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第08話 王都までの道中

「早く。次クレイオくんが引く番だよ」

 そう俺を促すお姉さん。

「ああ、そうだったね」

 ババ抜きの最終局面……何とかララシーを勝たした俺は、お節介を焼いている内に残りの二人になってしまっていた。

 くそっ、俺としたことが……こんなミスを犯しちまうなんて。

 そして今やってるババ抜きは、盛り上げる為かどうか真意は謎だが母上が提案した最下位の人は罰ゲームという、まぁ何かありきたりなババ抜きになっている。

 一位になった人が罰ゲームを決めるので、今回は一抜けの父上が決める権利を手に入れた。

 まぁ、父上のことだしえげつない罰ゲームは命令しないとは思うが、ババ抜きを教えた側、日本代表いや……地球代表として負ける訳にはいかない。


 さて、右か左か……。


 俺の対戦経験的に右がジョーカーな気がするんだよな。

 一番引いて欲しいように飛び出てるし。

「早く引いてよー」

 なかなか急かしてくるな……。

「ごめん。今引くよ」

 よしっ、とりあえずこういうお姉さんみたいなキャラは顔に出やすい筈だ。右を引くフリをして表情を確認するか。


 …………。


 顔にめっちゃ出たな。

 俺が右のカードに手をかけた瞬間のしたり顔、この俺の目は誤魔化せねぇぜ。

 さて、とっとと左のカードを引いて、この戦いに終止符を打ちますか。

 悪いねお姉さん。

 俺は心の中で謝って、左のカードを引いた。

 お姉さんの方が一枚上手ということも知らずに……。


 そもそも何故、お姉さんとこんな和気藹々とトランプをしているのかというと発端は朝に遡る。



   ――□■□――



「ふぅー。スッキリした」

 お姉さんとの関係を問い詰められた俺は、トイレで時間稼ぎをしていた。

 うーん。俺とお姉さんの関係……。どんな関係なんだ……。 うん? ていうか友達ですらなくないか?

 名前も嘘つかれるし、めっちゃ他人じゃん!

 一方的にお姉さんが絡んできたということにしておこう。うん、そうしよう……。

 というわけで、一応考えがまとまった俺は食堂に戻ってきた。

 そして驚愕する。

 なんと俺の席にお姉さんが座っていた。

 えっ……どういうこと? しかも何気に馴染んではるやん。

 俺は頭が混乱しつつも家族が待つテーブルに近づく。


「あっ、クレイオくん」

 お姉さんが俺に気付き、笑顔で手を振ってくる。

 俺はそれを無視して隣のテーブルから椅子を拝借して座る。

「あら……クレイオちゃんがトイレに帰ってきてから不機嫌だわ。反抗期かしら」

 母上、全く関係ないです。的にすら当たってません。反抗期は、そのうちするつもりですが今はしません。

「違いますよ母上。お腹が空いてるだけです」

 俺は、とりあえずそう言っておいた。まぁ半分ホントだしな。

「そう、それなら良いんだけど……お料理ならもうすぐよ」

 母上がそう言った後、父上が軽く咳払いをしてワザとらしく本題である話題を投入してくる。


「いやーまさか、クレイオがフォネルス家の娘さんと親しくなってるとはね」

「そうです。お兄さまだけズルいです」

「クレイオちゃんが、いつの間にかプレイボーイに……」

「ふむ。クレイオもなかなかやるのぉ」


 おいおい、あんたら何勝手なこと言うてんねん。

 てか、一人ずつ考えてたんか知らんけど、そんなコメントいらねぇ。

 ……うん? 父上の口振り的に……お姉さんの家名を知ってるのか?


「父上は、お姉さんの家名をご存じなんですか?」

「そりゃ勿論。それに知ってるのは、私だけじゃないよ」

 俺は、残りの二人の大人の顔を窺う。

 どうやら、お爺さまも母上も知ってるみたいだ。


「……コホン」

 軽く咳払いをして、母上がお姉さんに話しかける。

「エリビアさん、クレイオちゃんが戻ってきてから、喋らなくなったわね。どうかしたの?」

「そ、それはそのぉ……ええっと……」


 そう言うお姉さんは、母上の予想通り何かありそうだ。まぁどうせ、トイレかなんかだろう。

「気なんか使わないで、遠慮なく言っても良いのよ。ほらっ、内に溜めておくと気持ち悪いでしょ」


 子供を溺愛する母親とは違う一面。こういうのは何かと新鮮だ。勿論良い意味でな。

「実は……私クレイオくんに嫌われてると思うんです」


 そう言った瞬間、お姉さんの方を見てた家族全員が一斉に俺の方に向く。

「クレイオちゃん、本当なの?」

「クレイオ、どうしてだい?」

「お兄さま……どうして?」

「ふむぅ……」

 何かその連携ウザいわ。一人でええやろっ!

