16.大破壊
「門が開かない…………」
「え!?アルさんでも開かないんですか?」
龍族のいる山の頂きにある龍城に、ようやくたどり着いた俺らは、城の門の強度に驚愕していた。
「貴様らでもだめか……」
「ん?もしかして龍王以外でこの門を開けた奴って全くいないのか?」
「ああ、そうだ。貴様らは、龍王様を除けばこの山の中で1番強い。だから期待してみたのだがな。だめだったか。」
龍王が何考えてるのかますます分からなくなってきた。こんな事をして何の意味があるのか。
「この門が出来たのはいつ頃だ?」
「たしか200年ほど前だったと思う。」
「ってことは200年間ずっとお前らは龍王に会えてないのか?」
「いや、そんなことはない。私らが入ろうとしても入れぬだけであって、龍王様が自ら門を開けば会う事ができる。」
なるほど。なら龍王は別に、他の全ての生物から距離を置こうとしたわけではないのか。
するとやはり、この門を置いた目的は1つに限られてくる。
「どんだけ強い奴を求めてるんだよ………。あ、そうだ。龍王は外からこの門を開けられるんだよな?」
「ああ、一応な。」
「一応っていうのは?」
「龍王様がこの門を開けた後は、魔力や体力などをほとんど使い果たしておられたからな。龍王様でも余裕で開けられるというわけではないのだ。」
そうなると、龍王に会うために必要な条件は、龍王と同等以上の力を持っている事、となるのか。
「地上に龍王より強い奴なんていねえだろうが………」
「ねぇ、アレス。ちょっと本気出してみたら?」
「いやでも本気出したら当分体動かせなくなるからなー。」
「その時は私が回復してあげるからさ。良いんじゃない?」
「うーん。なら1つ聞いても良いか?」
「いいわよ。何を?」
「俺が地上にいる為にはどれ程の魔力が最低限必要だ?」
「そうねぇ。だいたいアレスの全魔力量の5分の1くらいかな?」
全魔力量の5分の1か。思ったより少なくて良かった。これなら俺は、全魔力量の5分の4の魔力を使っても大丈夫、ということだ。
「分かった。よし、お前ら、ちょっと離れてろ。具体的には5キロメートル以上だな。」
「そ、そんなにか。分かった。おい、貴様ら!すぐにこの場を離れろ!」
そうして付近にいた者が俺から離れていった。自分で言ったのに少し悲しくなる。だって、周囲5キロに人いないんだぜ?
「まあいい、やるか。『神技』!!」
俺は久しぶりに『神技』を使った。もちろん使う魔力量は、全体の5分の4だ。
「ほう。なかなかでかいのが出てきたな。」
俺の手から出てきた魔力塊は、俺の体を覆い隠せるほどの大きさだった。
「さて。いっちょ、いくぞ!!」
俺は気合いを入れるための掛け声ともに、魔力塊を門にぶち当てた。
魔力塊が門に当たった瞬間、耳が潰れるほどの爆発音が辺りを響かせた。
そしてその音ともに、俺は意識を失っていった。
アルが、みんなに対して離れるように要求してから10分ほどがたった。
あいつは本気を出す、と言っていたが、みんなをこれだけ離れさせるのだから、規格外な事をやろうとしているのはわかる。
もともと私とあいつが試練で戦った時から、あいつがいかに規格外かは分かっていたつもりだった。
しかし今回またその認識を変えざるを得ないかも知れない。まあ結果どうなるかは、終わってみなければわからないのだが。
「イースよ。アルが何をしようとしているか分かるか?」
「ん?バニパルかー。私にも分からないよ。とりあえず何が起きても対処できるようにはしておくつもりだけどね。」
アルと同じく規格外だったイースにも分からないらしい。一応いつでも動けるようにはしておいた方が良さそうだ。
そうして警戒を続けていると、とてつもない魔力を感じた。
「…………あれは、アルの?」
「多分そうだよ。まさかギリギリまで魔力を使うとはねえ。」
あり得ないほどの量の魔力を感じた次の瞬間、思わず耳を塞ぎたくなるような爆発音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
思わず目を瞑るが、状況を確認するために目を開ける。
「なっ……………」
山の頂きにあった巨大な龍城が、消えて無くなっていた。
目を開けると、空にはまだ太陽が見えていた。そして周りには何も建造物が無く、ただ広い荒地が広がっていた。
「ここはどこだ?」
「…………!起きた!」
「はぁ、全く無茶するね。」
「死んでなくて良かったです。」
また俺は意識を失っていたのだろうか。
「ああ、そういえば『神技』放ったんだっけ。にしては体が軽いな。イシスが治してくれたのか?」
「そうよ、感謝しなさい?あ、でも私にだけじゃないわよ。アイリスちゃんにもよ。」
「アイリスも治してくれたのか?」
「はい。少しだけしかお手伝い出来ませんでしたけど……」
「全然良いって。ありがとな。」
