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第06話 初めての外の世界

「坊ちゃま。起きてください」


 社交界デビューを目前にした朝。

 俺はいつも通りシエラに起こされていた。


「……うぅ……もうちょいだけ……」

 そう言って布団の中に潜る。


「さっきからそればっかりじゃないですかぁ……」


 そんなやりとりを数分してから、俺は起きることにした。





 部屋を出て、食堂に向かう廊下で人影がひとつ――。


「クレイオは、今日も私と同じで起きるのが遅いな」


 見ればお爺さまだった。首をコキコキと鳴らしながら眠たそうに歩いている。


「ええ、朝は眠たくて……。お爺さまと、こうして廊下で会うのも同じみですね」

「私も朝が苦手だからなー。クレイオが朝弱いのは私に似たのかもしれん」


 そう言葉を返すお爺さまは、ララシーの誕生日からずっといる。

 決して、「早く帰れよ!」など思ってないぞ!

 まぁ肝心の理由なんだが、俺の社交界のパーティー会場が王都であるので、その時に帰る。

 ということになった……。

 ちなみに王都に行くには馬車で約一日ほどかかるので、今日の昼には家を出なくてはいけない。



 食堂に入ると、やはり俺とお爺さまが最後だった。

 毎度のことだが、申し訳ない。

 シエラに椅子をひいてもらい席に着く。

 俺たちが座ると同時に料理が運ばれてきた。今日は、俺の好物のかぼちゃのスープだ!

 食事中は他愛もない会話と今日の予定を話し合い、朝食は終えていく。



 朝食を終え、自室に戻って必要になるかもしれないものを適当に『アイテムボックス』に入れる。

 準備といえない準備を終えた後、玄関に向かうと、やはり俺が最後だった。

 自己弁護をするわけではないが念のため言っておく、俺は別に時間にルーズってことはない。

 むしろ待ち合わせ時間の少し早めに来てこれだ。家族が、みんな早いのよ……。





 てなわけでところ変わって今は馬車の中。馬車の中は広く、10人ぐらいは軽く入れる。

 窓もいくつかあり、席も一人ひとソファー。

 大きいソファーだから、俺の身長だと余裕で寝れる……。それに絨毯まで敷いてるし……。

 うん。もはや部屋ですわ。


「クレイオちゃん、キレイな緑の景色よ」


 そう言われて俺は、窓から外を見る。窓から眺める風景は電車に乗っていた時を思い出させた。

 俺が乗っていた電車は片田舎のローカル線だったからな……。少し懐かしい。

 隣ではララシーが、移り変わる景色をひとこまでも見逃すまいと、真剣な表情で見つめている。

 その真剣さ、可愛いよ!! あぁ、写真撮りたいわ。カメラないけど……。



 と、ようやく街に入ると、俺は馬車の窓を開けて賑わう街並みを見た。店や露店が建ち並び、すれ違う人が皆、笑顔で手を振ってくる。

 頭部に猫耳が生えている小さな女の子も手を振ってくる。

 ……猫耳!? えっ、さっき猫耳が生えてたよね? まさか、この街に獣人がいたとは……。

 てか獣人って、獣の里みたいな所にひっそりと生息してないんかよ! 

 と、心の中で誰かにツッコミを入れてみるものの内心感動しすぎて放心状態です……。はい。


「クレイオちゃん。クレイオちゃん。どうしたの?」

「すいません、母上。獣人を初めて見たものですから、少し驚いてしまって……」

「お兄さまは獣人を見たことがなかったの?」

 と、ララシーが横から不思議そうに訊いてくる。

「えっ、ララシーは見たことがあるの?」

「はい、ありますけど……。ブラッシーさんですよ?」


 ……。ブラッシー? 知らんな……。


「ブラッシーさん? ごめん知らないな。何者なの?」

「ブラッシーさんは兎の獣人で、ラベンさんに野菜を届けに来てくれる方です」


 ラベンっていうのは、うちの料理長でもちろん人間なのだが、そんなラベンのことなど、どうでもいい。

 俺もブラッシーさんが訪ねて来てるときに呼んでほしかったな……。


「そんな獣人がいたんだな」


 俺がそう呟くと、ララシーは少し拗ねたような口調で言う。


「お兄さまは、ブラッシーさんが来るときに限らず、いつも独りでどこかに行ってるんですもの……」


 あー、なるほどな。

 俺が森に行ってる間に来る訪問者がブラッシーさんね……。そりゃ会ったことないのも納得だわ。

 それにしても、鍛錬に夢中でララシーと昼間にあまり遊べてなかったな。

 これは兄として失格なのでは……!? マズい、非常にマズいぞ。


「ごめんララシー。これからはできるだけ昼間も一緒に遊ぼっか!」


 そう俺が言うとララシーはパァッと花が咲いたみたいに笑顔になり「はい!」と言い俺に抱きついてくる。

 う~ん、妹って可愛いよね!


