28.歴史は動く
破壊神シヴァを倒すために世界最大の山へ向かった俺らは、その山へ近づくとともに邪悪な魔力がそこから発せられている事が分かった。
「………あれが、破壊神の魔力……。」
「こんなにも危険な魔力を感じるのは初めてです!」
その魔力を感じたアイリスとトリーは、そう言って冷や汗を浮かべる。その表情はやや怯えているようにも見えた。
ルンもその魔力を感じてはいるのだが、流石は龍王だけあってあまり怯えた様子はない。
これを見るに、アイリスとトリーには悪いがシヴァと戦えるのは俺とイシスとルンだけかもしれない。
「もう1人、いるわね。シヴァ程の実力ではないけれど……」
「そうだな。しかもこの魔力は前にも感じた事がある。」
「そうなんですか?」
「ああ、お前たちも一度会ってるよ。」
俺にそう言われたアイリス達はその正体を考え始める。もっとも俺とイシスは前から薄々感づいてはいたのだが。
「まあ、出会いからして怪しい奴だったし、驚きはしないよな。」
「そうね。それにシヴァほど強いわけではないのだし、彼はルンに相手させる?」
「それがいいかもしれないな。あとは俺とお前でシヴァだな。アイリスとトリーにはルンの援護をしてもらおう。」
俺とイシスの会話で作戦がおおよそ決まり、それをみんなに伝えた。
相手は2人でこちらは5人。数だけ見ればこちらが圧倒的に有利だが、実際には実力は拮抗する。なにせシヴァは本気で世界を破壊しにきているのだ。地上に降りてからずっと遊んでいた俺やイシスとはわけが違う。
おそらくシヴァは地上に降りてからずっと力を溜め続けていたのだろう。それにより今は、神回にいる時と同じほどの力をあいつから感じる事ができる。
「っ!?なんだ?」
あと少しで山へ辿り着こうというその時、大きな爆発音とともに、目の前の山が一瞬にして消えて無くなった。その爆発は相当なもので、遥か上空にいる俺らにもダメージを与えるほどだ。
山が無くなり、その代わりに見えるのは溢れんばかりの魔力を伴った2人の敵である。
「あれが破壊神なんだね、師匠。」
「ああ、だがお前の相手はシヴァじゃない。もう1人の方だ。わかるな?」
「………黒髪に赤い目。前に私たちのところへ急に来てアルを連れて行こうとした奴。」
「油断するなよ。油断なんてしたらすぐに殺されるからな。」
サンダーバードから降りた俺らは、シヴァ達のところへと歩いていく。
向こうも俺達が近づいてくる事が分かっていたのか、こちらを見据えて不気味な笑みを浮かべている。
「久しいなァ、戦神アレス。いや、今はアル、と呼んだ方がいいかァ?」
「よく知ってるじゃないか。それはそこの奴に調べさせたのか?」
「ええ、私が調べました。お久しぶりです、アレス。」
「まさかお前がシヴァの手先だとはな。」
「しかし、そう意外ではないのではないですか?」
「まあな。ところでお前の名はなんだ?」
「これは申し訳ない。名乗るのを忘れていたようです。私の名はセイフォル、破壊神シヴァ様の僕にございます。」
セイフォル、か。かろうじて名前だけは分かったが、それ以外の情報が一切分からない。神でないことだけはまだ分かるのだが、人族でもあるような龍族でもあるような。この世界の種族の特徴を重ね持っているような気がする。これは前に会った時には感じなかった感覚だ。おそらくシヴァによってさらに強化されたのだろう。
「イシス、やっぱりシヴァは俺1人でやる。お前はルンと共にセイフォルを倒してくれ。」
「大丈夫なの?」
「ああ、死にはしないさ。それに、そっちが早く終わったらこっちを手伝ってくれればそれで構わない。」
急遽作戦を変更し、シヴァと戦うのは俺1人となった。
