考えながら何日もかけて依頼をこなしていくと、とうとうCランクになることが出来た。俺のパーティメンバー募集の期限は明日までだ。おそらく今日明日中にBランクまで上げることは無理だろう、と思い今日は早く帰って寝ることにした。


  翌日、俺のパーティーメンバーになりたいという人たちが続々と王城に集まってきた。とりあえずはパーティメンバーを決めるために、面接を行おうと思っている。ちなみに面接は1人ずつ行う予定だ。もちろん集まった人数が3桁に達するようなら、考え直すつもりではある。

  さっそくその人達を見に行ってみると、なんと50人ほどが集まっていた。しかも全員が女性だ。

 まあそれもそのはずだ。なにしろ俺は、王に俺のパーティーメンバーを募集してもらう際に、幾つかの条件を提示したのだからな。


  まず1つ目。女性であること。理由は簡単。むさ苦しい男どもに囲まれて旅をしても楽しくないからだ。やはり旅に華が欲しい。ちなみに、女装した男性は却下だ。

  そして2つ目。若いこと。これは当然だ。まあそんな条件をつけなくても、年寄りが応募してくることは無いだろうとは思うが、念のためだ。年寄りと一緒に旅をしたら、どれだけゆっくりとしたペースになるか分からない。

  最後に3つ目。料理ができることだ。個人的には3つの条件のなかで1番重要なのが、これだと思っている。何しろ俺は料理が全くできない。神として上の世界にいたときは何かを食べる必要がなかったからだ。しかし、今は違う。一応人間としてここにいるわけだから、何も食べなければ死ぬ。だから、何かしらは食べないといけないのだが、冒険の中とはいえできるだけ美味しいものを食べたいのだ。それに俺は毒物などが一切効かないため、他人に料理を作らせても安心、というメリットがある。これは大きい。


  そして条件はこれだけだ。戦闘能力は求めていない。もちろん、あるに越したことはないのだが、今回の目的はパーティメンバーを増やすことであって、戦闘員を増やすことではない。それに万が一裏切られた時は相手に戦闘能力がない方が返り討ちにしやすいからな。


「それでは、面接を始めます。先頭の方は、こちらの部屋に入ってください。」


 おっと、どうやら始まるようだ。俺も面接官として頑張らなくてはな。


「よろしくお願いします。」

「うん、よろしく。早速だけど応募した理由を聞いてもいいかな?」

「はい。私もアルさんと同じように冒険がしたかったのですが、なにしろ戦いが全くできません。そのため、戦いができなくてもパーティメンバーに入れてもらえるという話を聞き、応募させていただきました。」


 そう言ってこの女性は笑みを浮かべた。この女性はなかなか美人だし、笑顔も可愛いと思ってしまった。しかし、なんだかうさんくさい。もしかして、この人は王族との繋がりを求めて応募してきたクチか?


「念のため言っておきますが、もし僕のパーティメンバーになれたとしても、王族との繋がりは出来ませんよ?」

「え、ええ構いませんよ。」


 ビンゴか。後は適当に話を聞いて帰っていただいた。

 その後も20人ほど面接をしたが、全員が王族との繋がりを求めて応募したものだった。


「はぁ、王族とか抜きにして、ただ冒険したい人とかはいないのかなあ。」


 そんなふうに愚痴った後も何人かと面接していく。


「次の人どうぞ。」

「………よろしくお願いします。」


 次に入ってきた人は、以前俺の事を妙に見つめていた女性だ。来るのではないかと薄々思ってはいたが本当に来るとは思わなかった。


「応募してきた理由を聞いてもいいかな?」

「……………あなたが強そうだから。」


 なるほど。確かに俺は強いが、他人に警戒されないように一般人を装っている。それにも関わらず強者であることを見抜いたのは、よほど人を見る目が良いのか、それともただの偶然なのか。


「何故俺が強そうだと思った?周りの冒険者たちは俺のことを弱そうだと思っていたみたいだったが。」

「…………私は事情により昔から強い人たちに会うことが多かった。その時の癖で、今でも強い人はすぐに分かる。あなたからは昔に会った強い人よりもさらに強い雰囲気を感じる。」

「ならほど。それで、強そうな俺のパーティメンバーになって何がしたい?」

「……自分の実力をあげたい。」

「なぜだ?冒険者らしいし、もうすでにある程度の力はあると思うが。」

「………それは言えない。」


 そう来たか。まあ誰にでも人に言えない事情というものがあるから仕方ないな。しかし迷うな。こいつを入れるにはリスクが大きい気もする。だが俺が強いことを見破った事を考える限り、おそらくこいつにはセンスがあるのだろう。いくら強い人と交流があったからといって強い者を判別できるようになるやつはほとんどいないからな。


「必要ないと思うが一応言っておくと、俺のパーティメンバーになっても、王族との繋がりは持てないぞ?」

「……ん、大丈夫、何も問題ない。」


 だろうな。まあなかなか面白そうだし、他に良い奴が現れなかったからこいつを仲間に入れることになるだろう。



「では、次の人どうぞ。」

「は、はい!よろしくお願いします!」


 次に入って来たのは、真面目そうな雰囲気の女性だ。


「じゃあ、応募した理由を聞いても良いかな?」

「えっと、私はアルさんの強さに憧れて応募しました!

