第20話 夜空に忍ぶ影
あの出来事から数日。
なつきくんは朝の時間が合うときはお迎えに来てくれ、帰りは大学まで迎えにきてくれて、一緒に帰るのが日課になっていた。
私の毎日はほんの少し、日常に戻りつつあった。
そんな私に、なつきくんがある提案をしてくれた。
「そういえば次の土曜日、花火大会あるよね? 一緒に行こ!」
「えっ、花火大会?」
「うん。水族館行ってから勉強デートはしたけど…遊び行ってないし…」
「……うん、私も行きたい!」
そのときの彼の笑顔が、胸に灯をともすようにあたたかくて…彼と過ごす毎日に、不安が少しずつ小さくなっていった。
◇◇◇
花火大会当日。
鏡の前で少しドキドキしながら浴衣を着ていく。
ーーーピンポーン。
待ち合わせの時間ちょうどに、インターホンが鳴った。
玄関のドアを開けると、彼は目を見開いて固まっていた。
「……さや?」
「え、変じゃない……?…かな?」
おそるおそる尋ねると、彼は一呼吸置いて、
「……やばい。めちゃくちゃ可愛い!」
顔を真っ赤にしながら、ぽつりと呟いた。
「っ、そんな……」
照れくさくて下を向くと、彼がそっと手を伸ばして、指先で私の髪飾りを整えてくれた。
「いつもかわいいけど、今日は……もっとかわいい。」
「……ふふ、ありがとう」
2人で手をつないで歩き出す。
会場の近くには屋台の灯り、たくさんの人混み。
どこを切り取っても、夏らしくて、夢みたいで。
「さや! 射的やろうよ!」
なつきくんは、いつもより少し少年のようで、私は何度も笑った。
(——この時間が、ずっと続けばいいのに)
風が少しだけ強くなって、浴衣の裾が揺れる。
夜の空気は熱気を孕みながらも、どこか夏の終わりを感じさせる切なさがあった。
彼の手のぬくもりが、心を穏やかにしてくれる気がして、私はただこの時間を信じたかった。
でも……気づかないふりをしていたのかもしれない。
この幸せな時間の裏側に、忍び寄る影があることに。
ーーー夜空に溶けた微かな視線は、静かにふたりを追っていた。




