26.神のみぞ知る裏話
妖精王フィオンの元へ向かった俺らは、早速彼女がいる森へと入っていった。
「イシスは妖精王と話した事があるか?」
「んー、あまり話した事はないわね。いくら妖精王と言っても、神との繋がりはほとんどないから。アレスはあるの?」
「俺もほとんどないな。となると、交渉がうまくいくか少し不安だな。」
「師匠、フィオンには何を頼むの?」
「妖精王には、念のため王都を守ってもらう事になると思う。龍族と違って妖精族は人間との関わりが少なくないしな。」
そう説明したところで、ルンが妖精王をフィオンと読んだ事に対して、少し違和感を覚えた。
「ルンは妖精王と話した事があるのか?」
「まあ一応種族の王同士だから、少しはあるよ。」
「少しにしては仲が良さそうだな。」
「実際はただ名前で呼んでるだけで、特別仲が良いわけではないんだけどね。」
ルンと妖精王に関するちょっとした話を聞きつつ、俺らはようやく妖精族のいるところへ来る事ができた。
「この先だな。」
俺らの目の前には、明らかに他とは空気が違う森がある。この森は、普通の森に守られるようにして囲まれており、そこに妖精族が住んでいる。
俺たちはその森に入り少し歩いて行くと、妖精族の姿がちらほら見えるようになった。
妖精族とは、身長15センチメートルほどの、人間に姿が似た種族のことだ。彼らは自身の羽を使って自由に空を飛ぶ事ができ、また、魔法を得意としている。基本的にはみんな大らかな性格をしているが、妖精王には変わった妖精が選ばれる事が多く、気難しい者であることもある。
今代の妖精王はあまり気難しい印象がないので大丈夫だとは思うが、怒らせないように気をつける事に変わりはない。
俺は妖精王を探すため、近くの妖精に話しかけた。
「なあ、妖精王に会いたいんだが、何処にいるか分かるか?」
「フィオン様ならこの奥にいらっしゃると思うよ。」
「そうか、ありがとうな。」
妖精に教えてもらった通り奥へ進むと、他の妖精とは比べ物にならない程の魔力を感じる。おそらく妖精王のものだろう。
その魔力の持ち主である妖精王は、本来透明なはずの羽を金色に輝かせてこちらを見ていた。その羽が、妖精王としての証なのかもしれない。
「俺らが来る事は分かってたみたいだな。」
「そうね。この妖精の森に入ればすぐに分かるわ。それにしても、よくもまあぬけぬけとここに来れたわね。」
「…………なんだと?」
いきなり喧嘩を売られた事により、つい殺気が漏れてしまう。
「……………妖精王。何のつもりか知らないけど私たちは別に喧嘩をしに来たわけでではない。」
「あら、申し訳ないわ。私も別にあなた達と喧嘩をするつもりはないのよ。」
「おい、ならさっきのはどういう意味だ?」
「こっちの話だから気にしなくてもいいわ。まあ強いて言うならシェヴルに関することね。」
「シェヴル?知らないな。悪いが無駄な事を話している時間はないんだ。早速用件を話すぞ。」
「ええ、でもその用件は貴方からではなく他の誰かから聞きたいわ。貴方とは出来るだけ話したくないの。」
まったくこの妖精は何のつもりだろうか。外部の者に対して敵意を抱いているというのならまだ分かる。しかし、こいつが敵意を持っているのは俺だけだ。それが腑に落ちない。
また、それはみんなも同じなのか、自然とみんなの目は鋭く妖精王を睨んでいる。しかしイシスだけは目を伏せ、なぜか悲しそうな表情だ。
「…………なら私から用件を言う。」
「ええ、お願い。」
またしても助けてくれたのはトリーだ。後で感謝をしなくてはいけない、と思いながら、話をトリーに託す。
「………実は破壊神シヴァが世界を破壊しようとしている。」
その一言から始まった用件を聞いた妖精王は、ゆっくりため息をついた。
「そう。それで王都を守って欲しいと。」
「…………うん。でも出来るだけで構わない。もしも余裕があればでいい。」
「それは問題ないわ。私はこの森を守らなくてはならないから王都に行く事は出来ないけど、実はこの森には人間が1人だけいてね。そいつを王都へ行かせるわ。」
「…………1人で大丈夫?」
「ええ。問題のシヴァを相手するのはあなた達。という事は私達が相手するのは魔物でしょう?ならば問題ないわ。それに念のため妖精も何人か連れて行くから。」
「…………ありがとう。」
交渉はトリーのおかげで無事成立した。
しかしその交渉が終わってからも妖精王は俺の事を悪意のこもった目で見続けている。
はっきり言って心当たりは全くない。もしかしたら俺が地上に来た事によって何か悪影響があったのかもしれないが、いずれにせよそんなものは直接言ってもらわないと分からない。
俺らは終始無言のまま森を出ると、森を出て少ししたところに腰を下ろし、もう夜のためそこで寝る事にした。
シェヴル。あの妖精王が言っていた言葉だ。それが何を表すのか、俺は分からない。だがどことなく、懐かしい響きだ。
そんな思考をしながら、俺は眠っていった。
「ようやく寝たわね。」
「それで、教えてくれるんですよね?アルさんの事。」
「ええ、教えるわ。」
今日、妖精王と会い彼女の悪意を見せつけられた事により、アレスについて詳しく、みんなに話さなければいけないと感じた私は、みんなからの要望もあり、アレスについて教える事に決めた。
「実はアレスは、ある呪いにかかっているの。」
「呪い?呪いって何ですか?」
「ああ、まずはそこから話さなければいけないわね。」
呪いというものを人間が知らない、という事を忘れていた私は、簡単に呪いについての説明をした。そしてやっと本題に入る。
「アレスは昔、ある神によって人が信じられなくなる呪いをかけられたの。」
「人が信じられなくなる、ということは、まさか師匠は私たちの事を信用してないの?」
「残念ながらそうなるわね。」
「…………とてもそうは見えない。」
「あれでもアレスは数百年生きているからね。分からなくても無理はないわ。」
私が呪いについて話すと、みんながショックを受けたような表情をしていた。それも仕方がないと思う。ここまで一緒に旅してきた仲間に信用されていないと知ったのだから。
「解除方法は、私たちにはないんですよね?」
「ええ。」
「…………そんな。」
「呪いがかけられているって、もしかして師匠は知らないの?」
「そんな事はないわ。彼はもちろん知っているわよ。」
「…………ならなんでわざわざアルを眠らせたの?」
トリーちゃんの言う通り、私はアレスを魔法で眠らせてからこの話をみんなにした。もちろんこれには理由がある。
「実はこれには、本人も知らない裏話があってね。」
「裏話、ですか?」
「ええ、裏話よ。」
そこからの会話は、朝日が昇るまで続いた。