「ん?俺って君と会ったことあったっけ?」

「いえ、会ったことはありません。でも私はアルさんがゴルドさんに圧勝したところを見ました。そして、その姿を見て……」

「…その姿を見て?」

「運命を感じました。好きです!……あっ、これだけでは応募理由として不十分でしょうか?」


 ちょっと待て、好きだと?しかも運命を感じた?一体どういうことだ。唐突すぎてわけがわからない。そもそも他人という存在自体信じられないのに、初対面の女性に好きだなんて言われても到底信じられるわけがない。


「いや、不十分というか……、それより、一体俺のどこが好きになったんだい?」

「えっと、まずですね、アルさんはカッコ良いですし、何より赤髪というのが素晴らしいです。それにあの時の身のこなし方も………」


 それから10分間、俺の良いところを熱弁されるという、めちゃくちゃ恥ずかしいことをされた。1000年以上生きてきて、恥ずかしかったことTOP3に入るだろう。

 そのままずっと語られると何分かかるか分からなかったため、とりあえずその方には帰っていただき、残っている人の面接をした。


  結果的に言うと、応募してきた人たちの中で2人をパーティメンバーに入れることになった。その2人とは、俺の強さを見破った女性と、俺のことが好きだという女性だ。

  驚くことに、その2人以外は全員王族との関係目当てだった。予想していたとはいえ、あまりの多さにびっくりしている。さすがにこれだけ多いと、何かの間違いだろうかと思ってしまうが、これでも俺は神だ。そういった人間を見極める力には自信がある。さらに俺は神の中でも他の者への警戒心が強いほうだと思っている。それらを踏まえると、やはり間違っていなかったのだろう。


  ということで、その2人のもとへむかい、王城のある部屋に招いた。


「とりあえず、おめでとう。君たちは俺のパーティーメンバーになることが決定した。」

「………ありがとう。」

「あ、ありがとうございます!」

「それじゃあ、軽く自己紹介といこうか。俺はCランク冒険者のアルだ。料理などの雑事は全くダメだからそこらへんを君たちにお願いしたいと思っている。」

「………私はトリー。アルと同じCランク。」


 ちなみにトリーは緑の髪で青い目をしている。緑の髪も赤髪ほどではないが珍しい気がするな。ここまでくる途中で見かけた記憶がない。


「私はアイリスです!Dランク冒険者ですので、戦闘はあまり出来ませんが、アルさんに教えてもらおうと思っています!」


 アイリスは黒髪で黒目な女の子だ。そういえば街で一番よく見かけるのは黒髪と黒目の人間だった。これが一般的な人間の姿ということか。……何故俺を赤髪にしたんだ、ゼウス。


「じゃあ、早速だけどギルドのほうへ向かおうか。ランク上げがしたい。目標はSSランクだ。」

「………SSランク、実力に随分と自信があるのね。」

「俺が強いってことはお前がよく知ってるだろ?」

「SSランクなんて私でも行けるんでしょうか?」

「安心しろ。俺がお前をSSランクにさせてやるさ。」


 そう言うとアイリスは少し顔を赤くして目をそらした。あー、やりづらい。まあこれから多少は長い付き合いになると思うし、それまでに慣れるだろう。



 こうして、俺の2人の長い冒険が始まるのだった。





「ふぅ、本当にこれで良かったのか…?」


 アルがパーティメンバーの選別を終えた頃、1人の老人がため息をついていた。彼がいるのは真っ白な壁に囲まれた狭い部屋だ。その中でも一際異彩を放っているのは、彼の左手の上にある真っ黒な本だ。彼のため息をついた原因はこれなのだろう。彼の本を見る目はとても険しく、本を開こうとする右手の動きが心なしか重く感じる。



「これのせいでアレスの症状が悪化しなければ良いんじゃがな。」


 老人の手によって開かれた本には真っ赤な文字が書かれていた。その文字はとても人間の文字とは思えない。まるで、地上のどこにも存在しないであろう法則に則った暗号のようだ。


「戦神アレスを赤髪の人間の姿にしてすぐに地上へ送れ。」


 しかし老人はこの文字が読めるようで、重々しく口を開き、その内容を声に出した。


「こりゃ、バレたら恨まれてもおかしくないのう。」


 そして老人はもう一度ため息をついた。

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