14.試練(1)
龍族の行う試練は基本的に1対1で戦う事になっている。しかし、今回はこちらが4人で、相手が6人だ。このように、お互いの数が違う場合には、両者の合意のもとでルールを変えることができる。
「じゃあ、2対2と、2対4って事でどうだ?」
「詳しく聞かせろ。」
「まずこちらが、そこにいるトリーとアイリスを出す。そっちも2人出してくれ。それで最後まで生き残った奴がいるチームを勝ちとする。」
「ふむ、いいだろう。それで、2対4とは?」
「こちらから俺とイースを出すから、そっちは4人出せ。そっちの方が人数が多いんだから、条件がある。必ずバニパルを2対4で出す事だ。これでどうだ?」
ちなみにイースというのは、イシスの人間としての名前だ。神だと勘付かれずに戦った方が楽しくなるだろうと判断したため、本名は言わなかった。
「しかし分からんな。貴様らはわざわざ私達全員と戦う必要はないのだぞ?」
「分かってるよ。ただの気分さ。ちょっとお前ら全員をボコしたくなっただけだよ。」
「言ってくれるではないか。まあ貴様らが私達に勝つことなど不可能だからな。」
そっちこそ言ってくれるじゃねえか。これは、試練が終わった後が楽しみでしょうがない。
「では、始めろ。」
こうして2対2が始まった。
「トリー、アイリス、頑張れよ。全力を出せば必ず勝てるからな。それは俺が保証する。」
「…………ん。」
「頑張ります!」
こちらがトリーとアイリスを出すと、相手も2人の精鋭隊を出してきた。
ちなみに精鋭隊は全員オスで構成されている。
「俺はドフだ。」
「僕はカイさ。」
相手が自己紹介をしてきたので、こちらも返す。
「私はアイリスです!」
「…………トリー。」
「では、始めっ!!」
審判を行っているのは、精鋭隊ではない龍族の者だ。審判を相手側が行うのはあまり良くないような気もするが、今回に関しては全く問題ない。
龍族は基本的に、正々堂々と戦うのが好きな種族である。よって、審判を相手側がやったとしても、こちら側が不利になるような事はない。
「『ウォーター』!」
まず相手の実力を確かめるために、アイリスがカイに向けて水属性の初級魔法を放った。
「そんなの当たらないさ。」
アイリスの放った魔法を避けたカイはアイリスに近づいていく。その手に持っているのは剣だ。剣士に懐へ入られたら、魔法使いは一貫の終わりと言ってもいい。
しかし、アイリスのそんな危機を、トリーが解消させた。
「やるねっ!」
「……………」
トリーが、アイリスに近づいたカイを横から斬りつけたのだ。しかし、その攻撃は残念ながら防がれ、今は剣の打ち合いを行っている。
見たところ、経験はカイのほうが積んでいるように思われるが、技術に関してはトリーの方が上だ。おそらく勝てるだろう。あとは、アイリスだ。
「『ジエロ』」
ドフがアイリスに向けて、氷属性の上級魔法を放ってきた。アイリスはそれを難なく避け、再度魔法を放つ。
「『タイダルウェイブ』!」
この『タイダルウェイブ』は範囲魔法である。しかもかなり範囲が広いため、一度狙われたら避けるのは非常に難しい。
「龍化!」
避けられないと判断したドフは、龍の姿になり空へ飛んだ。当然魔法は当たらなかった。
「!?あ、あれが龍の姿なんですね。」
アイリスは、龍の姿を見て一瞬怯えたような顔をしたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、魔法で追撃を始めた。
「『タイダルウェイブ』!」
「もうそれには当たらんぞ。」
空を飛べるようになったドフにとって、範囲魔法は全く脅威にならない。勝ちを確信したドフは、アイリスを仕留めるために『龍のブレス』を放った。
『龍のブレス』は龍族しか使えない火属性魔法だ。しかしその威力は、タラスクのそれよりも小さい。
「くっ!!」
『龍のブレス』がアイリスの目の前に押し寄せてくる。しかし、彼女は動じない。
「『イマージョン』!」
相手が火を使うならば、こちらは水でそれを消せばいい。そう判断したアイリスは、水属性の最強魔法を放った。
しかし、ドフはそれを避けることが出来ない。 なぜなら、ドフが『龍のブレス』を吐き続けなければいけないからだ。
