第4話 知らない表情 sideあやね
教室の窓際。
なつきはスマホを見つめて小さく笑っていた。
……そんな顔、見たことない。
(あの朝の女?
なんで、そんなに嬉しそうにするの?)
私はその表情を横目に、ノートを見るふりをして盗み見る。
(いつもは、私が隣にいた。
誰よりも、私が近くにいて誰よりもなつきのこと知ってるはずなのに――)
お昼ご飯を買ってきたりくがなつきを肘でついている。
「なあ、お前さぁ…またその顔してる。あのなつきがなぁ…
今までどんだけ告られてもOKすることなかったのにな!」
「……っそうだけど。」
なつきは少し照れながら笑っている。
(……嘘。信じられない。
なつきが、あんな顔をするなんて)
私は耳を澄ませて会話を聞く。
「で?その子ってどんな子なん?」
「うーん…………
初めて会ったのに懐かしい感じがして…自然と目が離せなくて。
一緒にいると、ドキドキして心が締め付けられるんだけど、すごく落ち着くっていうか……」
(……“懐かしい”?)
スマホの画面をもう一度見るなつき。
その目が優しくて、嬉しそうで――
私には向けてくれたことのない光が宿っていた。
(誰よ。私よりも先に、なつきの“特別”になろうとしてる……)
ーーー絶対、認めない。
あんな人に負けるなんて、冗談じゃない。
なつきは、私のもの。
今までも、これからも――ずっと。
机の上に置いた手がぎゅっと握りしめられていることに、自分でも気づかないまま。
私は視線を上げて、なつきの背中を見つめる。
誰にも奪わせない。そう、心の中で強く呟いた。