4.初見なのに見た事ある
正しくそれは儀式であり、彼女が言葉を紡いだ事によるものなのか、黄色い光の粒子が辺りに漂っていた。それは彼女と俺の身体から生じているものらしく、美しかった。
(まるで…蛍の光みたいだ)
跪いた美女、その手を握る自分。そう思ってみればなんだが全てが非現実的だと思った。何もかもが偽りに思えたが、指先から感じる温かさと鼓動が
”夢”じゃないぞ。と伝えてきていると感じた。
そんな朧な事を考えていると、彼女は俺の手を離した。
「これで、契約は完了です」
光の粒子は薄らと消えて、神聖な雰囲気は絶えた。
初めて見る神秘的な光景に完全に気を取られていたが…この女…俺のスキルが効いていなかった…。
今までなら、少し触れた程度でも全身を悶えさせていたのに…彼女は眉ひとつ動かすことがなかった。
(…何か発動に条件が…?それとも、制限?)
可能性を考えはじめたらキリはない、今は考えてもどうしようもないだろう。
「うむ、主従契約が結べたのならば、次は聖剣の間へと行くがよい!」
満足そうな顔のおうさま、そして表情を動かさないシロエはこちらを見てくる。俺がその碧い目を見れば、彼女は聖堂の大扉を開いて進んでいく。
(…ついて行けばいいのか?)
コミュニケーション不足の従者に、何も分からないままついて行く俺。少ない情報をまとめるので必死だ。
聖堂を出ると、そこは正しく王城の廊下だった、白い石材の壁と豪華な調装、赤いカーペットの地面。RPGゲームで見た事のあるような…そんなテンプレじみている世界が広がっている。
(あの日プレイした主人公も…こういう景色を見てたんだろうか)
そんな、実際に見たことがある訳でもない光景に、妙な親近感やノスタルジーを覚える。
「勇者様、こちらです」
廊下の突き当たりからひょっこりと顔を出したシロエ、周りを見回していた俺はすっかり遅れていたらしい。
「あぁ、悪い」
軽く小走りでシロエの方へ向かう、突き当たりの先には、薄暗い階段が下へと続いていた。
(…おいおい、ダンジョンって感じじゃねーか)
白い壁が暗い灰色に見えるような階段は、少し不気味な雰囲気をかもし出している。ダンジョンの入口、その表現が正しく思える程に。
「な、なぁ、ほんとにこの先なのか?」
少し不安になって、俺はシロエにそう問いかける。
(俺は…ホラーとか…苦手なんだよ……)
こちらの顔を少し眺めて、彼女は表情を動かさずに静かに口を開いた。
「大丈夫です、何があってもお守り致しますので」
そういった彼女は、導くように階段を降りていく。揺れる髪がロウソクの光に照らされて、透けるように煌めいていた。
初めて見る場所、理解のできない不思議な世界。不安の残る全ての中。彼女の背中だけは真実のように思えた。




