15.試練(2)
「それでは、2対4始めっ!!!」
俺とイシスの試練が始まった。
「俺はアルだ。」
「私はイースよ。」
自己紹介を始めた俺らに対して、相手側も自己紹介をしてくる。
「私はバニパルだ。」
「俺はアイゼアだ。」
「俺はウィル。」
「俺はルイスだ。」
見たところ、この4人の中ではバニパルが1番強く、他3人は同程度のようだ。
「じゃあ、俺がバニパルとアイゼアをやるから、イースはウィルとルイスを頼む。」
「えー、それじゃつまんないよ〜。」
「どうせこの後龍王とも一戦やるんだ。体力は温存しとけ。俺と違ってお前は体力がないからな。」
「うー、分かったわよ。」
とりあえず作戦が決まった。基本的には1対2を行い、相手を2人とも先に倒した方が味方の援護をする、という感じだ。
「貴様らはもう私達に勝った気でいるのか?先ほどから随分と舐めてくれているようだが。」
「実際、お前らそんなに強くないじゃん?」
「言ってくれるではないか、人間が。」
その後も、バニパルの事は煽れるだけ煽っておいた。
こいつは、昔からキレると周りが見えなくなってしまう事があった。相手の中で1番強いバニパルがそうなってくれれば、かなり倒しやすくなる。そのため、それを狙って煽ってみたのだが、バニパルがキレる様子はない。
「成長したんだなぁ、お前。」
「何を言っている。いいから始めるぞ。」
「ああ、どっからでもかかってきなよ。」
そう言うと俺は、体を高密度な魔力で覆い、構えの姿勢をとった。ここで重要なのが、あえて隙を見せることだ。全く隙を見せなければ、それだけで相手は警戒し、近づいてこなくなる。しかし、一箇所だけ隙を見せることができれば、相手は確実にそこへ突っ込んでくる。もっともこれは、俺が強くないと思っている奴にしか効かないが。
「ほう、なかなかの魔力だ。だが、甘いな。隙があるぞ?」
バニパルは、俺の作戦通り俺に向かって突っ込んできた。
「お前の方が甘いんだよ。」
俺は突っ込んできたバニパルに向かって、すでに発動させていた魔法を放った。
「なにっ!?」
「だから言ったろ。お前の方が甘いってさ。」
放った魔法は『エクスプロード』だ。これは大爆発を伴う焔属性の上級魔法である。
俺に突っ込んできていたバニパルは、それをノーガードで受けることになってしまう。よって、たったの一撃でバニパルは、戦闘不能となってしまった。
「いつの間にそんな魔法をっ!」
「ずっと前からだよ。気づいてなかったのか?」
そう。俺は、構えの姿勢をとったときから、魔法を発動させていた。そして、体の後ろに魔法を隠していた。体を魔力で覆ったのは、この為だ。『エクスプロード』よりも大きい魔力を使う事により、『エクスプロード』の存在を気付かせないようにしたのだ。
ちなみに今回は詠唱をしていない。実のところ、これまでも詠唱をする必要はなかったのだが、気分でしていた。しかし今回のような不意打ちを狙う際には、気分などは無視せざるを得ない。
もっとも、魔法を詠唱なしで発動できるのは、魔法の扱いに長けた者だけだ。しかしこの地上には、そんな奴は存在しない。
一般人にとっては、詠唱をすることにより魔法が想像しやすくなるため、威力が上がることになる。
しかし、魔法の扱いに長けた者にとっては、詠唱は邪魔でしかない。なぜなら、そういった者は詠唱をせずとも、魔法の最大限の威力を発揮させることができるからだ。
それを考えると、俺のような者は特殊だろう。なにせ、かっこいいから、という理由だけで、詠唱をしているのだ。
バニパルを戦闘不能にした後、もう1人の相手であるアイゼアの方を見てみる。
すると、バニパルが一瞬で倒された事が余程信じられない事だったのか、呆然としていて攻撃してくる様子もない。
「じゃこっちから行くぞ。」
ただ、警戒は怠らない。もしかすると、呆然としている演技、という可能性もあるのだ。多分ないとは思うが。
「ほれ。」
念のため、魔法によって炎を生み出し、それを目一杯広げて、アイゼアの視界を奪った。そして俺はその隙に、アイゼアの後ろへ回り込み、顔を殴りに行った。
「っ!!」
アイゼアは、突然目の前に大きな炎が現れ、その次の瞬間には後ろから攻撃されようとしていた事に困惑し、一瞬だけ動きが遅れた。しかし、それは仕方のない事だ。誰だってそういう目に遭えば必ず困惑する。
そしてアイゼアは、動きが遅れた事によりろくに防御もできない状態で俺の拳を受ける事になった。
俺の拳を受けたアイゼアは気絶し、俺の戦いは終わった。
本当は、今行ったような炎の操作でも詠唱をしたいのだが、特に名前がないため、詠唱をする事はできなかった。
これに嘆いた俺は昔、名前を一生懸命考えたのだが、『オペレーション』くらいしか思い付かなかった。もちろん、この名前だと弱そうなので、名前を考える事を諦めた。
「イシスの方は、終わったかな?」
