第7話 あたたかい約束
「……ねえ、レオン様。今日ね、図書室でお花の本を読んだの。
お花には、一つひとつ意味があるんですって!」
ソフィーは目を輝かせながら、薔薇、ひまわり、ガーベラ——
本で知った花言葉を嬉しそうに語っていく。
「……レオン様には、ひまわりを贈りたいです」
「ふふ、どんな意味かな?」
「それは……内緒ですっ」
そう言って小さく笑ったソフィーは、少し照れたように続けた。
「……本物を見てみたいな。レオン様と、一緒に」
その言葉に、レオンはわずかに目を細めて微笑む。
「……約束だ。いつか連れて行ってやろう。
たくさんのひまわりが咲く場所へ」
そして彼はベッドに腰を下ろし、そっと腕を広げた。
「こっちへおいで、ソフィー」
ためらいながらも、ソフィーはその胸に身を預ける。
膝の間にすっぽりと収まり、背にまわされた手のぬくもりに心がゆるむ。
「おまえが笑ってくれるなら、どんな世界でも見せてやる」
その低くやさしい声に、ソフィーの胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
ーーー目を覚ますと、薄い朝の光がカーテン越しに差し込んでいた。
(……また、あの夢)
昨日の帰り道。なつきくんと歩いた時間。そして額に触れた、あの温もり。
(似てる……でも、なつきくんはなつきくん。あの人じゃない。なのに……)
少しだけ胸が締めつけられる感覚に、私はそっと布団を握りしめた。
大学に着いてすぐ、スマホに通知が届いた。
なつき《おはようございます!今日は寝坊しませんでしたか笑?》
思わず笑みがこぼれる。
さや《おはよう。実は今日も寝坊しちゃったんだよね笑 最近起きれなくて…》
なつき《モーニングコールはいかがですか笑?》
さや《無理無理無理っ!寝ぼけて絶対変なこと言っちゃう!》
なつき《絶対可愛いのにー。昨日会ったのにもう会いたいです笑》
(私も…また、会いたい――心からそう思ってる)
恥ずかしくて、素直になれなくて、その一言は送ることができなかった。
すると私の返信を待たず彼からのメッセージが。
なつき《さやさんがよければ、次の休みに水族館か遊園地でもいきませんか?》
スマホの画面を見つめながら、私はふわりと微笑む。
指が自然と動いて、私はメッセージを打ち始めた。
さや《今週はバイトあるから来週ならいけるよ。………水族館のほうがいいかも。》
なつき《やった!じゃあ来週の土曜日、空けておいてくださいね!》
スマホをそっと閉じて、私は目をつぶる。
胸の奥に、ひまわりのようなあたたかい光が灯るのを感じながら――。
記憶のカケラが少しずつパズルのように繋がってゆくーー
あたたかな予感だけが、胸の奥に静かに灯っていた。