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戦神アルの世界荒らし  作者: こまい
第1章 地上荒らし編
23/29

23.不気味なお誘い

 

「私が探しているのは貴方ですよ。戦神アレス。」


 人探しをしているという見知らぬ男にその言葉をかけられた瞬間、俺たち全員は警戒度をMAXにまであげた。


「戦神アレスだと?俺は冒険者のアルだ。人違いじゃないのか?」

「いえ、間違っていませんよ。誤魔化すのは止したらどうですか?」

「……………」


 もちろんこの男の言葉が嘘である、という可能性はある。しかし、この男から発せられるただ者ではない雰囲気が、その可能性を否定させた。


「俺がその戦神だったらなんだというんだ?」

「実は私は貴方にお誘いをしに伺いました。よろしければ私に付いてきて頂けますか?」

「どこへ連れて行くつもりだ?」

「貴方が付いてきて頂けるのであれば、その質問にお答え致しましょう。」


 その答えを聞いた俺は、他の4人の方を見る。彼女らの顔にはまるで、付いていってはならない、と書かれてるようだった。


「悪いが俺は今忙しいんだ。」

「なら、力づくででも付いてきて頂きましょう。」


 男がそういった瞬間、彼の持つ魔力が増大し、殺意をこちらに向ける。


「おいおい、本当に俺を連れてく気あるのか?俺の事を殺したがっているようにしか見えないけどな。」

「この状況でまだ笑っていられるとは。さすが戦神と言ったところでしょうか。」


 確かに笑っている俺だったが、内心では焦りまくっていた。

 実際この男は強いが、俺と戦えば十中八九俺が勝つ。しかし今の俺は満身創痍であり、それは他の4人も同様だ。いくら俺より弱いと言っても、この状況で俺らが勝てる程弱いわけではない。


「……………」

「まあまあ、そんなに睨まないで下さい。別に殺すつもりも、無理やり連れて行くつもりもありませんから。」

「なら何でさっき、力づくででも連れて行くと言った?」

「申し訳ありません、貴方の力を確かめたかっただけなのです。私の主からは、貴方の意思を尊重させろ、と言われておりますので。」

「主って誰だ?」

「それはお答えできませんね。もし貴方が私に付いてきて頂けるのであれば、話は別なのですが。」

「なら、別にいい。」

「そうですか、残念です。では私はここで。またすぐに会える日が来るでしょう。それまで生きていてくださいね。」

「………」


 そう言って男は、その場から消えた。最初から最後まで訳のわからない男だった。


「黒髪に赤い目。見覚えはないわね。アレスの知り合い?」

「違うな。ただ、あの魔力どこかで…………」

「一体どこへ連れて行こうとしたんでしょうね?」

「………またすぐ会えるとも言ってた。」

「さっぱり分からんな。しかし、面倒事に巻き込まれたってのは確かだ。」


 そう結論付けた俺は、深いため息をついた。

 俺があの男の魔力を感じた事がある。それはつまり、あの男が神界に関係しているという事を表す。つい最近降りてきたばかりの俺が、あれ程強力な人間に会った事がないからだ。しかもあの男は、他の者によって強化されている様な気がした。もしそれが事実なら、間違いなく神界の者の仕業だ。


「まあ、とにかく今は身体を休める事が先決だ。」

「でも師匠、この辺に休める場所なんてないよ?」

「………それなら向こうに見える建物で休むのはどう?」

「いいわね、そうしましょう。」


 トリーの提案により、俺たちは地平線の辺りに見える塔に向かうことになった。だが怪しい。怪しすぎる。海中神殿に入る前はあんな塔なんて無かった気がする。おそらくそれはイシスも気づいているだろう。しかしそれでもこの提案を却下しないのは、その塔からとある知り合いの魔力を感じたからだと思う。


「行くしかねえか。」


 そう気合を入れて、俺たちは塔に向かって歩き出した。




「はぁー、やっと着いた。結構遠かったな。」

「そうですね。でもこれで休めます!」

「………早く中に入ろう。」


 俺たちが着いたのは、5階ほどある塔の目の前だ。こんな所にある塔に人がいるとは思えないが、一応扉にノックをしてみる。


「……………………」

「…………どうしたの?」

「イシスさんまで、何で固まってるんですか?」


 ノックをしようとした手は、固まって動かなくなってしまった。しかしそれは他者の魔法によるものではない。あまりの驚きに、動きが固まってしまっただけだ。


「い、イムホテプの塔だと?」

「何でこんな所にそんなものがあるのかしら。」


 数秒ほど固まった後、俺が発した言葉をきっかけに、イシスも動けるようになった。


「師匠はこの塔のことを知ってるのか?」

「いや、正確には知らないな。ただこのイムホテプっていうのは知り合いの神だ。」

「…………何の神様?」

「えっと、何の神様だっけ?」

「知恵と医術の神よ。」

「そうそう、それだ。」


 イムホテプが何の神かは思い出せたが、何でこんな所に塔があるのかは検討もつかない。


「じゃあ、入るぞ。」


 考えても埒があかないため、取り敢えず扉を開けることにした。相手がイムホテプならば、ノックは不要だ。


 扉を開けると、そこには椅子に座ってこちらを見るおじいさんと、その横に立つおじさんの姿が見えた。



「ぜ、ゼウス!?」

「と、イムホテプもいるわね。」

「おい!何度言えば敬語を使える様になるんだアレスは。それにイシス、私はおまけなのか?そうなのか?」


 目の前にいた2人の男の正体は、神界のトップである全能神ゼウスと、神界の上位に君臨する知恵と医術の神イムホテプだった。

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