「いやいやっ。嫌ってないよ!」

 まだ知らない事も多いが、別に嫌ってるわけではない。

「クレイオちゃん、本当?」


 ジーッと俺を見つめてくる母上。

「当然ですよ……」

「ですって。良かったわね。本人もこう言ってるみたいだし、考え過ぎじゃないかしら」


 母上がお姉さんの前頭部をよしよしと撫でる。

「クレイオくん本当?」

 獣耳をシュンと元気無さそうにして俺を見つめてくる。

「うん」

 俺がそう返事をすると、お姉さんは泣き出しそうな顔になる。


「何で泣きそうなの……」

「だ……だってクレイオくんが初めての友達だから嬉しかったんだもん」

 えっ可愛いやん。もっと苛めたくなるな。

 …………。

 うん。今は置いとくか、でないと話がズレる。

 初めての友達……そんな事言ったら俺もだな。

 それはそうと、お姉さんの中では俺はもう友達になってたんだ……色々と悪いことしちゃったな……。

 他人とか言ってごめん。少し反省だな。


「実は俺も、初めての友達がお姉さんなんだ。それに何か色々とごめんね……。こんな僕でよければだけど、これからも仲良くしてくれたら嬉しいな」

 俺はお姉さんに微笑んだ。

「クレイオくん……。わ、私の方こそ不束者ですがよろしくお願いします」

「二人だけズルいです! 私も友達に入れて欲しいです!」


 声がする方を見ると、

 ララシーが頬を膨らましていた。なんて可愛らしいんだ! 本当に俺の妹か?

「えっ、良いの?」

 お姉さんも、ララシーに負けず劣らずの可愛らしいキョトンとした表情で返事をする。

 うむ……。こういう表情もアリだな。

「もちろんですっ! 私、前からお姉さまが欲しかったんです」

 おいぃっ。兄だけじゃ不服なのか? 妹よ……。

「私、今日だけで友達が二人もできるなんて凄い幸せ者だわ。ララちゃん、では改めてよろしくねっ」

「はいっ! こちらこそお願いします」


 こうして、俺達の仲は深まった? のである……。

 そんなわけで紆余曲折あった末、お姉さんも王都が目的地らしく一緒に行くことになった。



   ――□■□――



「では、罰ゲームは私の質問に答えてもらうということで」

 父上がそう言った。

 そう、俺はトランプ勝負に負けたのだ。

 しかもお姉さんに……。

 いやでも、人は見かけによらないって言うし、天然のフリしてるけど実は頭では計算しまくってるっていう奴なんて手だけじゃ数え切れないぐらいいるはずだし……お姉さんもその類かもしれんな。


 …………。

 でも何かそう思うと嫌だな。お姉さんには、天然っぽいキャラが素であって欲しい……。

 けど初めての友達って言ってたしな。まぁ、最初は良い印象を見せるために素じゃないってのも良くある話か。

 現に俺もそういうタイプだしな……。他人のことをとやかく言える立場じゃないか。


「ふぅー」

 不意に溜め息が出た。

「おっ、やっと観念したみたいだね」

「いえ、別に往生際の悪いこともしてないですけど」

「まぁまぁ、細かいことは置いといて。では質問タイムだ」

 何かテンション高いな……。


 父上が母上とお爺さまに目配せをする。

「結局の所さ……声を掛けたのは、クレイオの方から?」

 質問のチョイスがお姉さん絡みかよ。その話題引っ張りすぎやわ……。

「そこだけ、お願いする。今の内に関係を明らかにしておかないと、後から疑問が出た時に不都合が生じるからね」

 どんな不都合が生じるんだ!? 逆に訊きたいわ!

 ……まぁ、いいや。別にその程度のこと隠す必要もないし、どうってことないだろ。

「どちらから声を掛けたと言っても」と俺は、大してまごつかないで返答しようとし、念のためチラッとお 姉さんの方に目を向ける。

 そこには、若干顔を赤くして俯いている姿があった。

 えっ? どこかに恥ずかしい要素が入ってた?