「ほうゥ、アレスよ、お前は俺と一対一かァ。まあ勝てないだろうが、せいぜい頑張ることだなァ。」
「そういやお前その喋り方どうした。昔はそんなんじゃなかっただろ。なんだかバカっぽいぞ?」
「……ふん、言ってくれるな、アレス。雑魚が調子に乗りやがって。」
シヴァの喋り方を指摘した途端、あいつはキャラを変えやがった。バカっぽいと言われたのが余程気に食わなかったのだろう。
だが俺の作戦は成功した。敵は怒れば怒るほど弱くなる。これは戦いにおける常識だ。冷静さを欠く事によって動きが読まれやすくなり隙が増え、攻撃を受けやすくなるのだ。もっともこれは例外もある。中には理性で抑えがきかなくなったからこそ、天性のセンスで強くなるような者がいるのだ。
俺はこの場合において後者であり、怒ると強くなる傾向にある。普段戦う際に頭を使っている者は後者になりにくいが、俺のように直感で戦っていると、怒る事により強くなることが多いのだ。
「まあ、お望み通り貴様とは一対一でやってやろう。セイフォルよ、他の4人を殺れ。」
「承知致しました。」
こうして、俺たちの戦いは始まった。
ちょうどアル達が戦いを開始した頃の王都では、激しい攻防戦が繰り広げられていた。
「くっ!このままではキリがないな。倒しても倒しても減っている気がしない。」
そう歯ぎしりしたのは王都を守るために戦っている壮年の男だ。名をダルクという。妖精王の要請により王都へ着いたこの男は、早速魔物と戦っていたのだった。
「こっちに来い魔物どもが!まとめて殺してやるぞ!」
そう言って魔物を挑発し引き寄せると、近くにいた妖精に合図をして広範囲魔法を仕掛ける。この攻撃により魔物は20匹ほど数を減らす事となった。
「おいお前ら、この魔物全部殺せるほどの魔力は残っているか?」
「残念ながら残ってないね。」
「僕もだよ。さすがにこの人数で全部は無理があるね。」
妖精達のその答えを聞いてダルクは再度歯ぎしりをする。もう既に1時間ほど戦っているのだが、こちらが消耗するばかりで、全体的に見て相手が消耗しているの様子はない。むしろ手強い魔物はまだ残っているため、ここからは更にこちらの消耗ペースが早くなってくるだろう。
しかも円形状に作られた国の周りに魔物が押し寄せているため、対処がしづらい。当然妖精達だけでカバーできない部分はこの国の冒険者などがカバーしているのだが、このバランスが崩れるのは時間の問題だろう。
「くそっ!どうにかなんねえのか。」
「何とかなるぞ。よくぞここまで耐えてくれた。」
ダルクの独り言に返事をしたのは空から飛んできた龍族の男だった。
「龍族だと?何でここに?」
「ゼウス様からの命令があってな。ここを守るようにと。」
「そうか。だがよくそれに従ったな。俺は一応人間だからここを守りに来てるんだが、龍族が命令を守る意味はないはずだぞ?」
「まあな。しかし世界最強の種族としては、この異常事態を黙って見てるわけにはいかない。それに、我らの龍王様は今人間と共に旅をしている。ならばお仲間である人間の故郷を守るのは、龍王様の手下として当然のことだ。」
そう言って龍族の男は他の龍族の者に指示を出して魔物を倒し始めた。しかもここに来た龍族の数は100を超える。敵の数から見れば大した事はないのだが、個々がとてつもない力を持っている。これならば、魔物を全部倒すことも可能かもしれない。
「そうか。人間として礼を言おう。俺はダルクだ。」
「私の名はバニパルだ。よろしく頼む。」
そうしてここに、おそらく歴史上初であろう、これまで滅多に関わることがなかった3種族の混合チームが生まれた。さらにこれを引き起こしたのが神であり、それも種族として数えるならば4種族の混合チームとも言える。
まさに、歴史が動いた瞬間であった。