『 龍のブレス』には欠点が2つある。それは、この技を使っているときは口を開けっ放しにしなければいけないということ。そして、一回使ったら10秒間は使い続けなければいけないという事だ。戦闘している中での10秒は非常に大きい。
しかし、それでも他種族相手に『龍のブレス』を使う者は多い。なぜなら、そのデメリットを無視できる程のメリットを持っているからだ。威力が大きく範囲が広いこの技は、基本的に1度敵に向かって放てば、そこで戦闘が終わる。なにしろこの地上の中に、『龍のブレス』を耐えられる、もしくはそれから逃げられる者が、龍族以外でほとんどいないからだ。時々、そのどちらかを可能にする例外が現れるが、その確率は限りなくゼロに近い。
しかし今回ドフが相手したアイリスは、その例外だ。
アイリスの放った魔法は、ドフのブレスに押し勝ち、ドフに直撃した。
「な、なんだと!?」
こうして、ドフとアイリスの戦いの決着はついた。
残るはトリーとカイだ。両者が剣を交えてからはずっと剣を打ち合っていて、均衡状態にある。
一方ドフを負かしたアイリスは、力を使い切ったためか、その場に座り込んでいる。
よって、トリーとアイリスの戦いは実質1対1となるだろう。
「…………やるね。」
「そっちこそ。」
2人は戦いながらも笑みを浮かべており、非常に楽しそうだ。なんだか俺も戦いたくてウズウズしてきてしまった。
「早く戦いたい、みたいな顔してるわね。」
「……お前やっぱエスパーだろ。」
「あなたが単純すぎるのよ。」
俺ってそんなに単純なんだろうか。
「今、俺ってそんなに単純なのか?って考えてたでしょ?感情が全部顔に出てるわよ。」
もうここまで言われてしまったら認めるしかないな。俺は単純だと。ものすごく嫌だが、仕方ない。
イシスと会話をしていると、トリーとカイの戦いに動きが見られた。
「そろそろ決着をつけるさ。龍化!」
そう言ったカイは、剣を持つ腕と両足だけ龍化した。おそらく、力とスピードを上げるために一部しか龍化しなかったのだろう。
実は龍化の使い方は2つある。
1つは、体全体を龍化させるものだ。これを行うと、全体的にステータスが上がり、姿は龍と全く同じになる。
もう1つは、体の一部分だけを龍化させるものだ。これを行うと、龍化をした部分のステータスが大きく跳ね上がる。本来なら全身に与えるはずの龍化のエネルギーを纏めて体の一部に与える事によって、その部分だけがパワーアップするのだ。また、龍化を行う場所によって効果が微妙に異なるため、複雑ではあるが様々な場面で応用することができる。
今回カイは腕と足だけを龍化した。おそらくかなり力とスピードが上がっているはずなので、トリーにとっては悪い状況だ。
いくら技術で勝っていようと、他の部分で全て負けてしまったら、勝つ可能性は限りなく低くなる。
しかしまだ、トリーは諦めていなかった。
「…………舐めないでほしい。」
目で追えないほどのスピードで近づいてきたカイに対してそう声をかけると、剣を一閃させた。
「『ダウンフォール』」
技名を唱えて剣を一振りすると、その衝撃波によって周囲5メートルの地面が抉れた。当然その攻撃は、カイにも当たる。
「ちっ!!」
直撃ではないにしろ、攻撃が当たったカイは舌打ちをする。トリーは、龍族に舌打ちをさせるほどのダメージを、衝撃波だけで与えたのだ。
しかし、この『ダウンフォール』という技はそれだけでは終わらない。これは、衝撃波を受けた者のステータスを一定時間初期状態に戻す事が出来るものなのだ。
「っ!体が重いっ!」
ようやく事態の深刻さに気付いたカイは、負けを覚悟した。そして、その覚悟は間違っていなかった。
「…………これで終わり。」
トリーがカイの首筋にデュランダルを当てていた。
「この勝負っ!!人間の勝ちっ!!!」
そうして、トリーとアイリスが試練に勝った。
「じゃあ次は俺らだな。」
「そうね。久しぶりだから楽しみだわ。」
そう言って俺らは、唖然としているバニパルの方を見る。
「どっからでもかかってこいよ。纏めて潰してやるから。」
「それでは、2対4始めっ!!!」
俺とイシスの試練が始まった。




