3.白銀の女騎士
俺が手を離せば、男は荒い息を漏らして地面で跳ねる。周りは騒然としていたが、俺が見たもう1人の男は、慌てて女と男を肩に担いで連れていった。
俺は振り向いておうさまを見る、不気味な程関心も無さそうで。違和感を覚えた。
「…おうさま、あの女は?」
俺がそう問いかけると、少し口ごもってから答えた。
「あの者は、神託を身に宿した女じゃ、この世界では、神託を持つ者は異界の勇者のみ…そうでないのに神託を持つ者は…魂が呪いに蝕まれているのじゃ」
「わしらは、その呪いを浄化するために、ああやって神託をわしらの元で使わせているのじゃ」
……何いってんだコイツ…。俺は神託がどのようなものなのか分かっていないが…。
コイツらはただ神託を自分だけの都合のいいように使うために、さっきの女を利用してるってだけだろ…?
「つまり、奴隷ってことか」
「敬遠なる信徒じゃ、あの者も、わしらもな」
神について語るおうさまの様子は、すこしおかしかった。まるでその部分だけ狂気に呑まれているようで、最初のおうさまの印象とは、かなり異なっていた。
「…さて、この話はここまでじゃ」
「わしらは召喚した勇者に、一人伴をつけるようにしておる」
「…お主の伴にするのはー…」
「…シロエ、お主にしよう!」
王が名前を呼ぶと、一人の甲冑を纏った女が現れた。
銀色の髪を後ろで結っていて、歩く度にしっぽのように揺れている。まるで白百合のような美しさを持っている女だった。
立つ姿は正しく高潔な女騎士であり、その碧い目に俺は吸い込まれてしまいそうになる。
(…な、なんだあの女………)
(……神姫絶頂セクサニアの…マリー・ホワイトにクリソツじゃねーかッ!)
神姫絶頂セクサニアとは、俺が二番目に愛している伝説的エロゲであり、そのメインヒロインであり俺の最推しである、マリー・ホワイトに、そのシロエという女は瓜二つなのである!!
(あのストーリーの儚さ…冒険の始まりから物語の終局の時まで共に過ごした神姫の最期と、あの煌めく涙の美しさ、未だに脳裏にこびり付いて決して忘れる事のできない光景だ、俺はあの時初めて恋というものを理解したと思うし、人生の分岐路になったことはもはや言うまでもないだろう。)
そんな神姫に、シロエはそっくりだった。
「…かしこまりました、国王様」
シロエは深々と王に礼をすると、こちらへと向き直る。目の前に立たれると、俺よりも頭1つ分は背が高くて。見下ろされると少し怖く思えた。
ただその顔は、下から見上げても凛然とした顔で、まるでその肌は白雪のように透き通っている。
シロエが頭をもたげて、こちらを見る。
思わず、目を逸らしてしまう。気恥かしかった。
ただ、それだけだ。女性が怖いという訳ではない…
そんな言い訳を頭の中でしていると、シロエは俺の目の前で跪き、篭手を外して袂に置いた。
そして、スラリとした手を、こちらに開いて差し出してくる。
「…主従の契約を致します、手を取ってください」
…て、手を…か。でも、推しの姿をした女を目の前で情けのない姿にするのは憚られるというか…なんというか。
俺が狼狽えているが、彼女は無言の圧力でこちらを見つめてくる。その目に見られていると、緊張してしまって…もう俺は考えることすら出来ないようになっていた。
推しを目の前にして、限界化してしまったのだ。
俺はその手を取った、手はひんやりとしていたが柔らかくて、繊細ながらも。手に出来た豆の跡が消えない、戦う者の手だった。
「…契約は、成されました。これからあなた様が私の主人様です」
透き通った声が、まるで神事の鈴の音のように聖堂に響く。空気がきんと冷えたように、俺の身体は震えていた。
「この命に代えてでも、あなた様をお守り致します」
(…その、言葉は…)
奇しくも、彼女の言葉は、俺の推しの言葉と一言一句同じものだった。