 …………フムフム。あーなるほど。

 お姉さんの方から声を掛けてきたから、女性が先に話しかけるのは慎みがなかった。とか思っているんじゃ……。

 それで今更、慚愧の念におそわれてると……うん。そうに違いない。いくら5歳児でも一応男だしな。

 あれっ、俺って少し女心が分かってきてるんじゃね? ふっ、成長というやつか。

 よしっ、ここでさり気なくフォローしたらお姉さんの中での俺の株が上がるはずだ!


「僕からです」

「なるほど。クレイオからか。積極的いや、こういう場合は肉食系とでも言うのかな」

「ま、まぁ、そうなりますね」

 この前、肉食系とか草食系とかって言葉を説明したんだった……。

 やけに食いつきが良いなと思ってたんだが、まさかこういう時の為に!?

 早速、実践で使ってくるとはやりおるな。

 そんな事を考えてる俺に横にいるお姉さんが、声を発する。


「クレイオくん嘘は駄目だよっ。あの……本当は私の方から声を掛けたんです」

 

 えぇっっ! なんでフォローしたのに自分からバラすねん。

 後でこっそり「さっきはありがとね」とかでええのにっ! てかそれ期待してたのにっ!


「あれ、そうだっけ? 僕の方からじゃなく、お姉さんからだったのか」

 いつものおとぼけモードに入る俺。

「う、うん」

 だから、そこで恥ずかしがるんやったら、なんでっ――。いや、もういいや。

「まぁ、というわけで、実は草食系男子でした」

 と、俺は家族の方を向いて改めて言うのであった。




   ――□■□――



 ふっと目を覚ました。

 どうやら、また眠ってしまっていたようだ。

 俺は、まだ半分しか開いてない眼で窓の方を見る。

 開いたままの窓から、夕暮れの光が射し込んでいる。

 もう、夕方か……。

 今どの辺を走ってるのだろうか?

 そんな疑問が頭に浮かぶが、前の世界ならともかく、今は教えられてもサッパリ分からないだろう……。

 今度、地理でも勉強するか。

 それにしてもこの枕、肌触りが良いというか、柔らかいというか、妙にフィットするな。

 ――あれっ? てか俺、枕なんか持ち込んでたっけ?


 …………。

 

 いや、持ち込んでないな――じゃあ、何の上に頭を乗せてんだ?

 目線を下げて凝視する。

 ……あぁ……膝か……。


「あっ、起きたみたいです」

 見上げるとニッコリと笑顔のお姉さんがいた。

 俺は慌ててガバッと体を起こす。

「えっーと…………お姉さんが膝枕してくれてたの?」

「うんっ! そうだよ」

 普通に返してくる。

「ひ、膝枕……」

「うん膝枕だよ?」


 おいおい、膝枕って恥ずかしい行動というかパターンには入らないのか?

 何か、意識してる俺が恥ずかしくなってきたわ。


「ごめん。足とか痺れたりしてない?」

「大丈夫だよ。クレイオくんは軽かったから」

「あぁ……うん。それなら良いんだけど。お姉さん、ありがとう」

「どういたしましてっ」

 お姉さんとの、そんなやり取りが妙に恥ずかしくなって、目をそらして周りを確認する。父上とお爺さまが席を外しているようだった……。

「クレイオちゃん。いつまで、『お姉さん』だなんて他人行儀に呼んでいるの? もう友達同士なんだったら名前で呼び合うのが普通じゃないかしら」


 そう母上が話しかけてくる。母上の方を見るとララシーが膝枕をされて眠っていた。

 ……可愛い寝顔だ。


「そうなんですけど。どっちの名前で呼べばいいか……」

「「え?」」


 母上とお姉さんの声がハモる。

 ……しまった。言ってから自分の失言に気付いた。

 ヤバい。何か言われる前に先手を打たなければ。

「えーっとですね……。いきなり呼び捨てで呼んでしまうか、さん付けか、どちらにしようか迷ってたんですよ」


「あぁー。そういうのはよくあるわよね」

「へ、へぇー。そんなのどっちでもいいよ。好きな方で呼んでくれたら……」


 母上は普通に共感してくれたが、明らかにお姉さんの返答には動揺の色が見えた。


「お姉さんは、何て呼んで欲しい?」

「え? 別にエリビアって呼び捨てでも構わないよ」

 やはり偽名だ。

 お姉さんは何かを隠している。

 いったい、何を隠してるんだ?