 そして俺がララシーの頭をよしよしと撫でていると前方から声が聞こえてきた。


「クレイオちゃんは、いつ私とも遊んでくれるのかしら?」

 ――っ。

 ……俺は恐る恐る視線だけを移す。母上が半眼で俺を見ていた。怖いよ! ただの兄と妹の微笑ましいスキンシップじゃないか。何故そのような視線を……。母上よ、あなたは親ですぜ……。

 にこやかな笑顔で見守ってくれ!


「クレイオちゃん。久しぶりに私のお膝に座って話さないかしら?」

「お兄さま、隣で私の頭を撫でてください」


 ちょ、ちょっと、何で身内で……。あんたら母娘おやこでっせ!


「……なぁ、私も会話にいれてくれないかい?」

 ――ッ! 第三者の声! 声の方向を見てみれば――父上だった。

 まぁ、父上しか残ってないけどね……。

 そういえば、馬車に乗ってからずっと窓の外を眺めてたような…………。

 いたたたッ、こころが痛くなってきた。


「そうだ父上! この前話したトランプやりましょうトランプ!」


 なぜ、この世界でトランプという言葉が出てるかというとだな……。

 それは俺が少し前に生まれ変わったことや能力のことなどを話したところまで遡る。

 実際、「実は僕、前世の記憶があります」などと、もし自分の息子に意味の分からんことを言われても俺は信じないだろう。

 所詮は子供の戯言だ。その場で信じたフリをするのが精一杯だ。

 だが、俺の親はあっさりと信じてくれた。

 父上も母上も物分かりが良いというのか何というか……少し驚いたけど、それだけ俺のことを信用してくれてるんだなと思って嬉しかった。ほんと良い親だ。

 まぁ、それはおいといて……。


 それからたまに、前世の世界のことを父上と母上に話すんだけど、特に父上は興味津々で……。

 こっちの世界には、『シュタリド』というチェスや将棋みたいなボードゲームが主流でカードゲームがない。なので俺がトランプのことを言うと父上は目を輝かせて、しつこいぐらいルールを訊いてきた。


「あぁー! あのカードゲームとかいう。やろうか!」


 その父上の言葉をきっかけに、トランプをする方向に何とか持っていくことができた。

 そしてあらかじめ用意してた俺の自作トランプ(試作品)を『アイテムボックス』から出し、ババ抜きや七並べなどをして馬車の中を楽しく過ごしていった……。楽しくな。大事なことだから二回言った。





    ――□■□――





「クレイオちゃん。そろそろ降りるわよ」


 母上の声で俺は起きる。いつの間にか眠ってたらしい。

 俺は眠い目をこすりながら、窓から外を見るとすっかり暗くなっていた。


「今日はヴァンターレに一泊して、朝一番で王都に向かおうということになった」


 父上が俺にそう告げると、馬車がゆっくりと停車する。到着したようだ。扉が開かれてから俺たちは外へ出た。


 前の馬車から降りてきたお爺さまと合流し、いかにも高級そうなレンガ造りの宿に入る。


「いらっしゃいませ。『エリュドゥラ亭』にようこそ」


 エプロンドレスを着た女性が俺たちを迎えてくれ、受付まで案内してくれる。


 大人勢が受付で部屋を決めている間

 近くのソファーにララシーと座って待つ……。そして待つこと数分、父上たちが戻ってきた。


「一人部屋と二人部屋しか用意できなかったから、クレイオは一人部屋でいいかな?」


 父上が鍵を出しながら言う。


「はい、大丈夫です」


 逆に一人部屋の方が都合が良いしな……。


「それじゃあ、部屋も決まったことだ、食堂で夕食にしないか?」


 お爺さまの提案に父上がうなずく。


「そうですね。お腹も減りましたし」


 その言葉を聞いて、お爺さまは歩き出した。


「よし、そうと決まれば食堂に行くか」

「「「はい」」」


 そう言って俺たちも、あとに続いた。



『エリュドゥラ亭』の食堂のメニューは知らない料理名ばっかりだった。なので注文は父上たちに任せておき、俺は周りをきょろきょろと見渡す。

 宿屋の食堂って、こんな静かなもんなの? もっと人や獣人などがワイワイやってるもんだと思ってた……。

 それに人しかいないような……。もしかして、獣人さんはお断りなのか!? 差別はアカンで……。 


 おぉっ! 美人発見!

 キラキラ光る金髪のロングストレートに、金色の双眸。すれ違った男なら殆ど振り返る容姿だ。

 だが、頭部に生えているものを見て人ではないと認識する。

 ――獣の耳。

 なーんだ、やっぱり獣人さんお断りじゃなかったなんだな! 良かった。良かった。

 俺が、金髪獣人のピコピコと動く耳に夢中になっていると、給仕さんが料理を積んだワゴンを押して運んできた。


「ご注文の品をお持ちしました」


 給仕さんはテーブルに手際良く並べていく。

 瞬く間に豪華な料理に埋め尽くされた。


「どうぞごゆっくり」


 俺は、立ち去ろうとした給仕さんに軽く会釈して、置かれた品々を食べ始める。

 まず目の前に置かれたサラダを食べてから、肉料理に手をつけた。

 何の肉かは知らないが、うますぎる!

