11.居場所
今回からやっとアル視点に戻りました!
アイリスが消えた。
「そんなに気負ってたのかよ……」
俺が亡者の森の番人を倒した後、アイリスは1つの置き手紙を残して、俺らの元から去った。そこまで自分のせいで俺の腕を無くしたことがショックだったのか。それは完全に予想外だった。
「それで、これからどうするの?このままアイリスちゃんを放っておいてもいいの?」
「愚問だな。イシス、力を貸してくれ。」
「ふふふ。もっちろんいいよー。じゃあ、いくわよ。」
そう言ったイシスは魔法でアイリスを探し始めた。流石は魔法の神だ。魔法をここまで上手く使える者はこいつだけだろう。
「見つかったわ。ここから東に6キロほどかしらね。」
「分かった、ありがとう。トリーもくるか?」
「……もちろん。」
「ならイシスはアイリスがいるところまで案内してくれ。」
「はいはーい。」
アイリスの元へ走り出した俺たちがアイリスを見つけるまでにそう時間はかからなかった。なにしろ、イシスに魔法で足の速さを上げてもらったのだ。本当に便利な奴だ。
「いま、私の事を便利だって思ったでしょ?」
「お前エスパーかよ……」
「あまり魔法の神を舐めないでほしいわね。」
「…………今のは私にも分かった。」
「お前もかよ。女って怖いわ。」
「ふふふ。そうよ、女は怖いのよ?もっと私たちの事を畏怖しなさい。」
「自分のことを畏怖しろ、とか言う奴初めて見たわ。流石イシスだ。俺の予想の斜め上をいくな。」
「なんか、褒められても全然嬉しくないんですけどー?」
「そりゃそうだ。だって褒めてないからな。」
そんな下らない会話をしていると、遂にアイリスを見つける事ができた。
その背中はとても寂しげで、触れたらすぐにでも壊れてしまいそうだった。
「ここからは俺1人で行く。こうなった原因は俺にもあるだろうからな。」
1人でアイリスの元へ向かうことを決めた俺は、トリーとイシスを残してアイリスの元へ走り出した。
「死にたくないよ、アルさん………」
アイリスに近づいていくとそんな弱気な、そして当然の言葉が聞こえた。それを聞いて思わず叫んでしまう。
「だったら、死ぬんじゃねえ!!!」
俺の声に気づいたアイリスがこちらへ振り向く。その瞳は涙で濡れていた。
「っ!アルさん………」
「おい、お前なんで死のうとしてるんだ?俺の腕が無くなっちまったことか?それならもう問題ない。俺の腕はダチの神に直してもらった。だからもう、お前が気負う必要はない。」
「それでもっ!私のせいでアルさんを傷付けてしまったという事実は変わりません。」
「だから死ぬのか?」
「そうです。私は昔、私のせいで大事な家族を亡くしました。私がもっと強ければ、そんな事にはならなかったかもしれません。だから、私はあの時よりも強くなりました。だけど、だけど私はまた大事な人を傷付けてしまったんです……」
「……………」
それから俺は、アイリスの過去に一体何があったのか、聞くことになった。
しかしまさかアイリスに、そんな過去があった事は知らなかった。子供の頃に自分のせいで父親を亡くし、もうそんな事にはならないようにと強くなったつもりだったのに、また俺に大けがを負わせてしまった。おそらくその事実が、アイリスをここまで追い詰めてしまったのだろう。
「だから、死なせてください。」
しかしそう言った彼女はひどく悲しげで、
「もう、死ぬしかないんです。」
自分のことを諦めきってしまっていた。
「嫌だね。」
俺はそう、即答した。
「なんでっ!?」
「死なせてくださいとか言っておいて、1番死ぬのが嫌なのはお前じゃねえのか?それに、支え合って生きるのが人間という生き物なんだ。確かに今回お前は、俺に助けられた。だったらその借りをまたいつか返せばいいだけじゃないのか?」
「でも、私はそんな借りを返せるほど強くありません!それに、私はもう自分のために誰かが傷つくのは嫌なんです!」
「別に借りなんてどうやって返してくれてもいいんだよ。お前の得意な料理だっていい。なんなら、お前の笑顔でもいい。それと、自分のために誰かが傷つくのが嫌だと?ふざけんじゃねえよ。だったら尚更死ぬんじゃねえ。お前が死んだら俺やトリーはもっと傷つくぞ。結局お前は自分の事しか考えてないじゃねえか。」
「そ、そうです!私は自己中です。だから、そんな私を置いておいてくれる居場所などもう私にはないんです!」
「ここにあるだろうが!!」
「っ!!」
