18.冥府観光
少し短くなってます。
「え、お前なんで泣いてんの?」
俺が龍王を倒した後、龍王の元へ向かうと龍王が号泣していた。
「ひ、ひっぐ、だってぇ、私は一度も負けたことなかったのに……」
その後少し話を聞くと、どうやら戦いで負けたのが初めての事らしい、という事が分かった。
「なるほどな。人生で初めて負けたことが悔しくて泣いてんのか。」
まあ俺だって初めて戦いで負けた時は悔しかったからな。仕方ない。
「おい!アレス!」
「ん?どうしたいきなり?」
「私は決意した!私をアレスの弟子にしてくれ!」
「…………は?」
「だから、私は自分よりも強いアレスの弟子となる事で、今よりも強くなると決めたの!」
「いやでも俺は旅の途中だからな。お前はここに残って王としての役目を果たさなきゃいけないだろ?」
おそらく龍王が自分の弟子になる、という経験を持つ者はいないだろう。だから、もし俺がこいつを弟子にとれば、歴史に名を残すことになるかもしれない可能性もなくはない。
しかし龍王が山を出てふらふらするなど、あってはいけないことなのではないかと思う。なにせ、こいつは一応1種族を束ねる王様だからな。
「王の仕事なんて何もないし、王がいなくたって龍族は全然問題ない。だから、弟子にして!」
おそらくその言葉は真実なのだろう。そもそも、俺が来るまでこいつは城の中に引き篭もってたわけだからな。
しかし、いくら龍王と言えども、俺にとっては会ったばかりの幼女に過ぎない。そのため俺は、龍王の頼みを何度も断ったのだが、龍王が諦める様子は全くなかった。
しまいには、龍王が大声で泣きながら駄々をこね始めてしまった。
「かわいそうじゃない、龍王ちゃん。弟子にするくらい簡単な事でしょ?」
「そうは言ってもな……」
「あなたの事情は知っているけれど、もしもの事があったら私がなんとかするよ。と言っても意味ないんでしょうけどね。」
「はぁ、分かったよ。弟子にするよ。」
龍王が駄々をこね始めてから、イシスが珍しく真面目な顔で相談に乗ってくれた。そしてその事もあり、龍王を弟子にする事を決めた。
「いいの!?」
「ああ。っと、そういえばお前名前は?」
「私は、ルンだよ!」
「わかった、ルンだな。」
「うん、師匠!」
どうやら龍王の名前はルンと言うらしい。なんだか龍王っぽくない名前だ。まあ見た目幼女だし仕方ないか。
これからはこいつの事を龍王じゃなく、ルンと呼ぼう。ルンという名前は短くて良いな。
そして、ルンは俺の事を師匠と呼んで……
「ん?お前今師匠って言った?」
「うん、言ったよ?」
「恥ずいからやめてくれない?」
「やだ!」
そう言うルンはとても楽しそうに笑っていた。さてはこいつ、ドSなのか?
これはまたおかしいメンバーが加わった気がするな。まあそもそも神が2人いる時点でおかしいのだが。
「あ、そう言えばさ、お前ハーデスがどこにいるか知ってる?」
「冥王様ならこの山の火口の中にいらっしゃるよ。」
ここでやっと、本来の目的を達成した。もともとハーデスがどこにいるか調べるためにこの山へ来た事を、これまですっかり忘れていた。それはみんなも同じなようで、俺がその話題を出すと、みんなはとても驚いていた様子だった。
「………そういえばそんな話あったね。」
「すっかり忘れてた。」
トリーが忘れるのはまだ良いとして、イシスが忘れるのはどうなんだよ。言い出しっぺはイシスだろ?
しかし、それよりやはり気になるのは、ハーデスが冥王様と呼ばれている事だ。なぜハーデスは様付けで呼ばれるのに、俺は呼び捨てなのだろうか。まあでも今ルンは俺の事を師匠と呼ぶし、それで良いのか。良いのか?
「もしかして、火口の中に入るんですか?」
俺が考え事をしていると、アイリスがとても不安そうな表情で尋ねてきた。
「まあそうなるな。でも大丈夫だ。イシスが魔法でなんとかしてくれるさ。」
「さすが師匠!」
「だろ?」
「………だめだ、これは……」
俺が必死になってアイリスの不安を取り除こうとしていたのに、何故かトリーに呆れられてしまった。
「と、とにかく、ハーデスに会いに行こう!」
とりあえず、俺たちはイシスに魔法で守ってもらいつつ、火口へ入る事になった。
「じゃあ、行くか。」
火口付近へ近づいた俺たちは、俺の合図で一斉に火口へ入った。
「なあ、これまだ地面につかないの?」
「こ、怖いです!」
「…………大丈夫。死にはしない、はず。」
「し、師匠!」
火口へ入ってから5分ほどの間ずっと落ちっぱなしだった俺らは、流石に恐怖を覚えた。
「大丈夫よ。そろそろ着くわ。」
そんな中1人冷静なイシスは、俺らにそう教えてくれた。おそらく魔法でこの付近の地形を調べたのだろう。それによりそろそろ着く事が分かったのだと思う。マジでイシス万能すぎだろ。
「お、着いたな。」
イシスが俺らに教えてくれてからすぐに、地面へ着いた。
「こ、これはすごいね、師匠。」
「ああ、この感じはいつになっても慣れないな。」
地面へ降りてから感じたのは、冥府特有の不吉な魔力だ。神であるイシスでさえも冷や汗を流し、俺も背中に寒気がするほどだ。他の3人も同じような状態であるが、それはイシスの魔法のおかげだ。
イシスは、3人の事をより強固に魔力から守っているのだろう。もしかすると俺がさっき見た汗は、冷や汗ではなく疲れからくるものだったかもしれない。
「あんまり時間はかけられそうもないな。おい、そこの鬼!」
4人の様子を見て、急ぐべきだと判断した俺は、近くにいた鬼を呼び止める。
「俺は戦神アレスというものだ。ハーデスの所へ案内してくれないか?」
「は、はい、分かりました。」
あまり時間を掛けたくないので、鬼に向かって威圧をかけながら頼んでみた。すると鬼は俺の事を神だと信じてくれたようで、さっそくハーデスの元へ案内してくれた。
案内されたのは大きな城だ。ここにハーデスは住んでいる。
そして俺は、これからハーデスに挨拶をしなくてはならない。これがなかなかしんどい。
「おいお前ら、少し耳塞いでおけよ?ふぅ。はぁーー、起きろー!! !!!!!!!!!!!」
音だけで地面が抉れるほどの挨拶をした俺は、再び城の方を見た。実際、城に少しヒビが入っている。
「はぁぁ。全く誰だい、僕の事を起こすのは。」
城から出てきたのは、身長15メートルほどもある、大きな鬼だった。