「いえ!こちらこそありがとうございました!」
どうやら俺の体は、アイリスとイシスに治してもらったらしい。本当にこの2人には助けてもらってばっかりな気がする。
そうするとトリーはどうなるんだ、という話になるが、トリーはまた別だ。こいつだって、戦闘では役に立っている。だから、別に何もしてないわけじゃないのさ。多分。
「ん?こちらこそ?」
「あ!い、いえ、何でもないです、忘れてください!」
「…………実は、アイリスはアルが寝てる間に頬にキ……」
「わああああ!ダメです、ダメですよー!それは言わないって約束だったじゃないですかー!」
「じゃあ、私が言っちゃおうかなっ?」
「それもダメですよ!」
なんだか聞いちゃいけないことを聞いた気がする。
おそらく俺が意識を失っている間に、アイリスが俺の頬にキ……んっんんをしたのだろう。
それを暴露されたためか、アイリスはさっきからずっと顔を真っ赤にしている。
かく言う俺も、人の事を言えないほどに顔が赤くなっている気がする。
「とっ、とにかくだな。状況を確認させてくれ。あの後龍王はどうなった?」
「龍王ちゃんなら無事だったわよ。今はここから少し離れた場所にいるから、会いに行ってあげたら?」
「ん?龍王、ちゃん?」
イシスが龍王のことをちゃん付けで呼ぶ事に、激しい違和感を感じた。
基本的にイシスが名前にちゃん付けする時は、2パターンある。それは、相手が女性であるときと、幼い男の子のときだ。
しかし俺の知っている龍王はジジイだったし、それをイシスも知っているはずだ。
「まあいいか。とりあえず行ってみるわ。」
「ふふふ、楽しみねえ。」
イシスの放った言葉が非常に気になるが、無視して行くことにする。
俺が起きた場所から少し歩くと、そこにはバニパルと、赤いフードに身を包んだ背の低い者が立っていた。
「よお。悪いな、龍城を壊しちゃって。龍王はどこにいる?」
「龍城については文句を言いたいところだが今はいいだろう。この方が龍王様だ。」
そう言ってバニパルが差したのは、隣にいたフードを被った者だった。
しかし俺は、その言葉に違和感を感じた。
「ん?なんでフードを被ってる?」
俺の知っている龍王ダグトスは、もっと背が大きいはずだ。さらに言えば、フードを被っている所など見たことがない。
「実は、非常に言い辛いのだが………」
「なんだ?」
「実は龍王は女だったのだ。」
「はあ!?」
待て待て一回落ち着け俺。あのゴリマッチョで脳筋のダグトスが女だと?あり得ない。一体なんの冗談だ。
「おい、落ち着けよ、バニパル。」
「まずは貴様が落ち着いたらどうだ。体が震えているぞ。」
「いやだって、龍王が女って……」
もう訳がわからない。バニパルは何だかそこまで驚いてはいないようだ。むしろ楽しそうに笑っている。これはまさか俺を騙すために、わざわざ普通の龍族にフードを被せているのか?それならば、イシスの意味深な発言も説明がつく。
「なあ、一応確認するが、龍王ってダグトスだよな?」
「ん?何故先代の名を知っているのだ?」
「先代?もしかして代変わりしたのか?」
「ああ、そういえば貴様は神だったな。なら知っててもおかしくはないか。」
ええっと。聞きたい事がまた増えてしまったのだが、俺が神である、という事についてはスルーしてしまっていいのだろうか。
まあ、十中八九イシスの奴がバラしただけだろうし、別に良いだろう。
それより、俺が神だって知っても貴様呼びを止めないあたり、メンタル強いな、と思う。もしかすると、トリーやアイリスよりも強い気がする。
「じゃあ、ダグトスは今どこにいる?」
「それは私にも分からん。おそらくどこかでご隠居なさっているはずだ。」
「ふーん。じゃあなんで龍王が女って事が言い辛い事なんだ?」
「実は私らはこれまでずっと龍王様の事を男だと思っていてな。」
「はあ?どんな間違え方したらそうなるんだよ。ちょっと見せてみろ。」
そう言うと俺は、龍王と呼ばれる女のフードを無造作にとった。
「…………幼女じゃねえか。」
「幼女ではない。これでも300年近く生きている。」
「俺は1000年だ。そんな俺から見たらお前なんて幼女なんだよ。」
「くっ!!」
実際のところ年齢を抜きにしても、容姿が幼女だ。俺と同じく赤い髪の毛をしており、身長は140センチメートルほどだろうか。なかなか可愛らしい顔をしている。龍王には到底見えないな。
「いやこれどう見間違えたら、男に見えるんだ?」
「私らもお顔を拝見させて頂いたのは今日が初めてでな。」
「まあ確かに声は少し低いけどな。」
「おいお前ら!!いつまで俺を無視して話を進めるつもりなのだ!」
え?こいつ今なんつった?俺?俺って言ったか?
「あぁ、なるほど………」
「分かってくれたか?」
「ああ、こいつはイタいな……」
俺は新たな龍王に対して、絶望していた。