 うーん。全く見当もつかない。

 けど、これを解決しないことには、俺達は本当の友達にはなれないだろう――。

 よしっ、まずは可能性を探るか。


「……あー。そうだ父上に訊かないといけないことを思い出しました」

「うん? 何を?」

「ちょっと少し――ごめんなさい話の途中で悪いんですけど、気になってムズムズしてきたので、続きは後でということでお願いします」

「う、ううん」

 お姉さんは、微妙な表情をする。

 こんな露骨に話をきられたら、誰でもこんな顔をするだろう。

「ちょっと少し」とかも、いかにも胡散臭い感じだしな。

 でも父上と話をする事で可能性が確信に変わるかもしれないという点においては、あながち嘘じゃないかもしれない。


「母上、父上は御者台に?」

「ええ、お父さまとディンブランと一緒にいるわよ」


 ディンブランは、馬車を運転してる人物であり、俺んとこの執事。父上を小さい頃から世話してたみたいだが、よく分からない。

 年齢は知らないが俺の予想した年があってるなら、見た目は若い方ではないだろうか……それに、なかなかダンディーな人だ。

 お爺さまとは昔の知り合いか顔見知りだったか何とか言っていたが、よく知らない。

 あまり興味がなかったので、聞いてなかった。

 ――ちょっとした廊下を抜け、俺は御者台に続く扉を開く。

 御者台は普通のとは違い四列席になっていて一番前が操縦する席、父上とお爺さまは一番後ろの四列目の席、扉のすぐ側にいた。


「おっ、クレイオどうしたんだい? 王都はもうすぐだよ」


 俺に気付いた父上が爽やか笑顔で声を掛けてくる。


「父上、少しよろしいですか? お訊きしたいことが……」

「うん? どうかしたのかい?」

「あの、お姉さんの事なんですけど」

「フォネルス家のお嬢さん?」


 俺の問いかけに、父上は首を捻る。


「えっーと。何て言うか――」

 さて、どうやって訊こうか。

「――少し、壁を作ってるというか」


「クレイオ、女というもんはな、そういんもんなんだ」


 横からお爺さまが、しゃしゃり出てくる。


「少し心を開いてないぐらいが、ちょうど良いんじゃよ。だなマルトスくん」

「えぇ、そうですね」

「へぇー」

「少し、クレイオには早かったかの。ハッハッハッ」


 てか、そんな話をしに来たんじゃねぇよ!

 まぁ、いい。もう一つ訊くか。


「もう一つ、変身術なんですけど……どうやって見抜くんですか?」

「クレイオは変身術を覚えているのか?」

 お爺さまが訊いてくる。

「今度、習得しようと思いまして……」

 変身術は初級呪文、中級呪文、上級呪文とあり、

 初級は顔を変えることができるだけ。

 中級は顔と身長など身体全般をイジれる。

 上級になると、姿や形に関係なく変化することができる。


「ほぉー。もう自分で習得しようとしてるのか、勤勉じゃな。どれ、また今度に儂が見てやろう」


 えぇ、めんどいなー。

 ほっといてくれや。


「わーいっ! ありがとうございます」

 俺は、本心とは裏腹に喜ぶ。


「クレイオ、変身術の見抜き方だったね」

 空気の読める父上が話を戻す。

「変身術ってのは、見た目では見抜けない。これは分かるね。まぁ、術者がある程度の魔力を有するのが前提なんだけど……。で、肝心の見破り方は魔具、解除スペルを使って見破るんだ。実際王都の城でも、そう言う類の物を使ってるしね。来訪客が来る度に使ってるよ。後は、そうだな……魔力量に圧倒的な差があれば見破れるなぁ。うーん……それぐらいかなぁ」


 なるほどな……。段々と見えてきた。

 けど、もしも――

 もしも俺の仮説が正しければ、このことに触れてしまって良いのか?

 やっぱり、お姉さんの秘密は怖いわ。俺がヘタレなのもあるけどさ。

「じゃあ最後に今日、起きてから獣人さん見ました?」

 父上とお爺さまは口を揃えて「見てないな」と答えた。


 もう俺の考えてた事が正しい気がしてきた。

「そんな難しい顔をしなくても、そんなに見たいなら王都に行ったらいるよ」と、父上。

「儂の屋敷にもいる」と、お爺さま。


 いや、二人とも馬車にいるよ。飛びっきりのが……。


「じゃあ、訊きたいことも終わったので僕戻ります」

「あっ、もうちょっとで着くって言っててね」

「分かりました」

 そう言って、俺は扉を開けて中に入り父上達がいる御者台を後にしたのだった。



お久しぶりです。頑張ります!

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