第26話 前世編EP3-揺れる気持ち
朝の光が石造りの城をやわらかく照らし、回廊に淡い影を落としていた。
ソフィーは大きな柱を布で磨きながら、隣で静かに掃除をするダイアナにそっと声をかける。
「……ダイアナ、ありがとう。」
「ううん、レオン様お優しい方だったわね。」
ふたりは小さく笑い合う。
昨夜でレオン様が優しい人だというのはわかったけど…
まだ…カラダを交わるのは怖かった。
その空気を裂くように、窓辺からカミラの声が飛んできた。
「…2人とも甘いんじゃない?」
カミラは無駄のない動きで窓を拭きながら、冷たい視線を投げてきた。
「ダイアナ、本気で選ばれる気、あるの?」
「もちろん、私もソフィーもレオン様と結ばれるためにいるわ。
でも……気持ちも大事だわ。」
カミラはふっと鼻で笑った。
「ふーん。でも私はもうあの方と交わったわ。」
ソフィーの手が、布ごとピタリと止まる。
「それって……レオン様と……」
「ええ。私はあの方との子を宿して結ばれるのよ。心なんて…後からついてくるものよ。」
カミラは淡々と言い放つ。
「彼が誰を選ぶかは知らない。でも、結ばれるには子を宿さないとなんだから。」
強い口調と裏腹に、その瞳にはほんのわずかな陰が見えたような気がした。
「……でも、私は」
ソフィーがゆっくりと布を動かしながら、ぽつりと続ける。
「……優しいレオン様を信じたい。」
「ソフィー、あなたはそれでいいのよ。
焦らなくていいって、言ってくれたじゃない?」
「うん。……少しずつでいいって」
昨夜のレオン様の言葉が、今も胸の中でやさしく響いていた。
使命ではなく、心を見てくれたあの瞳。
怖い気持ちを否定せず、寄り添ってくれたぬくもり。
(わたしも……向き合えるようになりたい)
その思いが、私を強くしてくれるような気がした。
「カミラ…まだまだ怖いけど…それでも、レオン様と一緒にいたい、そう思ってるよ?」
カミラは目を伏せ、そしてわずかに肩をすくめる。
「……お子ちゃまね。」
それ以上は言葉はなかったけど、彼女の背中には、言葉にできない思いがにじんでいた。
3人は再び黙って掃除を続ける。
けれど、その沈黙は昨夜までのものとはどこか違っていた。
同じ使命を背負ったソフィーたちの…まだ交わらない想いの糸が、少しずつ、ゆっくりと、動き出していた。




