第22話 微かな灯の先に sideなつき
「……さや?」
祭りの人混みの中、彼女の手がスルリとすり抜けた。
一瞬のことだった。
人波に流されて、彼女の姿が見えなくなった。
「さやっ!」
名前を呼んでも返事はない。
耳に届くのは笑い声と屋台の呼び込みばかりで、焦りだけが胸に積もっていく。
(この辺りにいるはずだ。どこに——)
息を切らしながら、俺は人の流れを逆らって進んだ。
脇道、店の裏、細い路地……周りのすべてを目で追いながら。
そのとき——
「……やめてっ!」
かすかに、だけど確かに聞こえた。
その声に心臓が跳ねる。
無我夢中で声の方へ走った。
狭い路地の奥、薄暗がりの中——その光景が目に飛び込んできた。
「……なに、してんだよ」
俺の声が震えたのは、怒りのせいだ。
いや、恐怖かもしれない。
さやの浴衣は乱れ、胸元が露わになっていた。杉山は彼女に顔を埋めようとしていた。
次の瞬間、俺の拳が杉山の顔面をとらえていた。
「っ……! なにすんだよ!」
「こっちの台詞だ!」
さやが小さく肩を震わせているのが見えた。
俺は彼女のもとへ駆け寄り、そっと抱きしめる。
「ごめん……遅くなって」
彼女の体がびくっと震えた。
俺はそっと、羽織っていた上着を脱いで彼女の肩にかけた。
「大丈夫、もう……離れないから」
その言葉に、さやが小さく頷いた気がした。
背後で、杉山が叫んだ。
「返せよ! さやちゃんは、俺のなんだ!」
「……は?」
怒りが再びこみ上げる。
「ふざけんな。さやは俺のだっ!」
言葉と同時に、もう一発殴ろうと拳を握った瞬間、杉山は顔をこわばらせて後ずさり、そのまま逃げ出した。
路地の奥に彼の足音が遠ざかる。
静寂のなか、さやの小さなすすり泣きだけが響いた。
彼女を見ると、浴衣は乱れ、歩くのも厳しい状態だった。
俺は彼女をそっと抱き上げる。
お姫様抱っこの体勢に、彼女が小さく身を縮めた。
「ごめん。少しだけ、我慢して」
さやの返事は待たず、前だけを見て歩く。
周囲を見渡し、人の視線から遠ざかるように歩き出す。
目に入ったのは、やわらかな灯りが漏れる建物。
誰にも邪魔されず、彼女を休ませられる場所。
迷わず、その場所に入った。
部屋に入って、そっと彼女をベッドに座らせる。
「……大丈夫?」
小さく頷く姿に、胸が締めつけられる。
俺は彼女から少し離れて、向かいのソファーに腰を下ろした。
「ごめん。……もっと早く見つけられてたら」
肩にかけた上着がわずかに揺れて、彼女の手がその布をきゅっと握る。
「俺……さやのこと、守りたいって思ってたのに……」
伝えたかった想いは、こんな形じゃなかった。
けど、今はそばにいることしかできない。
——それでも、ちゃんと伝えたい。
守るって、決めたんだから。




