8.因果両断の刃
──様、起きてください。
(…あぁ、本当につくづくテンプレ通りだ)
暗い意識の底、俺はそこに身を横たえていた。不思議と起きたくなくなるほどそこは心地よくて、暖かかった。
まるで…極上のまくらのようだ……
ふかふかとしてて、柔らかで……
「勇者様、触りすぎです」
目を開く、こちらを覗き込むシロエの姿が見えた。銀髪の毛先が俺の頬を撫でて、くすぐったい。
自分の触れていたモノに意識を向けてみる、それはどうやら…太ももだったらしい。もちもちして、柔らかで。それでも戦う為の筋肉もしっかりとあるのがわかる。
「勇者様」
抑揚の無い声だが、どこか怒っているような雰囲気は伝わってきたので、慌てて身を起こした。
「…す、すまない」
「そういう行為は、せめて宿舎などですべきです、このような場所では致しかねます」
「へ……?」
なんだか…すごい爆弾発言な気がする…。なんだ?従者っていうのは主人の下の世話までするのか??
…異世界の倫理観は分からん……っていうか…流石に都合がよすぎるだろ。
ずっと疑問だ、この世界に感じる、絶妙な都合の良さが。気味の悪さすら覚えてしまう。
(…深く考えても、仕方ないのは分かってる…今はこの流れに身を任せれば、元の世界に帰れるはずだ……よな?)
(…というか……)
どうしよう、推しにそっくりな女にひざまくらされてた。やばい、頭が爆発しそう、え、やば(語彙力消滅)
〈…何をわけの分からないことを……〉
俺が物思いにふけっていると、空気の読めない声が頭に響く。あの剣の声だ。
「おいおい、今いいとこなんだよ、邪魔すんな」
「…勇者様、どなたとお話になっておられるので?」
「…え、聞こえてないのか?」
〈当たり前だろう、我は貴様の精神に直接語りかけている。その娘には聞こえはしまい〉
…つまり、コイツと話していたら、独り言を漏らし続ける不審者になってしまうって訳か……
〈…その点は気にせずともよい、我は貴様の思考を読む事が出来るからな、頭で考えた事は筒抜けという訳だ〉
は?!…俺にプライバシーってのはない訳か?
〈ぷら……?…まぁ、分からんがそう言うわけだ〉
「勇者様、お聞きしたいことが一点」
…あぁ、なんだ?、
…………………あれ、返答が帰ってこないな…なんで俺の顔を見つめているんだ?惚れたのか?……そんな訳ないよな。
〈…口にしなければ伝わらない、そんな当たり前すら忘れたのか?貴様は〉
「…うるせぇなもうーッ!…お前がはさまってるせいで訳わかんねぇ事になってんだよッ!!」
「……お聞きすべきではありませんでしたか…申し訳ありません」
「ああぁ、違う、違うッシロエさん!」
…くそッ…脳内会話と、実際に口に出す会話が混ざると…こうも混乱するものか……ッ!
〈…ハァ…仕方あるまいな〉
頭の中の声がため息をついたと思えば、突然淡い光の粒子が俺の身体から立ちのぼり始める。
「……勇者様、これは一体、なんの魔法でしょうか…」
「いやいや、知らん知らん…なんだこの光」
無数の光の粒子は、ふわりと舞い上がったと思えば、宙の一点にて集合し、丸い球体のような形を作り上げていく。
光の球体は、その大きさを、俺の背丈ほどの大きさになると、突如として眩い閃光を放った。
「…ッ、攻撃…ですか?」
シロエが目を覆い、俺も咄嗟に目を伏せたが、この光の質には覚えがあった。つい先程の事だ。
光が収まる頃に目を開く、そこには。
「…我が名は因果を断つ刃、世界にもたらされた神器がひとつである」
根は黒く、先端にかけて紅く染った長髪の少女が不敵な笑みを浮かべて、こちらを見つめていた。
白い光の粒子を裂くように、その姿は黒いミニドレスを纏っており。その胸元にある赤い宝石のブローチと、白い顔に爛々とする赫の瞳は。
まるで悪魔のように、輝いていた。




