第25話 前世編EP2-優しき夜
夜の帳が静かに降り、城の空気が昼とは違う緊張感に包まれ始めたころ——
ソフィーは控えの間で膝を抱えていた。
扉の向こうから足音が近づいてくるたび、心臓が跳ねる。
やがて、使用人の女性が小さな声で告げた。
「……ソフィー様。時間です」
その一言に、ソフィーの手が小さく震える。
(今夜……私が……)
“使命”だとわかっていても、気持ちがついていかない。
できるなら逃げ出したい——けれど、それは許されない。
深く呼吸を整え、震える手で扉を開けると、そこには月明かりを背にしたレオンの姿があった。
「こんばんは、ソフィー」
凛とした声……でもどこか柔らかく、初めて出会った時よりも少しだけ優しい響きがあった。
彼女が黙ったまま立ち尽くしていると、レオンは静かに言った。
「おいで?」
手招かれてイスに腰掛けたソフィーは、張りつめていた気持ちが少しだけ緩むのを感じた。
「……無理をしなくていい。今日はただ、話をしよう」
「……はい」
その小さな声にも、レオンはしっかりと耳を傾けてくれた。
テーブルの上には二人分のハーブティーと、香ばしい焼き菓子が用意されている。
そのささやかな心遣いに、胸が少し温かくなった。
「……初めて会った時、とても不安そうな顔をしていたから。少しでも気が紛れればと思って用意させたんだ。」
「……ご、ごめんなさい」
俯くソフィーに、レオンはゆっくり言葉を続けた。
「……どうしても怖いなら、しばらくはダイアナと3人で過ごすようにしようか?」
思いがけない提案に、ソフィーは驚いたように目を見開いた。
(……そんなふうに、私の気持ちを気にかけてくれるなんて)
「……ありがとうございます」
小さく返すと、レオンの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
冷たいと思っていた黄金の瞳が、今はどこか優しく、柔らかく感じられた。
胸の奥に張り詰めていた糸が、少しずつほどけていく。
「……はじめて会った日は緊張していてね。怖かっただろう?」
「………はい。でも……レオン様が優しい方だって……もう、わかってます」
彼と目が合うたびに、少しずつ怖さが薄れていくのを感じた。
その夜、レオンはソフィーとともに、ダイアナの部屋の前まで足を運んだ。
「ダイアナ、しばらくの間はソフィーと3人で過ごそうと思ってる。明後日の君の番も、同じようにできたらと思って」
「レオン様……ご配慮、感謝申し上げます」
落ち着いた声で応えるダイアナの隣で、ソフィーはそっと目を伏せる。
「ソフィー、焦らなくていいよ。……少しずつでいいからね」
そう言いながら、レオンはそっとソフィーの頭に手を置いた。
大きな手が、優しく髪を撫でる。
その温もりに、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
使命のためではなく、心に寄り添ってくれるレオン様。
姉のように優しく包み込んでくれるダイアナ。
この場所に来て初めて——ソフィーは、少しだけ安心というものを知った気がした。




