ふたりのサキ
あれから一週間。俺は近づいてくる女性がどんな感情をもって近付いてくるのかなんてのは忘れている訳で。
しかも、同じような名前の人が新人として入ってきていて、どちらにもサキの字が混ざっている。
藤崎サキ、女子高生のバイト。今時珍しい、カタカナの名前。
……俺のバイトはファミレス。それ故に高校生等のバイト学生も結構多い。
斯く言う俺もそのうちの1人だった。高校卒業後、専門学校に進学。仕送りだけでは色々生活が困難なのでバイトを始めたのだ。
一人暮らしは、特に食が心配なのだが、ここでバイトする限りは食費がかなり浮くし、何よりも美味しいのがいい。
もちろんタダで食べれる訳じゃなくて、1食あたり350円がかかる。
それでも一人暮らしの専門学校生にはとりわけご馳走なのだ。
話が逸れたが、とりあえず食に関する職を選んでいるせいで夕方のご飯時、一番混む時はとにかく人手が欲しい。そのバイトの中の一人が新人で、藤崎という名で、割と俺に絡んでくれる。
もう一人の新人はタメ歳の20歳で、短大卒業後に社員として入ってきた。
つまり、新人なのにバイトより立場が上なので、経験上は俺の方が長いのだけども微妙な感じ。俺は調理場専門なのに対して社員はホールも調理場もどちらもこなせるようにならなくてはならない。
シフトが重なっている時は割と教える機会もある……。
名前が新田咲。
どちらもそれなりに可愛くて、正直な話、どっちが指令で動いているサキュバスなのか分からなかった。
俺が良いと言うまで演技を続けてくれというその演技は、迫真の演技。
というか素でやっているのか。
割と好印象のまま、仕事ばかりの毎日。
一週間ではなかなか進展はないものの、俺の恋心はある程度育っていて。
その育った恋心が、どちらか一方はサキュバスで、偽物なのだ。
……どうやって聞き出せばいい?
同時期に似たような名前で、しかもサキって字が付いてる。
直接的な言葉ではなくて、間接的な言葉で確かめてみるしかないか。
いや、これは確かめずにこのまま。
この状況を楽しめばいい!
中身が人間の、本物の恋が出来るならそれはそれでいいし!
一人だけが俺に好意を漂わせて近付いて来るならそれはそれで、そっちがサキュバスだという事だろうし。
なんの事はない、いつも通りに仕事をすれば問題ないじゃないか。
割り切って、これからの2人の動向に注意しよう。
これでなんの問題もないだろ?