第8話 笑顔と揺れる影 sideりく
中学の頃から仲がいい、緋山なつき。
あいつはなんでも卒なくこなすし、誰にでも優しくて。
嫌いなやつなんているのか?ってくらいのいいやつ。
女子にもモテモテで、事あるごとに告白されていたけど——
今までOKしたことなんて、一度もなかった。
「好きな子とか、いねぇの?」
ちょうど2年前、入学して少し経った頃に聞いてみたことがあった。
「好きな子はいないけど…
いつか俺のこと無邪気に愛してくれて、一緒にいて楽しいんだけど落ち着くような…
そんな子と出会いたいなって思う。」
そん時は「何言ってんの?」って笑ってたけど、
——あいつ、本気だったんだろうな。
空を見上げながら話すその横顔は、どこか遠くを見つめてるようで。
(まるで、過去にそんな“誰か”がいたみたいな顔だった)
そんななつきは最近、携帯を見てはニヤニヤするようになった。
かと思えば、真剣な顔で何かを打っていたりもして。
(……本気なんだな。あいつをここまで夢中にさせる子——見てみてぇな)
「なーつきくん!そのニヤけた顔はどうしちゃったのかな〜?
この間はフラれたって言ってなかったでしたっけ〜?」
本気なのはわかってたけど、とりあえず茶化してみた。
「来週の休みに…水族館でデートすることになった。
でも、まだ付き合ってないけどな。」
「それって…けっこう脈アリなやつじゃん?」
「…どーだろうな。だといいけど」
なつきは、嬉しそうに笑って、それでもちょっとだけ寂しそうな目をした。
あいつ、きっと不安なんだ。
大事にしたいほど、臆病にもなるのかもしれない。
そのとき、俺の視界の端に見覚えのある姿が入った。
教室の後ろの方……壁にもたれかかるようにして立ちながら、耳を澄ませるようにこちらを見ていたのは……
(……あやね。聞いてたな)
視線を交わさないように目を逸らしたが、背筋に冷たいものが走った。
あやねがなつきを見るときの目は、いつもちょっと普通じゃない。
あれは恋なのか、執着なのか。それとも——
気のせいだと笑いたい。
でもーー
なぜかその時、胸の奥で小さなざわつきが鳴った。