25.曰くつきの小屋
「久しぶりだな、ダグトス。」
俺は目の前の大男にそう挨拶をした。その大男とは、元龍王ダグトスだ。
「お?なんだ誰かと思えばアレスじゃねえか。確かに久しぶりだ。しかもルンまでいるとはな。」
「お父さん!」
「大きくなったな、ルン。」
その親子のやり取りを見た俺は、内心びっくりしてしまった。まさかあの脳筋ダグトスが、こんなにも父親らしいことをするなんて。
「また久しぶりにSSランクの魔物狩りでもやるか?」
「いいね!やるなら師匠も一緒に……」
「やらねえよ。そんな名前からして物騒な事やるわけないだろ。」
「何を言うかアレス。これはただの遊びだぞ?」
ああ、やっぱりダグトスはダグトスだった。
そんな当たり前の事を思いながら少しホッとした。
ダグトスは、俺が呪いにかけられた後でも少しだけ信じる事が出来る唯一の人物だ。もっとも、信じられると言っても多少でしかないのだが。
しかしそんな人のキャラが変わってしまっていたら、俺は信じられる人がいなくなってしまったかもしれない。いまの俺にとって、知り合いの変化は脅威なのだ。
「そんな事より、大事な話があって来たんだ。」
「何やらそのようだな。お前らと一緒にいる嬢ちゃん達のことも気になる事だし。それなら、話は家で聞こう。」
そう言って俺らが連れて来られたのは、ダグトスに会う前に発見した小さな小屋だった。
「なあ、なんでこんな所に住んでるんだ?」
「ああ、俺には家を造るとかいう器用な真似は出来なくてな。だから元々あったこの小屋を使ってるんだ。」
「なるほどな。にしてもなんでこんな所に小屋なんてあったんだろ。」
そう疑問に思った俺は、過去を思い出してみる。
あれは確かダグトスと出会って少しした頃だっか。
ダグトスの修行で疲れた俺は、休養をとる事にして大陸沿岸までやって来ていた。そこで釣りなどをしながらゆったりしようと思っていたのだ。いくら戦神とは言え、戦い過ぎれば休みたくなるのは仕方ない。
「おおー、この辺はよく釣れるなー。良いところを見つけたかもしれない。」
かなり早いペースで魚を釣っていて上機嫌だった俺は、上空からの攻撃に対して中々気付く事ができなかった。
「っ!!これは、まさか………」
俺の真上から落ちてきたのは、Sランク程度の鳥の魔物の糞だった。もちろんその魔物は俺を攻撃するつもりはなかったのだろう。しかし偶然にも俺の元へまっすぐ落ちてきた糞を避けるのは、いくら俺といえど難しい事だった。
結局、糞には当たらずに済んだのだが、その匂いが異常だった。どんなに強く鼻をつまんでも、どんなに魔力を込めて鼻を守っても、その強烈な匂いが鼻の中へ入ってくるのだ。こんなに悪質な事をされたのは初めてだった。
「くそー!」
糞だけにくそー、と言ってみるも少し寒くなるだけで状況は変わらない。
匂いを避けるのならば、単純にここから離れれば良いだけなのだが、魚が大量に釣れる場所を捨てるわけにはいかない。そう思った俺は、糞の匂いを遮断するために、糞の周りに小屋を建てたのだ。
そのサイズは小さめで、本当に糞を入れておくためだけに作ったものだ。
そしてなんとか、俺はその後も釣りを続ける事ができたのだった。
「あ、あー………」
思い出した。あの小屋は俺が、糞を隔離するために作ったものだった。
「な、なあ、その小屋って使い心地いいか?」
「そうだな。まあ少し臭い事と窓がない事を除けば、まあ良いと言えるな。」
「そ、そうか、そりゃ良かったよ。」
「?」
おそらくあの時の糞は微生物に分解されて跡形も無くなったのだろう。しかし、俺に真実を告げる勇気はない。こんな真実を知った所で得する奴なんて誰もいないのだから、別にそれでも構わないと思う。
とりあえずその後その糞小屋に入り、話をする事にした。
「なるほどな、シヴァか。」
「それで協力を頼みたいのよ。」
話を進行したのはイシスだ。初めは俺が話をしていたのだが、昔を懐かしんだりしてるうちにどんどん話が脱線してしまったため、イシスが話をする事になった。
「お前らはどうするんだ?」
「私たちはシヴァを倒しに向かうわ。おそらくゼウスやイムホテプも一緒だと思う。」
「ならそこに俺の助けは要らないな。となると、俺がやるべきなのは龍族の安全確保か。」
これでダグトスへの協力要請はあっさりと終わった。あいつが脳筋のくせに頭の回る奴で良かったよ。
なにせ、龍族の安全確保はかなり重要となる。なぜなら、この事件が収束した後は龍族に後を任せなければいけないからだ。
本来、地上での出来事には神が関わるべきでは無いとされている。しかし今回事件を起こしたのは、他ならぬ神だ。よって、それの収束も神が行う。しかしその後始末まで全て神で行うわけにはいかない。多少は地上で生きる者たちの仕事を残さなければならないのだ。もし後始末まで全てやってしまったら、事情を知らない者に誤解を与えかねない。地上に危機が訪れれば神が助けてくれる、という誤解を。
そんな事態を避けるため、今回ダグトスには龍族の安全確保をしてもう事にした。本当は龍王がそれをするのが良いのだが、恐らく現龍王のルンは俺について来るだろう。そうなると、リーダーシップを取れるのがダグトスしかいなくなる。
「じゃあ俺らは妖精王の所へ行ってくる。あんたは早くみんなの所へ帰ってやってくれ。」
「分かった。お互い生きて会おうな。」
「当たり前だ。」
簡単に別れの挨拶を済まして、今度は妖精王の元へ向かう。
「妖精王は何処にいるんですか?」
「………そもそも妖精なんて聞いたこと無い。」
「ん?そうか、まあ人と妖精の関わりはほとんど無いからな。お前らが知らなくても無理は無い。あいつらの場所は、この大陸の最北端にある森だ。」
目的地を提示した後、俺らはまた鳥に乗って目的地へと急いだ。