思わず怒鳴ってしまった。俺が地上に降りてきて、初めて怒ったかしれない。しかしもう、こんなネガティヴな考えを聞くのは耐えられない。
「守られるのは嫌か?」
「嫌です!また私のせいで、私の周りから大事な人がいなくなると思うと……」
「1人になるのは嫌か?」
「もう、1人になんてなりたくありませんっ!!」
「なら俺が守ってやる。お前がもう2度と1人にならないように。俺がお前の居場所を守ってやる。約束だ。だから、戻ってこい。アイリス。」
「アルさんっ……」
そのあとは大変だった。アイリスはそれから1時間以上泣きっぱなしで俺から抱きついて離れないし、イシスにはからかわれるしで、本当に大変だった。
「まあ、なんにせよ、アイリスが戻ってきてくれて良かったな。」
アイリスを説得していた時は、あまり物を考えず感情的に喋っていたのだが、後から考えると物凄く恥ずかしいことを喋っていたのに気づく。
「俺がお前の居場所を守ってやるって、どれだけ恥ずかしいことを言えば気が済むんだ、俺は……」
「で、でも、アルさんとても素敵でしたよ?」
真っ赤に顔を染めたアイリスがそうフォローしてくれるが、トリーはあれからずっと冷めた目でこちらを見てくるし、なかなか辛いものがある。まあこれで1人の命が助かったと考えればこれくらいは、安いものか…
「そういえば、まだ自己紹介してなかったな。こいつはイシスだ。」
ここにきてまだイシスの紹介をしていない事に気付いた俺は、イシスに話を振る。
「そうね。私はイシスよ。魔法の神と呼ばれているわ。これからよろしくねっ!」
「わ、私はアイリスです。今回はアルさんのこと、ありがとうございました。そして、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。これからよろしくお願いします!」
「…………私はトリー。よろしく。」
目の前に神が2人もいるというのに、アイリスに驚く様子などは見られない。おそらく俺のせいで、大したことでは驚かなくなったのだろう。まあ、目の前に神が2人いるという状況は大した事だと思うが。
そうして簡単な自己紹介が終わった後、これからの方針を決めるために話し合いを始めた。
「えっと、結局イシスは俺らの旅についてくるって事で良いのか?」
「そうよー。それがゼウス様からの条件だからね。破るわけにはいかないわ。」
「なら、この後どこ行こうかな。お前らどこか行きたいところはあるか?」
そう聞いてみるも、アイリスとトリーは特にないようだ。
「イシスはあるか?」
「そうねぇ。久しぶりにハーデスに会ってみたらどう?」
「ん?ハーデスって地上にいるのか?」
ハーデスというのは俺の親友で、冥界の王と呼ばれる神の事だ。
「正確にはそういうわけじゃないけど、この地上のどこかに冥府への入り口があるとされているわ。」
「じゃあそこに行ってみるとするか。2人はそれでもいいか?」
「………ん。」
「いいですよ!」
2人から了解も得たので、ハーデスの所へ行くことが決まった。
「でも神である俺らはともかく、2人は冥府へ行っても大丈夫なのか?」
「そこはちゃんと私が魔法でサポートするわ。」
「流石だな。じゃあ、ひょっとして冥府への入り口がどこかも分かってるのか?」
「ふふふ。もちろんよっ。って言いたいところなんだけど、残念ながら私にもわからないわ。」
そうか。それは確かに残念だ。しかし、仕方ない。イシスだって万能というわけではないのだ。
「じゃあ、とりあえずこの先にある山に向かっていくか。」
「………なんでその山に向かう?」
「ああ、あの山は凄く禍々しいオーラで覆われてるんだ。もしかしたらそこへ行けば何かヒントが得られるかもしれない、と思ってな。」
「なるほどねー。いいんじゃない?それで。」
という事で俺らは、はるか前方にある山に向かって歩き出した。
「ヒヒヒ、後少しだァ。後少しで、俺が創造神となれるゥッ!」
「それは喜ばしいことですね。後どれくらいかかりそうですか?」
「そうだなァ。あと、1ヶ月ほどかなァ。いやぁ、楽しみだ。あの神界にいる神どもに目に物見せてやろう。ヒヒヒヒヒヒッ!」
暗い洞窟の中で、如何にも怪しげな男2人が会話をしている。おそらく2人の中で立場が上であろう男の顔は、あまりにも大きい負の魔力によって見ることは出来ない。もう1人の男も、黒いフードを深くまで被っているせいで、顔を見ることは出来ない。
そしてその男は恐ろしいことを口にした。
「さァ、世界消滅まで、残り1ヶ月だァ!!




