24.イムホテプの塔
「久しぶりじゃのう。」
「ああ、久しぶりだな。でもなんで全能神がこんな所にいるんだ?」
休む場所を得るためにイムホテプの塔へ向かった俺らは、その中にいたゼウスとイムホテプに疑問を投げかけた。
「そ、その方って全能神ゼウス様なんですか!?」
「ええ、そうよ。あ、でも変に畏まらなくていいから大丈夫。」
「それは我のセリフなんじゃが。」
「…………なんか、威厳がない。」
「おい小娘。ゼウス様に何て事を言うんだ!」
「イムちゃん落ち着けって。」
「何でお前らは敬語が使えないんだ!?」
一番気になる事を質問した俺だったのだが、その後の会話で流れてしまい、話が元に戻るまで5分もかかってしまった。
「それで、結局何でここにいるんだ?」
「それは俺から説明しよう。」
ようやく話が戻ると、イムホテプとゼウスは真剣な顔をしてこちらを向く。その表情からただならぬ物を感じた俺らは、イムホテプの口から聞かされる言葉を聞き逃さないよう、真剣に話を聞くことにした。
「この地上には今、ここにいる4人を含めて神が5人存在する。」
「5人?」
「ああ。俺らと、破壊神シヴァだ。」
「師匠、シヴァって?」
「神界のトップ2の神のことさ。それで、それが何か問題なのか?」
「地上に降りること自体に問題はない。問題なのは、奴が本気で世界を壊そうとしていることだ。」
「「「「「っ!!」」」」」
その話を聞き、一同の顔は驚愕に染まる。
「奴は今地上を破壊するために力を溜めている。しかしどこにいるのかが分からない。ここでお前らに頼みがある。これから、俺ら神界の神が奴を全力で探す。その間に、地上での実力者に話をつけて協力してもらえるようにして欲しいのだ。」
「実力者って、具体的には誰だ?」
「元龍王ダグトスと、妖精王フィオンだ。」
「場所は分かってるのか?」
「ああ、それについては問題ない。」
「あと1つ質問だ。一体そいつらに何の協力を求める?」
「破壊神シヴァの目的の阻止だ。」
「やり方は?」
「それぞれに任せよう。ただし、他の神との連携をとってもらう事になる。」
「了解した。話はそれだけか?」
「ああ、とりあえずはゆっくり休んでいてくれ。」
一通りの話を聞き終えた俺らは、各自休憩にする事にした。しかし皆の表情は硬いままだ。
それもそうだろう。世界を破壊しようとする奴がいて、それの阻止を手伝って欲しいといきなり言われたら驚く。それに今後のこの星に関わる事なら尚更だ。
神である俺も表情は硬い。皆が見れば驚くほど真剣な顔をしているだろう。しかしその理由は他の奴らとは違う。破壊神シヴァについて思う事があったのだ。
「相手はあのシヴァだ。もしもの時は、殺す気でいけ。」
「分かってるよ。」
そう声をかけてきたのはゼウスだ。彼もまた滅多に見せないような顔をしている。
「…………あいつの、呪いは解けてないんだろ?」
「ああ、そうだ。呪いが解けてないからこそこういう状況になっているのだとは思うがな。アレスはあちら側につくんじゃないぞ?」
「つかねえし、シヴァが俺の事を信用するわけないだろ。俺と同じなんだから。」
破壊神シヴァは呪いにかかっている。俺と同じ、人が信じられなくなる呪いだ。あいつは俺よりも酷い。呪いにかけられた時、あいつは俺の事を庇おうとしたんだ。その分俺よりも重い呪いがかけられる事になった。
恐らくあいつは人も、その人が住む世界でさえも信じられなくなってしまったのだろう。それで世界を破壊しようとしている。そんなところだと思う。
確かに俺はあいつに助けられた身だ。しかしその事によりあいつを殺す気でいくことに関して躊躇することはない。俺もまた人を信じることができないからだ。
しかし、世界を救うために積極的に働こうとと思わない。恐らくあいつが本気で世界を壊しても、その一撃だけなら俺でも耐えられる。にも関わらず、わざわざ死ぬかも知れない戦いをする価値があるとは思えない。それによってこれまで一緒に旅してきた奴らが死ぬかもしれないのにだ。しかし全能神に頼まれた以上やるしかないのは事実。
全く俺は冷たい奴だ。そう他人事のように思ったのだった。
「じゃあそろそろ行くぞー。」
「…………はじめはどっちから行くの?」
「ダグトスの方が近いからそっちへ行く事にする。場所は大陸沿岸だ。」
「お父さんそんなところにいるんだ。」
「ルンにもどこへ行くか言ってなかったのか?」
「そうだよ。なんか、言わずとも俺の娘なら俺の場所を探し当てるだろうって。みんなは教えて欲しいって言ってたらしいんだけどね。」
「それでも教えなかったのか。やっぱ変わらねえな、あの頑固ジジイは。」
そう言って俺は、ダグトスと出会ったばかりの事を思い返す。あれは確か神界が創られる前だったか。
強くなろうと修行していた俺を見つけたダグトスは、俺に稽古をつけてくれた。それだけなら良かったのだが、あいつは筋肉さえあれば何でもできるというテーマのもとに修行メニューを考えたため、大陸3往復とかいうあり得ないメニューが生み出されたのを覚えている。しかもあいつは頑固すぎて一度言ったことは意地でも曲げないため、結局大陸3往復をやらされる羽目になった。
懐かしい。だがもう2度とあいつの元で修行はしたくない。
出発してから数時間ほどが経過した。俺らはゼウスにサンダーバードという鳥を貸してもらった事により、かなり時間を短縮できている。因みにサンダーバードは本来神界に存在する伝説の鳥であり、ゼウスのペットだ。
「この辺りだな。」
「そうね。まさかあそこにあるちっちゃい小屋に住んでいるのかしら?」
イシスが指さしたのは、砂浜の上に建てられた小さな小屋だ。ここからだと遠くて少しわからないが、人がいると言われればいるような気もする。いないような気もするから分からないのだが。
「とりあえず降りてみましょうか。」
「……………そうね。降りてから確認するのがいい。」
「なんだかお父さんの懐かしい匂いがするー。」
「すげえな匂いでわかるのか。どんな匂いだ?」
「うーん、腐ってただでさえ臭い卵をトイレに1週間放置しておいたような匂いかな。」
「臭すぎだろそれ。うわ、可哀想だなあのジジイ。」
心の中で合掌をしておいた頃には、俺らは小屋の近くに着いていた。
小屋の中からは人の気配を感じない。不審に思って開けてみると、やはり誰もいなかった。
「外出中かもな。」
「…………海の中から大量の魔力を感じる。」
「海へ外出中ってことね。」
「海に入ったってことですか?」
「まああのジジイ、何でもありだからなあ。」
その瞬間、鋭い殺気を感じる。
咄嗟にその殺気が発せられた海の方を見た俺らは、呆れた表情を浮かべた。いや、そんな表情を浮かべたのは俺とルンだけだろう。海の中から大男が陸へ出てきた。
「ん?なんだ。珍しい顔だな。」
海から上がりつつSSランクの海の魔物「ヒュドラ」を引きづっている大男は、俺らに話しかけてきた。
「久しぶりだな、ダグトス。」




