「調べれば分かること」をちゃんと調べずにいると、悪意の一端を自身も担うことになる危険性について。
サムネイルに釣られ、動画をクリック。
普段、格闘技系の動画をよく見るので、こんなものがオススメされたのだろうが、これがなかなかに「呆れた内容」だったので、ここで一節。
世界大会で三連覇をしているドイツ人の美人柔術家が、「日本の武道をコケにするために」来日。空手をしている日本人男子高校生との異種格闘戦に挑み、敗北。日本武道の素晴らしさに触れ、改心する―― といった、なろうも真っ青な異次元の設定。試合前には「万が一勝てたら一晩中何をしてもいいわよ」などと女性側が煽ったという、何とも「大きな釣り針」もサムネイルに記載。
驚くことにこの動画。投稿から、わずか一か月で「160万再生」以上もされているのだが、もちろん、こんな柔術家は「実在しない」。この動画チャンネルでは、海外の女性格闘家なら、ほとんどが「勝てれば夜お相手もしてあげる」という煽り文句で、他は中国、韓国、ロシアといった「分かりやすいヘイト対象国」のプロ格闘家たちが、日本男児たちに敗れていくといった奇想天外な動画がズラリ。夜のお相手系が「再生数を稼げる」とみると、相手国だけを変えた「同一内容の動画」を連続で何本も投稿。―― なんともはや、である。
さて、恐ろしいのは「生成AI動画」だ。
この手の「日本人は実はすごい!」系のコンテンツは、昔からクラウドアウトソーシングなどでも、山ほど依頼のあるジャンルで「ラ※サーズ事件」なども記憶に古くない。「フェイクでかまわない」から、特定国を貶め、日本の伝統・保守的な部分を賞賛するコンテンツの量産が目的の案件だが、「スポンサー」はいったい何者なのか?
これまでは、文字によるフェイク記事や、音声によるデマであったため、「単純なバカ」には、あまり刺さらなかったわけだが、今年はとうとう「精巧なAI動画」へと悪意が進化を遂げたものだから、背筋も寒くなる。
ただのバカだった知人が、最近ではTikTok経由で、これ系の動画にバカ洗脳され、「いやマジやねんて、一回動画見てみ」などと、しょっちゅうほざいてくるようになった。「一回見てみの前に、ちゃんと事実かどうか調べたんか?」と返すと「ちゃうねん、見たら分かるって、マジやから」などと、会話にならない返事をするので「とりあえず、うるさいから黙っとけ」で、打ち切るほかない。
悪意のない、ただのバカは、文字を読む習慣がないので、記事などによるフェイクは通用しない。音声に関しても、脳内で文章の整理ができないので、長いと巧く理解ができない。―― だが、動画ともなると話が変わって来る。しかも、今回のような動画を彼が見れば……いや、おそらくすでに何本かは見ているか。筆者が見た動画は、TikTokでも同一のものが、先に投稿されている(クローン作品の総合計数では、数億再生もされているとかマジかよ、Grokくん?)。
「調べれば分かること」
よくリテラシーについて語る時に出てくる「ファクトチェック」の概念であるが、こちらが理解せねばならぬのは「バカはそもそも自分で調べることを知らないからバカなのである」という点だ(=バカの馬鹿たる所以)。
フェイクニュースが消滅しないのは、リテラシーの問題ではない。バカは、たとえそれがフェイクであっても「自分たちにとっての真実であれば、虚偽でも一向にかまわない」 ―― ということに対する「こちら側の理解不足」によるところが大きい。
何か事件などが起これば、「どうせ犯人は外国人だ」と脊髄反射的にヘイトを垂れ流す連中が、ネット上には多数存在する。彼らのそれは「何の確証もないが確信している(=バカの脊髄反射)」「彼ら自身の願望」であり、実際に犯人が外国人であれば、大喜びし、日本人であった場合は「今回はたまたま」や「いや、コイツは日本人のふりをしている在日だ」などと言い、自己の無責任な発言をも煙にまく。―― 彼らには、絶対に「自身の誤りを認めることが出来ない」という典型的な特徴もある。
事実などはどうだってよく、それが「自分にとっての真実」であれば、別に現実でなくてもかまわない。―― というスタンスの人間が、近年、非常に増えてきている。おそらく一定の人生経験を経てもなお、人生に希望を持てない人間たちが、「現実の改竄」という逃避行動に走っているのだろうが、彼らはそういった行為自体にも「虚しさ」を覚えないのだろうか?
「自己の空白」から、他者に対する誹謗中傷やヘイトを行い、さらにどんどん渇いていく。誹謗中傷やヘイトをしている瞬間だけが、疑似的にも「生きている」という感覚が得られるので、騒いでいるのかもしれない。だが、それは自己の人格をも棄損する「自傷行為」にも、筆者には見えてならない。
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総括すると、いよいよフェイクもAI動画の登場により、以前は、5ちゃんなどを楽しむ、陰気なバカにしか刺さらなかったものが「無邪気なバカをも刺せるフェーズ」にまで突入した、といったところか。
人間は何事も自分を中心に物事を考えてしまう。そのため、これまでは「そこまでバカなやつは、さすがに少数だろう」と、ある程度は楽観的にいられたのだが、「マスにまで届くフェイク」の登場で、いよいよ危険水域に入ってきたな、とブルリ。
調べれば分かることについても、「調べろということ自体がナンセンス」なのも理解している。なので、これからはYouTubeのような、しっかりとしたサービスには、動画内容のファクトチェックもAIで行い、その動画に対する「警戒度」が表示される機能の実装でも期待したいところである。
AI動画によって、「再現VTR」のようなフェイク動画が、テレビよりも高いクオリティで作られてしまうと、「自分にとって都合のよい真実」であれば、あるいは「故意に自分も乗ってしまうのではないか」と怖くなってきた話でもある。
理性的でない人間は、事実よりも「自分にとっての理想の真実(=虚構)」を優先する。そして、理性を保つための度量を年々すり減らしていっているのが、現代日本の風景ともいえる。




