夜の裏側
掲載日:2026/05/24
洗浄/
ほこりも
汗も
足あとも
化粧も
つり革も
喧騒も
べろりと剥がすように
洗う
泡に浮かぶ
本日のハイライト
掻き消すような
水圧で
22時 洗面所/
骨も
肉付きも
皮膚も
伸びたり
減ったり
たるんだり
増えたりしながら
鏡のなかで
私だ、っていう
私なんだ、っていう
ドライヤー/
熱風に目をとじれば
灼熱の砂漠
耳に障る唸り声
砂嵐の中 佇んで
過ぎ去るのをじっと待つ
吹き上がる髪の軽くなびくまで
真実/
白い
シートパックの顔
ぽっかりと浮かび上がり
ひたひたと
濡れた夜を吸っている 肌
バラードを聴かせて/
彼女のことはよく知らない
わたしが生まれるまえに
彼女は死んでしまったから
彼女の歌をよく聴いている
わたしが死ぬ前に
わたしは彼女と出会えたから
彼女は煙草の匂いが染み付いたライブハウスで
丸椅子に腰かけ足を組み
マイクに囁くように 歌っている
わたしはクーラーの効きの悪い寝室で
へたれた枕に顔を半分埋め
彼女の歌に 満たされている
彼女を照らす
一筋のスポットライト
カーテンから漏れる
淡い月明かり
彼女がバラードを歌っている




