第5話 運命のイタズラ
カフェの窓際の席に、やわらかな夕日が差し込んでいた。
私はミルクティーを一口すすりながら、向かいに座るなぎさ先輩の表情をそっとうかがう。
「それで、さやちゃんは……どうなの?その、なつきくんのこと」
先輩はいつもの優しい声で、でもどこか見透かすように問いかけてくる。
「どう、って……うまく言えないんですけど」
さっきまでのLINEのやり取り。彼の笑顔。
初めて会ったはずなのに、なぜか懐かしく感じてしまうあの時間。
「初めてなのに、あたたかくて。
心がぎゅってなるんです。変、ですよね…私」
「変なんかじゃないよ」
なぎさ先輩は、ふっと微笑んだ。
「大事な誰かに出会ったってこと……なのかも。」
その目は、どこか優しく、でも少しだけ遠くを見ているようだった。
「でもね、急がなくていいと思うよ。
まだ出会ったばかりでしょ?ゆっくりで、いいの」
「……そうですよね」
私は少し笑ってうなずいた。
「とりあえず、ごはん頼みます?」
先輩が頷いたのを確認して、私は呼び鈴を押す。
「……でも、会いたい、そう思っちゃってる自分がいるんですよね。」
その言葉が口からこぼれたちょうどその時――
「おまたせしました……っ!?」
その声に顔を上げた私の視界に、明らか驚いている男の子がいた。
「……っえええええっ?!」
まさかの、なつきくん本人だった。
(……今の、聞こえてないよね……?)
「な、なつきくん…え?ここで…?」
「バイトしてます。また会えるなんて嬉しいな。」
余裕を取り戻したなつきくんが微笑んでいる。
「ロコモコとオムライスでよろしかったですか?」
私は首を縦にふる。
なつきくんは仕事へ戻っていった。
「せ、せ、先輩!な、なつきくんがっ!」
「ふふ。あの子がなつきくんなのね。
中々かっこいい子じゃない。
…神様はゆっくりさせてくれないみたいね。」
と笑って言われる。
しばらくして注文した料理が運ばれてくる。
「お待たせしましたっ!オムライスとロコモコです。
さやさん、お友達とご飯中に言うことじゃないんですけど…一緒に帰ってもいいですか?」
「なっ!えっ、でも…。」
「じゃ終わるまでここで話してるわね。」
答えられない私の代わりになぎさ先輩が答える。
「ちょっ…まっ「やったっ!じゃ!残りもお仕事頑張ってきます!」
なつきくんは喜んで仕事に戻っていった。
「なぎさ先ぱ〜い…。」
「ゆっくりでいい、って言ったけど…
こうやって何度も出会うってことは出会うべくして会ったんじゃないかな?
直接話す方がいいんじゃないかなと思って。」
「……ありがとうございます。」
なんでもわかってくれる、受け止めてくれるなぎさ先輩には感謝しかなかった。
その後は大学のことや他愛のないこと、いろんな話をした。
「さやさん!えっと…」
「私は綾瀬なぎさです。」
「なぎささん、お2人ともお待たせしました。」
なつきくんのバイトが終わって私たちは会計をして店を出る。
「じゃ、さやちゃん、また大学でね!
なつきくん、さやちゃんのことよろしくお願いします。」
「っ、なぎさ先輩!……またご飯、行きましょうね。」
なきさ先輩は穏やかに笑いながら手を振って帰っていった。
「さやちゃん、運命ってあると思うよ。がんばれ。」
小さく呟いたなぎさ先輩の声は私には聞こえることはなかった。
「さやさん、急にすみませんでした…。
さて行きますかっ!」
「うん…。」
2人で帰り道へと歩き出す。
私の胸の奥では、また小さな鼓動が鳴り始めていた。
でも、今は……少しだけ、このドキドキに身を任せてもいい気がした。