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第21話 声にならない叫び


夜空に大輪の花が咲くたび、観客の歓声があがる。


なつきくんの隣で花火を見上げながら、私はずっと笑っていた。

屋台で買ったかき氷を一緒に食べて、手が冷たくなったら、彼がそっと握ってくれて。


こんなに楽しい夜は、久しぶりだった。


「……来れてよかった」


小さくつぶやいた私の言葉に、なつきくんが「俺も」と笑った。

その笑顔が、心の奥にじんわりと広がる。


(このまま、ずっとこうしていたい)


やがて、最後の大きな花火が夜空を焦がすように打ち上がり、人々が一斉に拍手を送る。

光の余韻を残しながら、祭りの終わりを告げる空が、ほんの少しだけ寂しかった。


「そろそろ帰ろっか」


「うん……」


人の波がぞろぞろと駅へ向かい始める。私たちもその流れに沿って歩き出す。

――その時だった。


「……あっ、すみません」


誰かと肩がぶつかり、私はバランスを崩して振り返る。


「……杉山さん……?」


浴衣姿の私を見下ろすその男は、バイト先の先輩・杉山さんだった。


「やだ、偶然だねぇ、さやちゃーん」


彼の声に、ぞわりと背筋が粟立つ。


「あ、あの……すみません。今、友達と……」


「え? いたっけ?」


そう言って笑う彼の手が、私の腕を掴んだ。

その瞬間、人混みの波に押されて、なつきくんの姿が視界から消える。


「っ、離して……!」


「………。」


無言で半ば無理やり腕を引かれ、私は細い路地裏へと連れていかれた。

遠くでまだ笑い声が聞こえるのに、ここだけが別世界のように静かで――怖かった。


「……さやちゃん、浴衣かわいいね」


「杉山さん、離れてください! なつきくんのところに戻らないと!」


「なつき? ああ、あの男ね。しつこそうだもんね。……本当は好きじゃないのに付き合っちゃったんでしょ?」


「えっ……!?」


「俺が早くさやちゃんに好きって伝えてたら、あんな男なんかと付き合わなかったよね?」


声が低く、じっとりとまとわりついてくるような口調に、身体が震える。


「わかってるんだよ。さやちゃんも俺のこと好きなんでしょ?

目が合うと笑ってくれたもんね? よく話しかけてくれたし」


「……そんなの、バイト先で普通に……接してただけで……」


逃げたい。でも、彼の手が強くて、身体が動かない。


「ねぇ、もっと近くで顔、見せてよ」


そう言って彼が体を寄せてくる。

壁に背中を押しつけられ、私の胸元に手が伸びた。


怖くて、息ができない。


浴衣の合わせが引き剥がされ、ぞっとする空気が肌に触れる。

胸元が乱れ、恐怖が全身を支配する。


「さやちゃん……好きだよ……」


「やめてっ!」


絞り出すように、やっと声が出た。

それでも震えが止まらない。


(なつきくん……助けて……!)


心の中で、必死に叫んだ。



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