俺の試練は終わったので、イシスの方を確認してみる。もし終わってなければ助けに行こうと思っていた俺だったが、そんな期待は砕かれた。
イシスも、試練が終わっていたようだった。
「じゃあ、始めるよ?」
アレスが戦闘を始めた事を確認したイシスは、戦闘開始の合図を相手に出した。
「わざわざそんなことを宣言するなんて、バカなのか?」
「黙っていれば、不意打ちも可能だった。」
「あなた達こそバカじゃない?2人相手に不意打ちなんて、成功するわけないじゃん!」
2人相手に不意打ちをした場合、上手くいって1人目を倒したとしても、2人目にやられてしまう。そうなることは、実際にやってみなくても分かる事だ。
「じゃあ早速だけど、雷魔法を受けてみなさい!」
そう言ってイシスは、雷属性魔法によく似た魔法を放った。実際に放ったのは、当たった相手を麻痺させる効果を持つ魔法だ。しかし、彼らはそれに気づかない。
おそらく彼らは、避けもせずに魔法に当たるだろう。なぜなら、彼らに雷属性魔法は一切効かないからだ。
これは龍族の進化によってついた耐性である。
大昔から空を飛ぶ事が多かった龍族は、自然の雷に当たる事も少なくはなかった。そのため、独自の進化により雷属性への耐性が出来たのだ。
それを理解している彼らは、魔法を避けようともせずに、そのまま突っ込んでくる。
イシスはそこまで予測したため、雷属性魔法に似せた魔法を放ったのだ。
「ぐっ!!何だと!」
「体が動かない。」
「残念だったね。あなた達が今受けたのは雷属性魔法じゃないよ。あなた達に雷が効かないことくらい知っているわ。」
そしてイシスは、体が麻痺して動けなくなった2人に向けて、瀑属性の上位魔法を放った。
「名前は……………何だっけ?忘れちゃった。まあ、いいか!ほれー。」
何とも気合の入らない掛け声ではあるが、魔法の神にとってそんな事はどうでもいいものだ。
イシスの放った魔法に直撃した彼らは当然、戦闘不能となった。
一瞬で龍族の精鋭隊4人が倒された、という事実に、周りの龍族達は驚愕で声も出ない。
「おい、審判?」
「はっ!す、すみません!この勝負、人間側の勝ち!!!」
驚いていたのは審判も同じなようで、俺が急かすと我に返って判定をしてくれた。
「それより、トリーとアイリスお疲れ。魔力使いすぎたりしてないか?大丈夫か?」
「…………ん。少しの間は魔力が使えないけど問題ない。」
「私も大丈夫です!少し疲れたぐらいです。」
「無理はしなくていいからな?」
実を言うと、2人の事はかなり心配していた。なにしろ2人にとって対人戦は初めての事で、しかも普段は使わないような大技まで使っていたからだ。
トリーが使った『ダウンフォール』は、直接剣に当たれば大ダメージ確定、衝撃波に当たれば一定時間初期ステータスになる、という強力な技だ。ちなみに、初期ステータスになる時間は、相手の強さに反比例する。
しかしこの『ダウンフォール』も、当然良い事づくしではない。この技は、剣に大量の魔力を込めることにより発動するため、これを放った後は30分間魔法が使えなくなる。もっとも、トリーは普段から魔法を使う事がないので、それについては問題ない。しかしそれでも、かなりの疲れはあるはずだ。
アイリスは威力のある魔法を何発も放っていた。しかも最後は、水属性の最強魔法もだ。さすがにこれだけ放っていると、戦闘後にくる疲労感は半端なものじゃないだろう。
「ぶー、私の事は心配してくれないの?」
「お前は聞くまでもなく大丈夫だろうが。」
「まあ、そうなんだけどねー。」
イシスに関しては何も心配していない。なにせ、魔法に関しては俺よりも圧倒的に優れている。そんな奴が、雑魚相手に疲れるような事をするはずがない。
「き、貴様らは一体何者なんだ?」
「ん?あー、バニパルか。その答えは、龍王に会ってから、という事でいいか?さっさと龍王に会いたいんだが。」
「まあ、いいだろう。こっちだ、ついて来い。」
こうして試練を受けた事により龍王に会えることになった俺らは、さっそく龍王の元へ向かった。
「!!お、おい、これは何だバニパル。」
「これは『龍王の門』と呼ばれるものだ。中から開ける事は非常に簡単だが、外から開ける事はほとんど不可能とまで言われている。」
「で、何でこんなものがあるんだ?」
俺らの目の前で立ち塞がっていたのは、大きな城と、その入り口に作られた大きな門だ。
まったく、何でこんな面倒な物を作ったのだろうか。龍王も歳なのだろうか。
「龍王様に会うにはもう1つ条件があってな。それが、この門を開ける事だ。」
要するに龍王は、本当に強いものとしか会いたくない、という事なのだろう。迷惑な奴だ。
しかしこの門を見たところ、特に頑丈そうには見えない。
「なるほど。面倒な事だな。じゃあとりあえず、いくぞ!!」
俺は門に手を当て、思いっきり押した。
「な、何だと………」
門は、開かなかった。