 口の中で溢れ出す肉汁の革命が!

 肉って、こんな繊細でやわらかな食感だったんだな……。

 それから俺は、野菜・肉・野菜・肉の順番でがっつくように食べた。みんなに呆れられているかとも思い男連中の方に視線を向けてみると、俺とそう変わらなかったので遠慮なく食べまくった。





――やっと一息つけた。

 夕食を済ました後、男同士での裸の付き合い、すなわち風呂場から帰ってきた俺は、部屋のベッドで横になっていた。

 後は寝るだけなのだが……馬車の中で寝ていたので、全く眠たくない。


――よし! 探検するか!

俺はベッドから降り、ベランダの窓を静かに開ける。左右確認。誰もいないことを確認してからそろりと部屋を抜けだし『フライアウェイ』を念じて、ベランダから降りた。

 くっくくく! 初めての街だ!

 自然とこぼれる笑み。

 そして俺は夜の街に繰り出す。



 街を歩くこと十数分、段々と飽きてきた……。

 なぜなら、ほとんどの店が閉まってるからだ。やっぱり昼間に来ないとダメだね……。

 雰囲気だけは楽しめたので、宿に引き返すことにして、その場をあとにしようと――。


「まったく、こんな夜の街で迷子かな? 貴族の少年」

 ――っ。

 突然の声。少し身構える俺のもとに現れたのは――食堂で見たあの美人の獣人だった。


「あ、食堂にいたお姉さん!」


 食堂では座っていたから見えなかったが、お尻からはもふもふしてそうな尻尾が! 触ってみたいな……。


「もしかして少年は、私の本当の姿が見えてる?」


 怪訝そうな顔をして、質問をするお姉さん。本当の姿? 獣耳と尻尾が丸見えですからね……。

 獣人でしょ?

 まぁ、いちおう確認っと。




メルヴィー・フォネルス 

狐獣人 ♀ 13歳




 なんと15歳! 獣人とか以前に年齢に驚いた! 獣人は成長が早いのか? 

 いやいや、そんなことはおいといて……。


「本当の姿? 何それ」


 何となく嫌な予感がするので、全力でとぼけることにした。


「ふーん、そっか。何でもないから忘れて……。 それはそうと子供が、こんな夜中に一人でウロウロしてたら危ないよ?」


 確かに子供が一人で出歩くにしては、些か危険な時間帯だ。

 しかしそれは、目の前のお姉さんも一緒のことだろう。

 美人だし、襲われちゃうよ?


「うん……。けどお姉さんだって危ないよ!」

「私はいいの。ほら、お姉さんが宿まで送ってあげる」


 そう言って、手を差し出してくる。

 おっ!? こ、これは、身内以外の女性と初めて手を繋ぐチャンスじゃないのか?

 けど待て、落ち着け俺! 普通こんなに親切にしてくれるか? まさか……罠なのか!? 手を繋いだ瞬間に何が起こるんだ!?

 手を繋ぐか繋がないかで迷っていると、お姉さんの方から手を繋いできた!


「ほら早く! 親御さんが心配してるぞ」


 ほほぉ、いいもんですなぁ。女性の手を繋ぐのは……。





「少年の名前はなんていうの?」


 歩き出してから数分、お姉さんが訊いてきた。


「クレイオっていいます。お姉さんは?」


 俺は、知っていたけど訊き返す。


「私は、エリビアだよ」

「えっ?」 


 予想していた答えと違うことに驚いてしまい、ついつい声に出してしまう。


「うん? どうかしたの?」


 なぜ、わざわざ偽名を使う必要があるんんだ? 気になるな~。

 気になるけど、何か急に怖くなってきたな……。

 あっ、そうだ! いっそのこと俺が怖い子供を演じればいいのか。名案じゃん! 目には目を怖いものには怖いものをってね!


 俺は突然手を離して、俯きながらお姉さんに答える。


「お姉さん、どうして嘘をつくの」

「えっ、急にどうしたの? クレイオくん」

「お姉さんの名前、本当の名前じゃないよね?」

「ちょ、ちょっと怖いよクレイオくん。やめてよー」


 お姉さんに小突かれるが俺は動じない。


「ちょっと……返事してよぉ」


 よしよし。いい感じに怖がってきてるぞ! 最後はこれで決める!

 俺は、スキル『透明化インビジブル』を目と口にして、顔を上げて言った。


「ねぇ、どうして? メルヴィーさん」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そんな声を上げて、お姉さんは気絶した。


 ありゃ? やりすぎたか?





2週間ぐらい空けても、なかなか成長してません! すいません!

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