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第一話

「失礼します」

 そう言って一人の生徒が学園長室へと入った。スラっとした体格、顔つきも整っており知的な印象を受ける。彼の名は令堂双円(れいどうそうえん)。この零雨学園二年一組に所属する真面目ということで有名な生徒だった。

「おぉ、君か待っていたよ」

 学園長、冷雨雄山(れいうゆうざん)は双円を接客用のソファーへと案内した。双円は軽く会釈をし、ソファーへと腰掛ける。

「君を呼んだのは言うまでもないが()()のことだ」

 雄山は腕を組みうんざりしたような表情で言った。

「はい。おそらくそのことだろうと、私としましてもそのつもりで来ました。『怪異現象研究部』の部長である私を学園長直々に呼ぶとしたら、そして今のこの学園の状況なら」

「そうだな……」

 雄山は大きく息を吐いた。

「もう五人だ。五人も失踪してしまった」

 それは冷雨学園で起きている連続失踪事件。表では連続誘拐事件としても扱われ、市内を賑わしている。学園内でも放課後の補習の中止、部活動の中止など様々な影響が出ている。しかしこの失踪事件の原因をこの学園内の人間はほとんど知っていた。

「そうですか。もう五人になってしまいましたか。三日前までは三人だったはずですが、いつの間に二人も?」

「昨日に二人だ。今朝警察とその二人の親から連絡があった。朝いなくなっていたらしい」

 初めて失踪してしまったのは一年の女子生徒だった。約一ヶ月前、彼女は唐突に姿を消した。夜の間に。

「やはり夜――――。例外はなしですか。すべて同一視してもいいでしょう。全て『鬼真似(おにごっこ)』が要因でしょう」

 やはりか……と雄山は俯く。学園としてもこの『鬼真似おにごっこ』という都市伝説の流布には頭を悩ましていた。一ヶ月前、少女の失踪とともに急速に学園内に広まった『遊び』。それはかつて流行った『こっくりさん』のように降霊術じみている。この話が広まると共に、一人また一人と失踪していく。

「もう遅いかもしれませんが、手は打つべきです。たかが『都市伝説』、たかが『うわさ話』だとしても伝染性があります。そのまま、伝染病のように蔓延し気付いた時には多くの人間が『感染』するのです。いくら蔓延したからって、そこで対策をしなければ完全に手遅れになります」

「そうだな……生徒たちはいま皆揃って『鬼真似(おにごっこ)』に興味を向けている。別のものに視線を移させる必要があるな」

「そうです。別のうわさ話を流すのもいいですが、ここは学校です。臨時に学力テストでも行えば、一時的にそちらに気を向けさせることができるでしょう」

 学生にとって最大の敵は言わずもがな、テストだろう。突然テストを行うと言ってしまえば、必死に勉強をし始めるに違いない。

「よし、わかった。一週間後に臨時学力診断テストを行おう。教師側にはこちらから説明する。まぁ、事情を知っている教師が何人いるかもわからんから、理由付けは適当にする。そこは学園長権限だな」

 そう言って雄山は笑ってみせる。

 しかし双円は眉ひとつ動かさずすくっと立ち上がった。

「で、私を呼んだ最もたる理由は、調査ということでいいでしょうか?」

「うむ。よろしく頼む」

「では成果報酬で、部費をよろしくお願いします」

 やはり無表情ではっきりという双円に雄山は顔をしかめつつ、あぁと頷いた。

「それでは」

 双円は踵を返すと学園長室をあとにした。

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